チョン・ウィギルのグローバル・パパゴとは?
「パパゴ」は国際公用語のエスペラント語でオウムを意味します。鋭い洞察と豊富な歴史的事例で武装したチョン・ウィギル先任記者がエスペラント語でさえずるみなさんのオウムとなり、国際ニュースの行間をわかりやすく解説します。
■何が起こっているのか?
ガザ地区を封鎖し、2年以上にわたって無差別に爆撃してきたイスラエルを批判していた欧州諸国が、米国・イスラエルとイランとの戦争を契機として行動に立ち上がっている。スペインやイタリアなどはイスラエルとの各種協定を停止し、関係を縮小。欧州連合(EU)レベルでもイスラエルとの協力協定の再検討を開始。イスラエルは、欧州は弱腰だとして、イスラエルこそ欧州と西欧文明を守っているのだと反論している。ユダヤ人虐殺に対する道徳的責任感から、欧州諸国がイスラエルに示してきた支持と友好関係は、今回の戦争で転換点に向かって突き進んでいる。(編集者)
Q.米・イスラエルとイランの戦争勃発以降、イスラエルに対する欧州諸国の批判と対応はどの程度まできているのか。
A.欧州諸国の指導者の中でイスラエル批判の先頭に立っているスペインのサンチェス首相の動きに、それがよく表れている。サンチェス首相は今月19日に「国際法に露骨に違反する国とは、もはや特恵的な協力関係が保てない」と述べ、EU-イスラエルの協力協定の終了を公に求めた。スペイン政府は21日のEU外相会議で、イスラエルとの協力協定の終了を公式に提案した。2000年に発効したこの協定は、双方の貿易、政治的対話を規定する基本的枠組みであり、工業品の自由貿易地帯の構築、農産物貿易の自由化、研究・技術・文化協力の増進などを柱としている。サンチェス首相の要求は、EUがイスラエルに与えてきた貿易・政治上の特恵的地位の撤回だ。
スペインの公式提案に先立ち、欧州委員会にはすでにこの議題が提出されている。欧州左派同盟(ELA)は今年1月、「イスラエルはパレスチナのガザ地区における前例のない民間人殺傷、大規模な強制移住、医療施設の破壊に責任がある」として、協定の全面停止をEUに請願しているが、今月14日までの間に106万人が署名している。請願に100万人以上が署名すれば、同委員会のフォンデアライエン委員長は受け入れるか否かを公式に検討しなければならない。
これまでは市民社会で象徴的なレベルで提起されていたEUとイスラエルの協力協定の停止要求が、EUレベルの公式の議題となるということだ。
Q.戦争勃発後、欧州で何が起きているのか。
戦争勃発の翌日の3月1日、EUの27の加盟国は「我々は最大限の自制、民間人の保護、国連憲章の原則および国際人道法などの国際法の完全な順守を求める」と発表した。また「中東地域の多くの国に対するイランの攻撃と主権侵害は容認できない」として、「イランは無差別な軍事攻撃を自制しなければならない」と述べた。米国とイスラエルによるイラン戦争を黙認しつつも自制を呼びかけ、同時にイランを非難したのだ。
この声明はEU内の意見の相違に対する妥協の産物だ。ドイツのメルツ首相は「今は協力国や同盟国に説教すべき時ではない」として、「米国とイスラエルを支持すべきだ」と述べたのに対し、スペインのサンチェス首相は、米・イスラエルの行動は「より多くの不確実性と敵対的な国際秩序にばかり寄与する」と語ったとロイターは報じている。ガザ戦争以降、米国とイスラエルをめぐって蓄積されてきた欧州内部の分裂の一断面だ。
しかし、国民世論が戦争に批判的で、かつ原油価格が暴騰するなどして経済的影響が広がったことで、欧州諸国の政府は本格的に米国・イスラエルと一線を引くようになった。欧州における米国の最大の同盟国である英国のスターマー首相は、米国からの戦争への協力要請に対し、NATO(北大西洋条約機構)は防衛同盟であるとして拒否した。今回の戦争が米国とイスラエルによる先制攻撃ではじまったことを指摘したのだ。
西欧の指導者の中で米国のトランプ大統領と最も親しい関係にあるイタリアのメローニ首相も、3月11日の議会で、「米国とイスラエルのイラン攻撃は国際法の範囲を逸脱した一方的な介入」だとして、「イタリアはこの戦争にかかわっておらず、今後もかかわる考えはまったくない」と述べた。米軍のシチリア基地使用も拒否した。
Q.欧州諸国がイスラエルに対して具体的な行動に打って出るきっかけとなったのは、どのようなことか。
