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[朴露子ハンギョレブログより] 多文化主義 - 資本の巧妙な武器?

http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/33264

原文入力 2011/03/31午後04:20(3834字)

朴露子(バク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学

私は今ハワイ・ホノルルで全米アジア学会の会議に参加しています。私は元々ほとんど商業的に営まれているような大掛かりな学会に参加することはあまり好みませんが、今回は一応仕方なくこちらに来ました。このような機会でもなければ、実際に顔を合わせて研究結果を共有したい北米在住の親友や仲間たちにほとんど会うことができないからです。ノルウェーの人民たちから納められた税金、すなわち学内研究費で来たので、人民に対する服務ということで聞きがいのありそうな報告などをまじめに聞き、その概要を後で授業時に学生たちに適切に公開し、教育内容として利用できればと思っています。また、ハングルで共有したい内容があれば、その概要をこのブログに公開したいと思います。ホテルなどといったこちらの施設を利用しながら、窮極的には私に敵愾心しか抱かせないアメリカ帝国にお金を捧げていることに対する申し訳なさをそんなふうにしてでも和らげたいと思います。

ただいま開会記念式に参加して来ました。記念式でハワイ州立大学の多くの重鎮たちが祝賀演説をしましたが、その内容は概して「ふるさと自慢」のようなものでした。人口構成が非常に多様であるとか、学校に約80ヶ国の学生たちが在籍しているとか、50以上の国からの研究者たちが在職しているとか、アジアにある唯一のアメリカの州であるなどといった内容でした。一言で言えば、本州はアメリカにおける昨今の国是ともいえる「多文化主義」の化身であるという趣旨の演説でした。それに加え、当該大学のいわゆる孔子学院という機関の代表という方は「バラク・オバマ大統領もまさにわがハワイの出身、ここで生まれ学校に通った」と誇らしげに付け加えました。偉大な大統領閣下のお名前が出るやいなや愛国心に燃えたためか(おそらく主にアメリカ人の)参加者の多くが熱烈な拍手喝采を送りました。私は気分が悪くなり、食べていた物をあやうく吐き出すところでした。まあ、もしハバロフスクで国際学会を開き、ハバロフスク国立大学の当局者が誇らしげに「わが市の近くで金正日総書記が生まれた」と自慢話をしたら、私たちはそのような当局者のことをおそらく少し異常だと思うのではないでしょうか。

しかし、もう少し考えてみれば、オマバの手に付いた他人の血は、金正日の手に付いた血よりはるかに濃いのです。金正日が直接関与したと信じられている対南工作や対南武力衝突で(北朝鮮の仕業なのかどうか極めて不明な大韓航空機爆破事件まで無理やり含めても)犠牲になった人々は両側で数百人に止まりますが、オバマが責任を負わなければならないアフガン、パキスタン、リビアへのアメリカの侵略、砲撃、爆撃、拉致、監禁、拷問、暗殺の犠牲者たちはここ3年で確実に数千人以上にはなるでしょう。武器生産と販売による間接殺人まで含めれば、初めから「勝ち目がない」ほど、オバマの殺人の実績(?)は優れて(?)見えます。にもかかわらず、その名前を言っただけでこんなに歓声が上がるのを見れば、人間は本当の意味でとても変な動物です。「わが政府は殺人犯たちの徒党」であることを受け入れて生きることがそこまで手に負えないほど難しいことでしょうか。まあ、私は今リビアの空襲にまで参加しているノルウェー政府に対し、概して以上のように受け止めて生きています。アメリカの仲間たちにも勇気を出してそのようにしてもらえればと祈っているわけです。

