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[ユリイカ] チャン・ジャヨン/ハム・ソクチン

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/466826.html

原文入力:2011-03-07午後07:58:04(965字)

ハム・ソクチン記者

ニーチェの言葉の通り、果たして忘却は神が私たちに与えた最高の贈り物だろうか? 私たちはその贈り物を受けられない人の苦痛を知らない。
全てのことを記憶している人がいる。ゴマ粒のように書き留めた日記帳のように、彼が生きてきたすべての日の日常が彼の頭の中に打ち込まれている。7年前の6月5日に何をしたかを問えば、午後に雨がやみ買い物をしに行ったがちょっとお金が足りなくてジャガイモを買えなかったと答える。2006年ある科学雑誌に論文が掲載され世に知られたジル プライスという実際の女性の話だ。(<全てのことを記憶する女>、2009年)彼女がどれほど人生を持ちこたえられるか誰も断言できない。彼女は夫を失った苦痛で毎日 目が覚める。彼女が生きてきた日々の喜びも、数年の時間も効果がない。深刻な苦痛はそれ一つで十分だ。神が人間を作ったとすれば、記憶の自滅を誘導する忘却装置を別に設計図に入れたのかもしれない。

忘却装置が正しく作動しないならば? 映画<エターナル サンシャイン>のように悪い記憶ばかりを選んで消すことができるならば、どれほど良いだろうか。 交感神経抑制剤のような薬で一部の辛い記憶を消す実験(米国ハーバード大)もあったし、蛋白質酵素を利用してネズミの特定記憶だけ選んで消す‘選択的記憶除去’方式(米国、ジョージア大 脳行動研究所)も登場した。しかし人間の記憶コードをコンピュータ ファイルのようにてきぱきと触れられる日がくるかは明確でない。まだそれは神の領域であるようだ。

チャン・ジャヨン氏は苦痛と羞恥の記憶を消す方法が見つからず、ついに自分のからだを消した。実際に‘忘却装置’を探しえたのは私たちの方だ。彼女の死を見て怒った私たちはこっそりと忘れていた。彼女が記憶の彼方から2年ぶりにまた蘇ってきたが、お金と権力の世の中は相変らず堅固に見える。死んでもなお苦痛を解けない世の中、あまりに悲しいではないか。

ハム・ソクチン記者 sjham@hani.co.kr

原文: 訳J.S