李在明(イ・ジェミョン)政権の発足から1カ月が過ぎた。緊迫した憲政の危機の時間を経て、今や韓国社会は「いかにして新しい大韓民国を作っていくのか」という課題の前に立たされている。弾劾と大統領選挙以降、多くの国民の願う「新しい大韓民国」とは、12・3内乱事態とは根本的に異なる、12・3が二度と起こりえない、12・3後にあらわになった韓国社会のエリートたちの腐敗と社会の底辺の暴力を真に改革した大韓民国であるはずだ。
多くの人は緊張しながら問うている。民主主義は確実に安定するのか。私たちの自由と命はもう安全なのか。内乱勢力とその協力者たちが再び政権を握ることはないのか。国を無法地帯にした極右暴徒たちは今、何をしているのか。アカの処断を叫んでいた数十万の群衆はどこにいるのか。政府の政策の改革だけでなく、「社会」の変化を私たちはいかに実現させるのか。
このような問いと関連して、大統領選挙後の政治分野の最大の関心事が人事だったとすれば、社会問題で最も活発に討論されたテーマは「韓国社会の極右」だった。「韓国人の20%が極右」、「20代男性の3人に1人が極右」、「青少年は極右が主流」のような記事や調査結果が連日報道された。しかし、このような特定の人口集団を極右と規定する言説の氾濫は、問題の正しい診断と解決を難しくし、肝心の韓国社会において極右的世界観、憎悪、暴力を生産する勢力の具体的実体を見落とさせる恐れがある。
まず、極右の概念の混乱が激しいため、明確に定義することが求められている。よく保守、右派、嫌悪、両極化、ポピュリズム、権威主義がひどければ極右と規定したりしているが、これは極右に対する無理解だ。「極端主義(過激主義)」とは、民主主義、多元主義、法治などの現代の政治原理と、人権、自由、平等のような普遍的基本権を否定する思考、行動、組織を意味する。「極右」とは、反平等と排他性がこのように政治的、社会的な根本価値を傷つけるに至ったものだ。すなわち極右は、一般的な問題がひどくなった程度の話ではなく、法的、道徳的に特別な問題なのだ。
そのような基準から考えると、今日の韓国社会でどれほどの数の人が極右的傾向を持っているのか。この問いを扱う時、私たちは、様々な指数をあれこれ統合して「極右的集団」を特定しようとする試みを警戒しなければならない。なぜなら、階級、理念、性別、人種、国籍、宗教、性的アイデンティティーなど、どれか1つでも他人に対する差別と暴力、民主主義と多様性に対する攻撃を正当だと考えたら、極右的だからだ。最も極右的な人口集団を探し出すことよりも重要なのは、韓国社会にどのような問題があるのかを共に省察することだ。
韓国人は様々な面で、強弱はあれど極右的思考をしている。例えば、状況によっては独裁の方がましだとか、民主主義だろうが独裁だろうが関係ないと考えている人の割合が25%、非常戒厳に肯定的な反応を示した人が14%(東アジア研究院)、2024年の総選挙は不正選挙だったと考えている人が21%、フェミニズムの影響を阻むためには武力の使用も正当化しうると考える人が14%、性的マイノリティーに敵対的な感情を抱いている人が43%(韓国リサーチ)、国内に居住する難民を追放すべきだと考えている人が12%(イプソス)などだ。
このような極右的世界観は、特定の世代、ジェンダー、階層、宗教に局地化されていない。現在、20~30代の男性は独裁好き、弱者嫌悪、フェミニズムに対する敵意など、様々な面で、非高齢者世代の中では相対的に極右指向の集団の割合が高いが、先の憲政危機の時期における民主主義に対する最大の脅威は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)弾劾反対が50~70%にのぼった高齢層であったし、イスラムと難民に敵対的な人の割合が最も高いのは20~30代の女性だ。性暴力に対する認識が希薄なのは50代以上の男性で、今最も進歩的だとされる40代の一部は、10年あまり前に「私たちは差別に賛成します。怪物になった20代」(オ・チャンホ)と呼ばれた人たちだ。
階層的にみて若年男性の所得上位層で極右傾向が最も強いとする分析もあるが、地位に対する不安と剥奪感から来る反フェミニズム感情は中間層が最も激しいとする研究もある。プロテスタント、新天地などの極右系宗教は高齢者と青年男女の低所得層で最も多い。宗教は、よくプロテスタントが極右を連想させ、また実際に多くの牧師が極右系だが、信者を見るとプロテスタントは進歩と保守がきっ抗している一方で、今回の大統領選挙で極右政治家のキム・ムンスの支持率が52%に達した宗教は仏教だった(ハンギルリサーチ調べ)。
このように、各社会集団はそれぞれの危険性を抱えている。したがって私たちは、例えば20代男性、プロテスタント、上位層、下層などの特定の集団を極右だと疑うのではなく、至る所に偏在する暴力の潜在性を注視しなければならない。真に警戒しなければならないのは、このような社会的土壌が政治化することだ。大統領選挙後、社会の関心は普通の人々の極右的思考に集中したが、最も強い危険は、人々の心に暴力性を植え付けたり、潜在的な暴力性を増幅させ結集させる極右組織と集団、運動、メディア、パワーエリートたちだ。
私たちは「韓国人の何パーセントが極右」というようなアンケート調査の統計に埋没し、暴力と憎悪を生産する組織的諸実体を見落としてはならない。チョン・グァンフン牧師の「大韓民国を正す国民運動本部」のような政治連合体、陸士救国同志会や大韓民国守護予備役将官団などの退役軍人・将官団体、韓国自由会議のようなニューライト系のエリート組織、極右プロテスタント・新天地などの宗教集団、リバクスクールや自由マウルのような日常領域へと入り込んでくる「逆陣地戦」活動、日刊ベストストア(イルベ)・FMコリア・DCインサイドギャラリーなどのオンラインコミュニティー、登録者数が数十万にのぼる保守・極右ユーチューブチャンネル、韓米極右の国際的ネットワークなどは、つながり合って極右を形成している。
彼らこそ反共産主義、反左派、反労組、女性嫌悪、同性愛者嫌悪の言説と陰謀論を生産する陣地であり、競争社会に疲れて傷ついた者たちに怒りと憎悪を吹き込み、ハリー・ポッター風の「ディメンターのキス」でその魂を吸い込み、金を稼いで力を養っている者たちだ。新しい韓国社会を作るためには、彼らの土壌である経済的不安定、社会的孤立、ケアの空白などの構造的問題に積極的に答えなければならないし、他人の人権と私たちの社会の基本的価値観を攻撃する行為を厳格に規制する制度改革が必要だ。韓国社会は今、重い病にかかっており、危機に直面している。社会全体の取り組みによって、今、この問題を解決しなければならない。
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )