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[映画レビュー]韓国版「ジョゼ」は成熟した30代…より深く、より痛みのある物語

登録:2020-12-11 11:45 修正:2020-12-11 13:53
日本映画のリメイク作『ジョゼ』12月10日公開
映画『ジョゼ』のスチールカット=ワーナーブラザースコリア提供//ハンギョレ新聞社

 「なぜ、ジョゼを?」

 キム・ジョングァン監督が、2004年に韓国で公開された日本映画『ジョゼと虎と魚たち』(日本では2003年公開)をリメイクすると言った時、周囲からは何度もこう聞かれた。そこには一様に心配の色があった。当然だった。いまでも熱烈な支持を得ている原作を超えるリメイク作は不可能に思われた。

 原作の関係者から初めてリメイクの提案を受けた時、キム監督はプレッシャーを感じて断った。しかし、原作の魅力である「人に対する深い視線と人間愛」は、キム監督も常に扱いたかったテーマだった。これを韓国の状況に合わせ、自分だけのカラーで語ることができそうだった。ついに危険と負担を押し切って挑戦することに決めた。そして出来上がった結果物が、今月10日に封切られる『ジョゼ』だ。

映画『ジョゼ』のスチールカット=ワーナーブラザースコリア提供//ハンギョレ新聞社

 下半身に障害を持つジョゼ(池脇千鶴)と大学3年生の恒夫(妻夫木聡)の愛と別れを淡々とした視線で描いた原作と、ストーリーの大枠は同じだ。ただし「原作が作った道をそのままたどるのは、私にも観客にも意味がない」と思ったキム監督は、自分なりのアレンジをした。恒夫と20代前半の同年代として出ていた原作のジョゼとは違い、韓国版のジョゼ(ハン・ジミン)は大学卒業を控えたヨンソク(ナム・ジュヒョク)より年上の30代半ばの役だ。「もっと深みがあり成熟した人物」として描きたかったからだ。

 韓国版のジョゼは、肉体的な障害だけでなく内面にも深い傷を抱えている。長い間孤立したまま暮らしてきたため、自分を大切にし愛することができなかった。原作のジョゼよりもずっと暗く、寂しい人物だ。外界にあこがれながらも、怖さでなかなか出られない。このようなキャラクターを作り上げるため、原作にはないジョゼの過去を加えた。キム監督は「傷を抱えるジョゼがヨンソクに会い、外の世界を見ながら、自らを許し、愛し、大切にする人になるという話を構想した」と語った。

映画『ジョゼ』のスチールカット=ワーナーブラザースコリア提供//ハンギョレ新聞社

 韓国の状況に合う現実性も加味した。30代半ばの人が原作のようにおばあさんの引くベビーカーに乗っているという設定は会わないので、電動車椅子に変えた。電動車椅子の事故によってジョゼとヨンソクは初めて出会う。恒夫がベビーカーにスケートボードをつけて一緒に道を疾走する場面は、ヨンソクがジョゼの車椅子を押して落ち葉の積もった道を散歩するロマンチックな場面に変わった。

 ジョゼの家は古くこじんまりとした、極めて韓国的な空間だ。ここでのジョゼはコレクターだ。おばあさんが拾ってきた古本や空のウイスキー瓶を集めては「ここは捨てられた物たちの安らぎの場みたいなところ。私が可愛がってあげる」と言う。ジョゼは本で世界に接し、空き瓶の香りをかいでウイスキーを楽しむ。「閉じ込もっていても、確固とした趣向があればそれほど不幸にはみえないだろう」というキム監督なりのジョゼに対する配慮だ。

映画『ジョゼ』のスチールカット=ワーナーブラザースコリア提供//ハンギョレ新聞社

 ヨンソクは原作の恒夫と同様、どこにでもいる普通の大学生だ。アルバイトをし、適度に恋愛もして、就職の心配で将来を不安に感じている。平凡で思慮深いヨンソクは、黙々とジョゼのそばにいる。ヨンソク役の俳優ナム・ジュヒョクは「恒夫と似たような風になってしまうかもと思い、3~4年前に見た原作をあえて見直さなかった」と話した。ジョゼ役のハン・ジミンも「原作を10年前に一度見たが、撮影前にもう一度見はしなかった」と語った。

 スローで落ち着いた映画の余白を光らせるのは、家の中の隅々を映した感覚的な映像と、生活音のざわめきだ。短編『ポラロイド作動法』や長編『最悪の一日』『ザ・テーブル』などに見られるキム監督の特技が光を放つ。美しくロマンチックな雰囲気は、雪の降る夜、家の前の路地でジョゼとヨンソクがお互いの心を確認し合い、初めてキスをする場面でクライマックスを迎える。原作の中では極めて現実的な白昼の玄関前での初キスのシーンとは対照的だ。

日本映画『ジョゼと虎と魚たち』のスチールカット=ディステーション提供//ハンギョレ新聞社

 原作では愛が徐々に冷め、最後は別れに至るまでの過程を、淡々と繊細に描いたことが好評を受けた。しかし、韓国版は愛をはぐくむ過程に集中した反面、別れの過程は省略している。キム監督は「人々はさまざまな理由で別れる。誰か一人に別れの責任を負わせたくなかった。原作と違う道を進むならば、別れる理由がなくてもいいのではないかと考えた」と説明した。原作では恒夫の視点で恋をして別れるが、韓国版ではヨンソクとジョゼの視点が行き来する。「特に最後は原作と違ってジョゼの視点で描きたかった」とキム監督は語った。

 原作の「虎」と「魚」が持つ象徴性は、韓国版にも引き継がれている。ただ、具体的な形は違う。2人が旅行に行く場所も異なる。動物園の虎は韓国版でどのように登場するのか、水族館が閉まっていてホテルの照明を代わりにした魚は韓国版でどのように表現されるのか、原作で最も美しい場面に挙げられる海辺の散歩はどのような場所に変わるのか、何より原作のラストシーンの深い余韻をどのようなエンディングで生かすのか…。原作のファンは気になるだろう。韓国版「ジョゼ」の深い叙情的な香りを楽しみ、もう一度日本版『ジョゼと虎と魚たち』と比べながら、アレンジの新しさを味わうのも良い。

ソ・ジョンミン記者westmin@hani.co.kr(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/movie/973477.html韓国語原文入力:2020-12-10 02:36
訳C.M

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