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[朴露子ハンギョレブログより] オスロ虐殺が教えてくれた真実

http://www.klassekampen.no原文入力:2011/07/29 07:35(4346字)

朴露子(バク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学

「真理の瞬間」という言葉があるのはご存知だろうと思います。一般的に人生でも社会生活でも最も悲劇的な瞬間は私たちに最も深い真実を最も如実に教えてくれます。今回の「オスロ虐殺」もそうでした。この無惨な蛮行は、名目上1人当りの国内総生産8万8千ドルの超富国、模範的な福祉国家、かなり多くの韓国人たちに「地上楽土」と思われているノルウェーに関するある種のとても落ち着かない真実を見せ付けています。ノルウェーのみならず、韓国における進歩主義者たちさえもなかなか批判しようとしない「福祉国家がありトレランス精神で充満している」ヨーロッパに関する、我々が敢えて目を逸らそうとしてきたある極めて重要な部分を私たちに教えてくれました。この虐殺に関わる様々な事実は、私たちがかねてから信じていたいくつかの神話を壊してしまいました。

神話1:「トレランスと自由主義のヨーロッパ」。1945年以降のヨーロッパにおける左右派間の一種の力の均衡はある程度寛容の雰囲気を助長したことは事実ですが、だからといってヨーロッパでは寛容と自由を尊重する政治勢力のみが大衆的な人気を集めているわけではありません。虐殺の現場になったノルウェーだけをとってみても、虐殺の主人公が何年間か所属していた極右政党である「進歩党」(真の進歩とは無縁です!)は概して20~25%の支持率を誇ってきました。参考までに、今回の攻撃で目標とされた穏健左派の代表走者である労働党の通常の支持率は25~30%程度です。極右たちがほぼ社民主義者と同じくらい人気を博している社民主義国家ノルウェー?さて、ノルウェーともしかしたら比較対象になりうる「寛容の祖国」オランダでは、前回の総選挙で極右寄りの「自由党」が17%の票を獲得してしまいました。ノルウェーと文化・歴史的に極めて近いデンマークでもやはり最近の総選挙で極右寄りの「民衆党」が15%の票を獲得し、移民者たちを大変緊張させました。つまり、私たちにほとんど「模範」と見えた静かで秩序正しいヨーロッパの多くの社会ではほぼ5分の1に近い有権者たちが種族的な少数者に対する如何なる寛容も許さない極右の政客たちを支持しているということです。不思議でしょう。その理由を考えてみましょう。
 
神話2:「資本主義は民主主義を保障します」。これは私たちのアジア的な観点から見ても真っ赤な嘘です。現在アジアにおける最大の資本主義国家である中国は民主主義的な社会ではなく、民工など低賃金労働者を搾取するために戸口制などの極めて非民主的な制度を運用しています。「資本主義研究会」で北朝鮮の書籍を何冊か読んだだけですぐにでも監獄行きになりえ、教師など公務員労働者たちが政党加入の権利など基本的で民主的な権利さえも保障してもらえない大韓民国のような世界資本主義の麒麟児も真の意味での民主主義国家ではまったくありません。開発国家と新自由主義を巧みに組み合わせたシンガポールも民主主義とはまったく無縁です。ヨーロッパの場合は、1910~40年代の民主化、すなわちあらゆる成人の普遍的な選挙権の獲得は労働運動、社会主義運動の成就ではあっても、資本家の恩恵では絶対にありませんでした。1930年代のヨーロッパにおけるファッショ政権どもは資本家たちからの熱烈な支持を受けており、ノルウェーの「進歩党」などといった今日のヨーロッパの極右政党も概して富裕層、企業人たちの寄付などで影響力を拡充しています。すなわち、かなりの総資本勢力は、激烈な反移民者的、外国人嫌悪主義的なレトリックを使う極右政党でも支持することにより左派、そして総労働の影響力を弱めようとします。総労働とある種の勢力の均衡が成立した状況では、ヨーロッパの総資本は民主主義的なゲームのルールを一旦は受け入れているものの、多文化主義的、寛容的な現代民主主義を事実上否定する勢力たちをも育てているわけです。

神話3:「ヨーロッパにおける勤労大衆たちの階級意識は水準が高い」。大資本が育てた極右派の票田は、悲劇的なことに中小事業家や低級の事務員か、たいていは一般労働者たちです。ノルウェーの場合では、去る2005年の総選挙では製造業の労働者たちの42%は労働党を支持したものの、おおよそ27%は「進歩党」に投票しました。特に、低賃金・低熟練労働者の場合は、労働党への支持(30%)より「進歩党」への支持(37%)の方が遥かに高かったのです。1933年のドイツでさえも圧倒的多数の労働者たちがナチ党ではない社民党と共産党を支持したのに、何故に平穏なノルウェーで極右、準ファッショ勢力たちがこんなに労働者たちの票を集めることができたのでしょうか。そこにはいくつかの重要な原因があります。

