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[インタビュー]「古紙回収のおばあさんと食事する映像を撮ってから、仕事に確信」

登録:2020-09-15 02:12 修正:2020-09-15 08:04
「ダン&ジョエル」のユーチューバ―、ダンさん
ユーチューブ・チャンネル「ダン&ジョエル」を運営する英国青年ダンさん=ダンさん提供//ハンギョレ新聞社

 「本当の韓国を見せてくれる。だからいい」

 チャンネル登録者数が27万人近いユーチューブ・チャンネル「ダン&ジョエル」のある動画に対するコメントだ。英国人男性のダンさん(本名ダニエル・ブライト、29)とジョエルさん(ジョエル・ベネット、32)が2017年9月に立ち上げたこのチャンネルは、韓国人よりも韓国語のうまいダンさんが、生活に疲れた韓国人と食事を共にする心温まる様子を見せてくれる。開設して1カ月は主に愉快なグルメ・コンテンツをアップしていたのだが、偶然ソウルの広蔵(クァンジャン)市場で、あるお年寄りと交わした会話を撮影してからは、人間味のにじみ出る話に焦点を当てているという。

 昨年末にアップした「古紙回収のおばあさんとの食事」編は、アクセス数が58万を超え、コメントも4200件にのぼる。おばあさんに気を使って会話を引っ張るダンさんの温かい態度と韓国語力をほめる内容が多い。ダンさんは今年初めにアップした「ソウル駅のホームレスの人との食事」でも、共感と思いやりのある言葉でゲストの固くなった心を溶かし、身寄りがなく孤独な人生の物語を引き出した。最近、エッセイ集『私、麻浦区(マポグ)の者ですが』(ハンギョレ出版)を出したダンさんに、11日にソウル麻浦区延南洞(ヨンナムドン)の仕事場で会った。

「古紙回収のおばあさんとの食事」の一部。ユーチューブ・チャンネル「ダン&ジョエル」より//ハンギョレ新聞社

 ダンさんは市場や街角で出会った韓国のお年寄りに必ず「小さい頃、何を食べていましたか?」「肉は食べましたか?」と尋ねる。「肉を食べたという方はそれほど多くはなさそうだ」と言うと、彼はこう答えた。「実は私もよく知っています。知っていて尋ねるんです。そうすれば『いや、肉は食べられなかった、トウモロコシの粥を食べてた』と、こういう答えが出てきます。『昔はどれくらい大変でしたか?』と聞けば『大変だった』という程度の答えしか返ってきません。お年寄りは、私が知らないと思ったら教えたり説明したりするのを好まれるんです。より多くのことを聞き出せるんです」

ダンさんが最近出版したエッセイ集『私、麻浦区の者ですが』の表紙//ハンギョレ新聞社

 ダンさんは、英国のウェールズ地域で高校まで過ごし、大学はロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で韓国学と言語学を専攻した。だから自らを「ウェールズの田舎者」と言う。「もともとはオックスフォード大学のPPE(哲学、政治学、経済学)課程に入ろうと思っていたんです。そこを出れば英国のどこでも認めてくれますから。でも数学の点数が低くて行けませんでした。韓国学は、当時付き合っていた韓国人の女子学生が帰国するというので、私も韓国へ行こうと思って選びました。交換学生プログラムでね」

 ダンさんは2012年の1年間、高麗大学の交換留学生として韓国を体験した。大学を出た後は、ロンドンで韓国の公企業に就職して2年間働き、2017年9月に専業ユーチューバーとして暮らそうと思って韓国にやって来た。一昨年2月には、6年前にロンドンで出会った慶尚道出身の韓国人女性と結婚し、息子もいる。ジョエルとは、大学の先輩であるジョシュア・カラットが運営するユーチューブ・チャンネル「英国男子」で共演して親しくなったという。「『英国男子』では、ジョエルは面白くて辛いものもよく食べて、私は韓国語がうまくてすごくよく食べるキャラクターでした。『ダン&ジョエル』の初期にはこのような設定を維持していたんですが、広蔵市場での食事編から、ドキュメンタリー形式で私たちのチャンネルの独自性を追い求めるようになったんです」

 韓国行きを決心した時は「3カ月だけユーチューブに集中しよう」という考えだったという。「ドキュメンタリー制作経験のあるジョエルがいたからこそ可能だったんです。一人だったら簡単な挑戦ではなかったと思います。結婚前だったので経済的にも大きな負担はなかったですし」。チャンネルにおいてダンさんは映像の企画と進行を、ジョエルさんは演出と編集を主に担当する。

 チャンネルの人気には、ダンさんの韓国語の実力も一役買っている。「あの頃は日本の連中が韓国に来ていたじゃないですか」。ダンさんがモレネ市場のクッパ屋の今年85歳になるおばあさんとの会話で使った言葉だ。韓国人のように話すんですねと言ったら、彼は「韓国語の文法の実力というより、文化的理解の問題」と言った。「日本の連中という表現は私がわざと使ったんです。その言葉に対して笑える、面白いというコメントがつくことも予想していました。『やっぱり国産は違う』みたいな表現もそうです。ウケるポイントです。周りの韓国人の文化的認識と話す態度を観察しながらたくさん学んでいます。もし私が寿司を食べながら『日本の連中は寿司を握るのがうまい』と言ったら悪口を言われるでしょう。でも、今も韓国に対する文化的理解は足りないです」