オバマに対する曲学阿世式のお世辞はともかくとし、多文化主義に対するハワイ大学の役職者たちの肯定的な確信も私には多少受け入れ難いものでした。もちろん、他者の人種的な相違から言語や宗教などまで幅広く歓迎することはそうでない場合よりはるかにましでしょう。そうした面においては「多文化主義は失敗した」と公言するドイツのメルケル首相のようなヨーロッパの右翼政治家たちは確かに悪事を働いているのです。そのような発言は、ヨーロッパに住んでいる幾多の他者たちに不安を抱かせるだけであり、彼らと土着民との間に「壁」を築き上げるのに役立つのみです。権力者の口からそのような言葉がはるかに出にくいアメリカやカナダ、オーストラリアの雰囲気が、他者が入り込んで住み着くのにはるかに良いということは数多くの韓国人移民者や留学生たちが経験的に知っている事実です。ところが、ヨーロッパの右翼式のほとんど露骨で人種主義的な「ヨーロッパ的価値」や、おとぎ話を彷彿とさせる「統合」への強調よりアメリカ、オーストラリア、カナダ式の多文化主義の方が一歩進んだところはあるものの、その本心が何なのかはもう少し深く掘り下げてみなければなりません。北米に闖入している他者たちは、概して力仕事の腕前(これは特に中南米からの移民者たちに当たる)や金銭資本ないし学歴資本(インド, 東アジア係移民者たちが代表的)などを持ち込んでいくわけですが、これらの要素はすべて資本の立場からは利用価値が高いものです。ヨーロッパとの違いといえば、すでにヨーロッパ連合に侵されその一員に含まれた東欧、たとえばポーランドなどの肉体労動者から医師までを幅広く利用し、ロシアなどから逃れてきた資本を流入させている西ヨーロッパとしては外からの「闖入」がそれほど切実には必要でないということです。実際にヨーロッパ連合の総人口(約5億人)はアメリカとカナダの総人口(約3億5千万人)よりはるかに多いということもあります。ところが、資本は流入人口に対する搾取を指向しても、「闖入者」たちに対する同等な待遇は全くしようともしません。そのため、多文化主義がどれほど国是のようになっていようが、フランスやスペイン、ポルトガルなどとは異なり、アメリカは普通いわゆる「不法移民者」たちを大量に赦免することはありません。千万人を越える彼らを「不法」の状態に縛り続けておかないと、ほとんど奴隷のように搾取することができないからです。ケニアとアメリカ中産階級の親を持つオバマに多文化主義は適用されても、オバマの通った高校(プナフ学校)近くの下町あたりの食堂で「違法」に働く中南米や韓国などの出身者たちは多文化主義とは無縁に一生 取り締まりを恐れながら生きていかなければならないのです。

そうだとすれば、外国系居住者たちの割合がヨーロッパ連合の平均値より約3倍低い大韓民国の公式的な「多文化主義」はどう捉えなければならないでしょうか。様々な側面がありますが、その一つは分離統治政策としての多文化主義の韓国的な役割です。短期就労ビザで入って来ている外国人労動者のほとんどは多文化主義政策の受恵対象から基本的に排除されている一方、結婚移民者たちや高学歴移民者などは受恵者になっているため、この二つのグループの間に韓国の権力者たちは壁を作っているわけです。ロシアやインド系技術者、フィリピン系おばさん、バングラデシュ系労動者が共に手を握り、彼らを搾取し事実上阻害し続けている大韓民国の支配者たちに立ち向かう可能性をあらかじめ遮断しておくためです。もう一つの側面は、多文化主義と連携している民族主義理念の放棄政策が反北主義の嵐を助長するのにそれなりに役立つという点です。「民族」より(結婚移民者たちまで下位に配置し編入することのできる)「国民」ないし「市民」が優先視される状況では、脱北でもしない限り、「国民化」できない北朝鮮の人々に対する違和感はより一層強化されやすく、逆に「国益に資する」という理念を刷り込み外国資本の流入などをより容易く受け入れることができるということです。もちろん、韓国の統治者たちは北側の領土に対する支配の夢を捨てておらず、その分だけ北側の領土の植民化を合理化する民族主義的な理念を完全にあきらめたわけではありません。しかし、当面は「無限競争」をモットーに繰り広げられているベトナム、中国、インドネシアなどでの搾取行為がはるかに利益になっており、また証券市場に外国系資金を誘致し株価を上げ得をすることも愉快なことであるため、素敵に見える「脱民族主義」をやや強く後押しする面もあります。

むき出しの民族主義よりはるかにニュアンスが豊富で融通性のある脱民族主義ないし多文化主義は「私たちの中の他者」たちにも利益になることは事実です。民族主義に戻ろうという話では決してありません。ただし、資本と権力の手においては民族主義であれ脱民族主義であれ多文化主義であれ、いかなる理念であれ、結局は掠奪、搾取、利用、分離統治の道具になり悪用されるという点をはっきりと自覚しなければなりません。私たちが解決しなければならない窮極的な矛盾は、韓国人と非韓国人の間の矛盾では決してありません。サムスンの李氏王朝と白血病で死んで行く労動者たちの間の矛盾こそがこの社会、この世界の基本的な矛盾です。この矛盾さえ解決できれば女性問題であれ、種族的な他者の問題であれ、そのような二次的な矛盾はすべて自ずと解決できることでしょう。

原文: 訳GF