本文に移動
全体  > 文化

[キム・ヨンジンのシネマ即説] 扇動的で知的で明快なドキュメンタリー

登録:2014-06-26 22:22 修正:2014-06-27 09:16
イ・フンギュ監督の‘ブラック ディール’
<ブラック ディール>は韓国より先に民営化を推進したチリなど7ヶ国を取材し、効率性という覆いの裏に隠された民営化の暗い影と民・官間の黒い取引を暴く。 インディプラグ提供

 何年か前、ロンドンに行って来た時、仁川(インチョン)空港に到着してこの国に暮らしていることをありがたく思った。 先進国のどの空港と比較しても仁川空港ほど安らかで快適なところはないようだ。 入国審査台ではパスポートを返してもらいながら‘ありがとうございます’という挨拶も受ける。自然と気分が良くなる。 同時に、何年か前から言論で言われている仁川空港民営化の推進はどうなっているのかが気がかりだ。

 来週封切りするイ・フンギュ監督の<ブラック ディール>は韓国をはじめ世界各国の民営化実態に食い込んだドキュメンタリーだ。 映画は鉄道民営化論議でストライキに入ったソウル駅前の鉄道労働者のデモから始まる。 社会の各分野で起きている公共分野改革談論が民営化試図ではないと否認する韓国高位官僚と公務員たちの話を聞いて、映画製作スタッフは世界各国にカメラ旅行に出発する。 英国、アルゼンチン、チリ、フランス、ドイツ、日本などで民営化を巡る反応は一様に両極に分かれている。 民間大企業の関係者たちは民営化が促進させた発展を強調し、市民と労働者は民営化による公共分野のサービス低下と日常生活の不便を訴えている。

 民営化の弊害で最もおぞましい結果を招いたところはアルゼンチンだ。 地下鉄、電気、水道など大多数の公共領域を民営化したこの国では、乗客ですしづめの地下鉄がドアを閉めずに高速運行するのを日常的に見られる国だ。 この国に民営化を導入したメネム大統領時期、彼の弁護人として務めたリカルドという人はこのように話す。 「権力とはすなわちビジネスを意味します。」ピノチェト独裁時期にアメリカに留学したシカゴ学派の官僚らが、公共部門の民営化を立案し実行に移したチリでも、弊害は想像を絶するほどにすさまじい。 そこで、教育制度改革デモに熱心なある大学生は韓国の人々に送る大字報にこのように書く。 「民営化がなされるならば、私たちが得るのは社会の不平等だけです。」状況がこうであるにも関わらず、政治の現実は簡単には変わらない。 これに先立って大字報を貼り出したその大学生も、4時間もかけて故郷に戻り大統領選挙の投票をしたが、どの候補にも印をつけず白紙で入れたという。 挫折して落胆することより、今は変えることが間違いだったと思う絶望の方がもっと恐ろしい。

キム・ヨンジン映画評論家・明知(ミョンジ)大教授

 この映画はかなり扇動的で、知的で、同時に明快だ。 民営化による効率性向上と経済発展の裏面には、簡単な取り引きがある。 民営化の代価として企業と政治家たちが結ぶ黒い取引が事態の本質だということ。 さらに単純率直な見解もあるが、フランスの水道企業スエズの元役員は、腐敗は悪いものではなく、人類の歴史で常にあったことで、中国とロシアの例を挙げて腐敗が勝つほど発展速度も速いと強弁する。

 そのような渦中に画面に映った韓国の大統領はフランスに行って、大韓民国は公共部門にフランスの大企業を迎える全ての準備ができていると暖かい演説をする。 私たちにも災難を防ぐ時間は多くは残っていないということを、この映画<ブラック ディール>は厳重に警告している。

キム・ヨンジン映画評論家・明知大教授

https://www.hani.co.kr/arti/culture/movie/644325.html 韓国語原文入力:2014/06/26 19:09
訳J.S(1474字)