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冷たい金属に刻む暖かい糸…師匠を探して入糸の技を引き継ぐ

登録:2015-09-26 22:39 修正:2015-09-28 20:36
重要無形文化財の入糸匠ホン・ジョンシルさん
最も繊細な金属工芸と言われる入糸技法は、現代金属工芸を専攻したホン・ジョンシルさんの情熱で途絶えていた脈がよみがえった。ホン匠が自身の工房吉金工芸研究所で作業している=イ・キルウ先任記者//ハンギョレ新聞社

 銑鉄で作られた頑丈な鍵。そこへ銀で装飾がされる。富貴、寿福、喜といった家族の幸福を祈る文字が銀でくっきりと刻まれる。 朝鮮時代の夫人たちの気持ちが静かに輝きを放っているかのようだ。 銀糸で飾った煙草入れは、朝鮮時代の儒生たちが煙草を入れて持ち歩いた小さな智品だった。表面に四君子(東洋画の梅・菊・蘭・竹)や文字を刻んだ煙草入れは、広間に置かれれば玩賞品として一層輝きを増す。鉄で作った笛の両端には笛の音に合わせて踊るような鶴が、節々には筍、竹、梅、菊花が金糸と銀糸で刻まれていて、一見しただけでも宮中用品の品格が備わっていた。

美大を経て大学院で専攻しても“空虚”
仁寺洞で古の入糸工芸品を見て魅了され
「朝鮮最後の京工匠」5年がかりで捜し出す

引退した78歳の李鶴應(イ・ハクウン)先生の
弟子として初の入糸匠保有者に仕え継承
吉金工芸研究所を開き現代化を試みる

 冷たい金属に暖かい手技を吹き込みたかった。しかし、師匠が見つからなかった。脈が完全に途絶えていた。 未だきっとどこかに技を大切に保管した職人が生きていると信じた。 全国を5年間さ迷った。そしてついに見つけ出した。1978年、李鶴應先生に会った。 その時すでに78歳だった李翁は、朝鮮時代“最後の京工匠”だった。 彼はソウル貞陵(チョンヌン)の自宅で静かに暮らしていた。 大学で金属工芸を専攻した後、韓国の伝統金属工芸を志した30代序盤の若い工芸学徒は、李翁に入糸工芸技術を教えてほしいと懇請した。 誠意は通じた。 あたかも孫娘のように可愛がってくれた。貴重な金属工芸技術を10年かけて伝授してくれた。

ホン・ジョンシル入糸匠が作った多様な金属工芸品。現代と伝統が溶け合っている=イ・キルウ先任記者 //ハンギョレ新聞社

 朝鮮時代以後に痕跡をなくした入糸工芸技術がよみがえったのは、重要無形文化財第78号入糸匠ホン・ジョンシルさん(68)の情熱の賜物だった。 ホンさんは伝統入糸の保全と伝承のために入糸に関連した資料と師匠の記録を文化財管理局に提出した。 ついに師匠が初代の入糸匠技能保有者に指定された。 88年李翁が老衰で亡くなられた後、ホンさんがその匠を継承した。

 ホンさんが初めて入糸工芸品を見たのは、ソウル仁寺洞(インサドン)の古美術品店でだった。「とても美しかった。 息がつまるほど、眠れないほどに魅了されました。でも、誰もそれを作る方法は知りませんでした。そこでかつての職人を探しに出ました。 きっとどこかに生きているという信念を持って」

 入糸は金属の表面に溝を掘ったり穿ったりして、その上に金属線や金属板を打ち込んで模様を作る装飾技術で、二つの金属をはんだ付けせずに着けなければならない。 そのために繊細な技が必要だった。 また、朝鮮時代には金属を国家が掌握していた。 特に金は貴重だったので主に銀で飾った。 それで「銀糸打ち」とも呼ばれた。華麗ではないが、白黒の美しい対比に魅せられた。それで一層夢中になった。

ホン・ジョンシル入糸匠が作った多様な金属工芸品。現代と伝統が溶け合っている //ハンギョレ新聞社

 平壌(ピョンヤン)で生まれたホンさんは、幼い時から美しいものを見れば、ただただ学びたいと思った。梨花(イファ)女子高を卒業し、ソウル女子大工芸学科に入学した彼女は現代的工芸技術を学んだ。 ソウル大の大学院を卒業して自分で講義もしてみたが、伝統金属工芸に対する思いはますますつのった。

 「統一新羅時代は金の国と言われる程に金工芸品が多くありました。高麗時代は青銅の時代でした。でも朝鮮時代入ってからは倹約の時代になります。主に銀を使いました。 華麗ではないものの品格を備えた清楚な金属工芸品が士大夫(両班)たちの居間を飾りました」

ホン・ジョンシル入糸匠が作った多様な金属工芸品。現代と伝統が溶け合っている=イ・キルウ先任記者 //ハンギョレ新聞社

 重要無形文化財第35号彫刻匠キム・ジョンソプ翁の下で彫刻技法を磨いたホンさんは、師匠の李翁に会って伝統入糸工芸のとりこになった。入糸工芸には多様な道具が使われる。 銀糸打ちでは彫って銀糸を打ち込むのに独特の形の鏨(たがね)と槌(つち)が必要だ。 ホンさんは工芸技術のみならず西洋工具と技法ばかりに依存する教育風土を正すために、伝統職人の工具を収集し整理した。伝統道具の代わりに便利さを追求すれば創造的作品は作れないと感じるためだ。

 韓民族の金属工芸を研究するために吉金工芸研究所を運営中のホンさんは、自身が学んだ入糸技法を伝統を再現するだけでなく現代への融合を試みている。「単純な再現は技術者の仕事です。 昔のものが持つ内面の美しさを現代によみがえらせることが真の職人の役割です」

金属表面に打ち込む金糸と銀糸=イ・キルウ先任記者 //ハンギョレ新聞社

イ・キルウ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/710038.html 韓国語原文入力:2015-09-23 11:16
訳J.S(2333字)