1990年代中盤以降、新自由主義的な政策を部分的に受け入れ実施することにより、特に労働党は労働者、中でも特に低熟練・低賃金労働者たちを裏切りました。労働党が座視してきた製造業の海外移転、地方自治体の整理など「非本質的部門」の外注化、そして労働党が実施した郵便局の独立法人化と国営5大企業の部分的民営化などは何よりも解雇の危機に晒される低熟練労働者たちに甚大な苦痛を与えました。彼らが移民者たちを排除することにより「地元民」たちを保護すると広言する「進歩党」の誘惑に負けるのは、その原因のかなりの部分は中産階級化し新自由主義を受け入れた労働党からの疎外のためです。労働党より左側にある左翼政党、すなわち社会主義左派党と赤色党(共産党)はもとより高学歴者が主流を成しており、労働者たちにまともに話すこともできません。赤色党の機関紙である日刊『階級闘争』誌()の記事の多くは、修士学位くらいは持っていないと読めない論文のような文章です。そのような政党には間違って学歴の低い労働活動家が入ってきても、「高学歴の活動家」の間で常に落ち着かない感じを受けるでしょう。穏健左派である労働党の裏切り行為、急進左派のそれとない「知識人」根性と傲慢―こうしたいくつかの要因は多くの労働者たちに社会主義革命や変革ではなく種族的な閉鎖性を新自由主義から救出される方法と認識するよう仕向けました。赤色党の党員としての私も自省しなければならないところです。

労組などの階級組職への加入、選挙時の左派政党の支持などはもちろん階級意識の培養に重要な手段ですが、確固たる階級意識の形成に最も寄与するのは何よりも直接的な闘争の経験、そして特に個人的な危険をも抱えなければならない脱制度的な闘争の経験です。韓国の労働運動が1990~2000年代の激しい弾圧と包摂作戦などにもかかわらずそれなりに展開されてきたのは、1987年の大闘争の経験者たちの指導力と熱誠的な参加のおかげでもありました。一度真の闘争、催涙弾、鎮圧棒、解雇の脅しなどを味わってみた人ならその一生が変わることがあり得るのです。ところが、たとえストライキをしてもすべて制度の枠内でできる楽なノルウェーでは、脱制度的な闘争の最後の瞬間は1960年代末~1970年代初めの毛沢東主義的な「知識人」たちの工場進出の試みやベトナム戦争反対の激烈なデモくらいでした。それを経験した人々が今日の赤色党の基幹党員たちです。しかし、社民主義体制にそれなりに包摂された多くの労働者たちはこれらの出来事に参加しておらず、体制に対する急進的な抵抗の経験を欠いています。それだけに彼らの左派隊列からの離脱が容易なのです。

失業者になっても、ノルウェーの労働者の所得水準はポーランドや中国の労働者のそれに比べて何倍も高いのです。それほど資本主義的な世界体制におけるノルウェーの位置はとても高いと言えます。あらゆる地球人たちがノルウェー人ほどに資源を消費したら私たちには3.5ヶの地球が必要になるでしょう。未来に世界的な社会主義社会が建設されたら、「残りの世界」の消費水準が高くなると同時にノルウェーのような例外的富国たちの消費水準は少し低くならざるを得ないでしょう。すなわち、ノルウェーが国際的な革命路線を取るならば、それは本人と同類たちの生活水準の向上のための闘争ではなく、逆に安楽な「富国市民」生活の(少なくとも部分的な)放棄となるでしょう。それは極めて難しいことです。1940年代末以降は社民主義体制に包摂され革命性を失い漸次的な実質所得の向上に慣れている多くの労働者たちは、ノルウェーの異常に高い生活水準を当然と感じ、「死守」しようとします。誰から? 社民主義的な資本との妥協に慣れた人々には、資本からの死守より移民者からの死守の方が遥かに理解しやすいかもしれません。

一言で要約すれば、1940年代末以降、ノルウェーの労働者たちを貧乏人から中産階級市民にした労働党などの社民主義勢力たちは、同時に労働者たちを抱きこみながら彼らの革命性をかなり取り除きました。体制に慣らされた多くの労働者たちは、特に高学歴を主流とする急進左派が彼らに接近さえできない状況で、新自由主義を受け入れた労働党に怒りをぶちまけても、もっと左へと行くのではなく反対に右へ行ってしまい、種族的な閉鎖性に基づいた「私たちの所得水準の死守」路線を選ぶという遺憾な現象はノルウェーでも起り、他のヨーロッパでも類似した形で起っています。極右派の大衆化は急進的な左派の高学歴者としての傲慢と無能、そして穏健左派の新自由主義的な裏切りを背景としています。極右ファシズムがこれほどに普遍化した状況では、そこから極烈分子たちが生まれ今度のような大惨劇が起ってしまいます。この状況の解決方法は? 何より革命的・階級的左派の復活と大衆性の確保です。赤色党のような急進左派政党の党員たちは工場の労働者たちに相対する方法を再び学ばなければならないし、彼らの要求―たとえば、製造業の保護政策や解雇防止など―を優先しなければならず、彼らに今日の状況における急進的な変革とは何かについて語れなければなりません。もう一度「ブ・ナロード」、人民の中へ行かなければならないのです。そうしなければ、ヨーロッパをキリング・フィールドにしようとするファッショたちに対抗することはできません。

原文: http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/36766 訳J.S