A.イスラエルのレバノン攻撃を契機とした、ガザ戦争以降に蓄積されてきていた不満の噴出だ。今月8日に停戦合意が実現したにもかかわらず、イスラエルは「レバノン戦線は含まれない」と主張した。イスラエルは9日、レバノンに対して戦争勃発以降で最大規模の空爆を加え、一日で350人以上が死亡した。EUは「停戦はレバノンにまで拡大すべきだ」と述べつつ、イスラエルの攻撃は「自衛の範囲とは考えがたい」と批判した。イスラエルのレバノン攻撃は比例性原則を逸脱しており、国際人道法違反であるとの指摘だ。欧州諸国はイスラエルに対する批判にとどまらず、具体的な行動に打って出た。
イスラエルによる戦争のレバノンへの拡大は、欧州にとっては今回の戦争が地中海の方へと広がることを意味する。欧州に難民、エネルギー、安全保障の負担が直接的にかかる。とりわけ、イスラエルが今回の停戦を破綻させるためにレバノンを攻撃していることについては、欧州としては耐えられなかっただろう。
Q.欧州諸国のイスラエルへの対応はどう変わったのか。
A.実は欧州は、ガザ戦争の時からイスラエルに対して批判的になっていた。2024年5月にスペイン、アイルランド、ノルウェーがパレスチナを国家として認めている。欧州でパレスチナを国家承認した国は9カ国に増えた。昨年3月からイスラエルは国際社会の圧力にもかかわらずガザ戦争の停戦を拒否し、封鎖と攻撃を続けて人道危機を招いた。3カ月近くガザ支援に対するイスラエルの妨害と戦争拡大が続いたことを受け、英国は昨年5月にイスラエルとの自由貿易協定(FTA)交渉を中止した。英国、フランス、カナダの首脳は共同声明で、イスラエルに対する制裁の可能性に言及した。
その頃、EU内でも17の加盟国がイスラエルとの協力協定の再検討に賛成意見を示した。EUは2025年9月にイスラエルに対し、一部の貿易特恵の停止、ヨルダン川西岸の入植者や極右の人物への制裁を公式に提案するまでに至った。同月、フランスは主要7カ国(G7)で初めてパレスチナを国家として公式に承認した。
スペイン政府は戦争の勃発を受け、直ちに米軍によるスペイン国内の基地の使用と領空通過を拒否。3月11日には「イスラエル駐在スペイン大使の任務終了」を公告するとともに、イスラエル駐在スペイン大使館を「代理大使」級へと格下げした。今月8日には、イランのテヘラン駐在スペイン大使館の再開計画を発表し、その際に「イランの首都から平和に向けて共に努力する」と表明。イスラエルとの戦略的決別に近いメッセージだ。イタリアのメローニ首相は14日、イスラエルとの「防衛協定」の自動延長を中止することを決定した。
Q.イスラエルはどのように対応しているのか。
A.イスラエルは、イタリアとの防衛協定は象徴的な内容だとして、打撃はないと一蹴。スペインなどのイスラエルに対する措置は反ユダヤ主義だと非難している。さらにイスラエルは、自分たちこそが欧州と西欧文明を欧州に代わって守っているとまで主張して攻撃している。ネタニヤフ首相は14日のホロコースト追悼日の演説で、欧州は「道徳的に弱腰になり、アイデンティティーと文明を守る責任を失った」とし、「ホロコースト以降、あまりにも多くのことを忘れてしまった欧州を守っているのはイスラエルだ」と述べた。シオニズム運動の提唱者テオドール・ヘルツルは、パレスチナのユダヤ人国家は中東における西欧の利益の守護者になるだろうと主張したが、その論理を拡張して改めて想起させているのだ。
これまでイスラエルは、中東で戦争を引き起こすことで、米国と欧州が自分たちを支持せざるを得ない現実を助長してきた。今回の戦争で「巻き込み戦略」が通用しなくなったため、イスラエルはこのような宗教的、文明的、歴史的使命の守護者として自らを意味付けている。
Q.欧州諸国が今回の戦争を契機としてイスラエルに対する立場を変えている根本的な背景はどのようなものか。
A.欧州はホロコーストというユダヤ人虐殺に対して道徳的な負債を感じている。さらに、イスラエルは中東で西欧の利益を守る先兵の役割を果たしてきたことから、欧州は無条件に支持してきた。ネタニヤフ首相が自分たちこそ西欧を守っていると主張するのも、この文脈から来ている。しかし、ガザ戦争を契機としてイスラエルが安全保障と経済で欧州にとって負担になってきていることから、もはや過去のようにイスラエルを支持し続けることはできなくなっている。
イラク戦争から続いている中東地域の戦争のせいで流入した難民は、欧州での極右勢力の台頭の決定的な要因となった。イスラエルはガザ戦争に続き、今回の戦争で第2の難民危機を招いているうえ、原油価格を上昇させ、欧州経済に直接的な負担を強いている。進歩勢力が政権を握るスペインや、極右ポピュリズム勢力が政権を握るイタリアでも、国民の60%が今回の戦争に反対し、大規模な反イスラエルデモが相次いでいる。
この戦争は、イスラエルの対西欧関係、欧州の対イスラエル政策、中東政策の転換点となりつつある。