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韓国、不動産の二極化と総合不動産税のトラウマ【コラム】

登録:2025-06-21 00:05 修正:2025-06-21 07:00
ソウル松坡区の蚕室セネ駅交差点から眺める蚕室エルス(左)とリセンツ団地=チェ・ジョンフン記者//ハンギョレ新聞社

 知人は築50年のマンションに住んでいる。玄関前の天井には覆いのない蛍光灯がぽつんとついている。ゴキブリが出没して夜も眠れないことも多い。古いマンションにある駐車場は地上のもののみ。隙間なくびっしりと止めてある車はそろいもそろって高級外車だ。駐車要員は見事な腕前で訪問客の車までバレーパーキングしてくれる。そこは長きにわたって江南(カンナム)の富を象徴してきた狎鴎亭(アプクジョン)現代マンションだ。昨年春に知人の家を訪ねた時、漢江(ハンガン)の河原に面している知人の住む棟の部屋は80億ウォンで取り引きされていた。値は大幅に跳ね上がり、今は115億ウォン(約12億3000万円)を超える。土地取引許可区域(土許制)再指定と建て替えに対する期待が重なり、売り物件は姿を消した。ここは普通の人間にとってリアリティーが感じられない別世界だ。

 筆者の住むソウル郊外の築30年のマンション集合地の価格は、4年前に最高値を記録してから2億ウォンほど下落し、その後は横ばいが続いている。売り物件はあふれている。実需要者でさえ様子見が優勢だ。

 知人の住むマンションの坪単価は筆者の住むマンションの8倍だ。江南を中心として、そこから遠いほど、その差はさらに広がる。近ごろは差がさらに急速に広がっている。

 一昨日に韓国銀行が発行した「住宅価格両極化の経済的影響」と題する報告書もそれを裏付ける。2014年以降、ソウルの住宅価格は112.3%上昇した一方、全国平均は42.9%にとどまった。ソウルと地方の住宅価格の両極化は、中国、日本、米国など主要7カ国の中で最も深刻だ。

 下落で安定していた不動産価格が底を打って再び上昇がはじまったのも、震源地は江南だ。大統領選挙前に唐突に土許制を解除した「オソゴン」(ソウル市のオ・セフン市長が打ち上げたボール)の失敗が火に油を注いだ。土許制が再指定されたものの、火はあっという間に「麻龍城(麻浦(マポ)、龍山(ヨンサン)、城東(ソンドン))」へと広がった。ソウル外郭と首都圏にまで拡大する兆しが見られることから、懸念が高まっている。

 炎がこれ以上広がらないよう慎重に対処しなければならないが、ひどく両極化した資産としての不動産に合わせた政策も同時に展開すべきだ。現時点で李在明(イ・ジェミョン)政権は、過去の民主党政権の試行錯誤を繰り返さないという戦略的計算だと読み取れはするものの、あまりにも消極的に映る。李大統領は公約集で「超高価アパートの価格上昇抑制中心から、中産層、低所得層のための住宅供給中心の住居政策へと転換」すると表明している。また、候補時代に「税金で住宅価格を抑えることはしない」と述べている。民主党が昨年、総合不動産税(総不税)の廃止または緩和の動きまで見せたのは、このような雰囲気と無関係ではない。過去の政権の失敗を思い出させる総不税は、大統領選挙でタブーワードとなった。

 総不税のトラウマは、激しい反発と過度な物議、そして誤解からはじまった面もある。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と文在寅(ムン・ジェイン)政権での不動産価格の高騰の原因は総不税だと断定するのは難しい。両政権時代にはすでに住宅価格が高騰しており、総不税の導入と強化は事後措置だった。もちろん、総不税に市場を安定させる手段だという過度な期待をかけるのも危険だ。より根本的には、総不税は両極化した不動産市場における租税の公平性の強化という観点からアプローチしなければならない。

 知人の住むマンション集合地の家主たちは、ほぼ例外なく総不税を払っている。今年は去年より上昇するとみられる。ただ、条件が同じ(個人、1人所有、1住宅所有、60歳未満、1年保有など)と仮定すると、総不税は文在寅政権末期に比べ約450万ウォン増の3500万ウォン(約373万円)前後と推定される。同じ期間に、住宅価格はほぼ2倍に上昇した(上昇額50億ウォン)。100億ウォンを超えるマンションに数千万ウォンの総不税を課すのは行き過ぎだと考える人もいるだろうが、資産が50億ウォン増えた時に税金はせいぜい数百万ウォン増えたに過ぎないとすれば、快く同意する人はほとんどいないだろう。

 このようなマジックがなしえたのは、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が総不税をぼろぼろにしたからだ。住宅価格は跳ね上がったが、税率、公示価格、公正市場価額比率などを下げ、控除額と控除率は高めるなど、多層的に税負担を軽減したのだ。

 総不税導入の翌年に国税庁が発行した「税金に対する誤解、そして真実」という冊子には、今も有効な言葉が記されている。「両極化問題が深刻化している状況にあって、保有税負担の正常化は、不動産を保有し、その利益を享有する人々が適切な代価を支払い…」。当時より両極化がよりいっそう深刻化している現在、高価格マンションにより多くの税金を課して公平性が確保されるよう、弱まった総不税の機能を回復させなければならない。さもなくば不動産市場の両極化はさらに深刻化するうえ、新政権は不動産の不平等を放置するというメッセージとして受け取られることになる。

//ハンギョレ新聞社

リュ・イグン|経済社会研究院長兼論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1203755.html韓国語原文入力:2025-06-19 19:25
訳D.K

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