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豊富にあった火星の水はどこへ消えたのか

登録:2021-03-20 03:17 修正:2021-03-20 07:51
40億年前の火星には大西洋ほどの量の水が存在 
大気脱出理論だけでは今の火星は説明不可能 
NASA研究陣「鉱物の中にかなりの量が閉じ込められている模様」
水の消えた現在の火星。火星軌道を回る探査機が撮影した約100枚の写真を合成したもの=NASA提供//ハンギョレ新聞社

 火星には40億年前まで、地球と同様に湖や川、海を形成するほど水が豊富にあった。そう科学者たちは推定している。これまでに確保された地質学的証拠を基にした分析によると、当時の水の量は、概ね水深100~1500メートルで火星全体を覆うことができるほど。これは大西洋の海水の半分に当たる量だ。

 しかし、現在の火星の表面には水が全く見られない。観測資料によれば、ごく一部が火星の地表面の下に氷として存在すると見られる。それほど豊富だった火星の水はどこへ消えてしまったのだろうか。いまだに解けていないこのミステリーを説明する既存の有力な仮説は、水が宇宙に飛んでいってしまったという大気脱出理論だ。

 この理論によると、火星が太陽に近づいた時の火星地表面の温度上昇やチリの暴風などの影響で、水が水蒸気となって大気層へと上がり、地球のように磁場の保護を受けられずに、宇宙に流失してしまったという。しかしこの仮説だけでは、あれだけの大量の水が消えた理由を説明しきれないというのが問題だった。

 火星探査車「パーサヴィアランス」の本格的な活動を前に、米航空宇宙局(NASA)とカリフォルニア工科大学の科学者たちが、火星の水が地中に隠されている可能性を提起し、その量を推論した新たな研究結果を発表した。

水が豊富だった数十億年前の火星の想像図=NASA提供//ハンギョレ新聞社

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鉱物に閉じ込められている量は当初の水量の30~99%と推定

 研究陣が16日に国際学術誌「サイエンス」に発表したこの仮説は、火星探査機、探査車、隕石などから収集したデータと、現在の火星大気の化学組成、特に重水素と水素の割合を調査した結果を基にしたコンピューターシミュレーションから導き出された。

 水は酸素と水素からなるが、すべての水素原子が同じというわけではない。大半の水素原子の原子核は1つの陽子から成るが、ごく一部、約0.02%の水素原子は、原子核が陽子と中性子から成っている。これを重水素という。中性子のない水素(軽水素)は重水素よりも簡単に火星の重力から脱しうる。このため、火星の大気には重水素がより多く残ることになる。研究陣はしかし、現在の火星の大気の重水素の割合では、大気脱出による水の損失量をすべては説明できないと明らかにした。

パーサヴィアランスが探査予定のイェゼロ・クレーターのデルタ地帯=NASA提供//ハンギョレ新聞社

 研究陣が注目するもう一つの水損失メカニズムは、火星の地殻に分布している鉱物の中に水が閉じ込められてしまったというものだ。

 水と岩石が出会うと化学的風化作用が起き、粘土と含水鉱物(hydrous minerals)が形成される。含水鉱物とは、鉱物の結晶の中に水分子が入っている構造を言う。地球の角閃石、ゼオライトなどは、このような化学作用で生まれた含水鉱物だ。

 しかし、地殻活動が活発な地球では、古い地殻がマントルに溶け続け、地殻プレート境界には新しい地殻が形成される。この過程で、火山活動を通じて水をはじめとする様々な物質の分子が再び大気に放出される循環が起きる。しかし、火星には地殻変動を起こす地殻プレートがない。したがって表面が一度乾いてしまえばそれで終わりだ。

 研究陣は、コンピューターシミュレーションの結果、初期の火星の水の30~99%が鉱物に閉じ込められた形で地殻に埋まっている可能性があることを明らかにした。水の推定量がこれほど広いのは、現在の火星の地殻の水分含有量についての情報が十分でないためだ。

火星探査車キュリオシティが着陸したゲール・クレーター周辺=NASA提供//ハンギョレ新聞社

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30億年前に今日のような荒涼とした火星となる

 NASA火星探査プログラムの主任科学者、マイケル・メイヤー博士は「地球の含水物質は地殻プレート活動を通じて循環し続ける。しかし複数の探査機の測定データから考えると、火星の含水物質は循環せず、地殻に閉じ込められているか、宇宙に飛んでいってしまったと考えられる」と述べた。

 研究陣は、大気脱出と地殻風化作用が累積し、10億年が過ぎた30億年前には、今日のような荒涼とした惑星へと変貌しただろうと推定する。

 論文の主著者であるカリフォルニア工科大学のエバ・シェラー博士(惑星地質学)は「火星の地殻の含水鉱物の歴史は30億年を超えることは確実」とし「これは、それ以前の火星が生命体が住むのに適した所だったということを意味する」と述べた。

 火星に到着して18日(米国時間)で1カ月を迎えた探査車パーサヴィアランスが生命体の痕跡を見つけるには、30億年前の含水鉱物から成る岩石を探し出し、収集しなければならないということだ。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/987449.html韓国語原文入力:2021-03-19 08:59
訳D.K

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