英国の友人ジョエルと3年前に開設
生活に疲れたお年寄りと食事を共にするなど
ドキュメンタリー形式のエピソードに焦点
チャンネル登録者数27万… 最近エッセイ集も
優れた韓国語力も人気の要因
「田舎のお年寄りの韓国料理レシピ本も書くつもり」

 広告のクリック数に左右されるユーチューブの収入は、一人分の生活費ぐらいだそうだ。だから週二日はその他に外注のドキュメンタリー制作を行っている。「家族がいるからもっと稼がないと。最近はアニメ会社の依頼で、作家と作曲家のインタビュー映像を作っています」

 「古紙回収のおばあさんとの食事」は「ダン&ジョエル」のチャンネル登録者を1カ月で2万人増やしたそうだ。「近所の方で、出会って1年近くになります。おばあさんに会うたびに挨拶して『今日はキムチチゲを食べましょうか、お食事なさいましたか』と声をかけていたんです。するとおばあさんは『私がおごってあげたいんだけどね』と言うんです。そんな挨拶を交わし合うようになって1年たってからやっと、おばあさんにスンドゥブチゲをご馳走しました。この映像を撮って、自分の仕事に確信が持てました」。彼は「寒い冬にお年を召した方が、100キロを超える古紙をリアカーに乗せて引いて歩く姿は、英国では見られない」とも語った。

 ダンさんは、アイルランドと英国の二重国籍者だ。英語教師だった母親がアイルランド系で、農業経済学の教授だった父親はイングランド出身だ。彼が疲弊した生活を送る人々に気兼ねなく話しかけるのは、両親の影響もある。「両親は、ウェールズの我が家でよく難民の面倒を見ていました。重病で余命宣告を受けた30代のシリア難民の男性を3年近く世話していて、トーゴ難民も2年ほどいました。母は、週末にはホームレスの食事の世話をするボランティアもしていました。そんな姿を見て、私もそうしてもいいかなと思ったんでしょうね」

 彼は、一昨年と昨年には「再開発で消滅の危機に瀕するモレネ市場の古い食堂」と「古紙回収のお年寄り」をテーマとする写真展も開いた。昨年7月にはオンライン課程でロンドン芸術大(UAL)のフォトジャーナリズムの修士号も取得したという。

 「ある方は、いつの間にか涙が出ていたと書いていました」。最も記憶に残るコメントを聞いた時のダンさんの答えだ。「観客が『タイタニック』のような映画を見て流す涙は、音楽が悲しかったとか、理由があるじゃないですか。でも、いつの間にか涙が出ていたというのは、それだけ言葉では言い表せないほど感動したということではないでしょうか」

 公共性を掲げる韓国の放送チャンネルがなすべき役割を「ダン&ジョエル」が担っているようだと言うと、彼はこう答えた。「放送がやらないとすれば、関心がないからではなく、自信がないからでしょう。コンテンツが面白くなければ、人はすぐにチャンネルを変えるじゃないですか。私たちは二人なので大きな負担はありません。再生数が稼げなければ、早く面白いグルメ・コンテンツを出せばいいんです。でも放送局は商業的な圧力が大きいんでしょうね。これからも私たちが聞いたストーリーをそのまま伝えようと思っています。それこそ私たちがなすべきことですから」

 彼は自著に、ユーチューブをやっている目的の一つとして、自分の人生に満足と希望を感じられない韓国の若者たちに「ほんの少しでも、韓国で十分楽しく、希望に満ちた生活が送れるということを示したくて」と書いた。「韓国に来て、『ヘル朝鮮』という言葉をよく耳にしました。若者が感じたり考えたりしていることを、そのように言葉で表現することはいいと思います。年を取れば同じように困難な状況に置かれるとしても、自分の気持ちをそんなふうに表現することは難しいと思います。ジョエルと私はユーチューブで 『希望の朝鮮』をお見せしたいです。私たちが持っている希望を映像に収めてね」。彼がタトゥーに生の意味を見出した女性タトゥー芸術家キ・ユビンを訪ねた映像に込めたのも、そんな熱い思いから出たものだ。

 今後の計画は? 「苦しい生活を送る人々の話が中心となる、もう少し長めのドキュメンタリーを作りたいと思っています。韓国放送(KBS)のようなより多くの人々が見られるプラットホームに、私たちが作ったドキュメンタリーを流してみたいです。ネットフリックスのシリーズでもね」。抱負は続く。「韓国語で小説を書いたり、韓国の田舎の隅々を訪ね歩いてお年寄りの話を聞き、彼らの貴重な韓国料理のレシピを紹介する本を書いたりしてみたい。もう一つ。英国にいる母と食事を共にする作品もいつか必ず作ろうと思っています」

カン・ソンマン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/962124.html韓国語原文入力:2020-09-14 18:39
訳D.K