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トランプ大統領の漸進的戒厳令【寄稿】

登録:2025-06-17 09:37 修正:2025-06-17 09:59
ドナルド・トランプ米大統領の79歳の誕生日であり、米陸軍創設250周年記軍事パレードが開かれた14日(現地時間)、ワシントンD.Cのパレードの会場で、戦車と軍用車両が行進する姿をトランプ大統領などが見守っている=ワシントン/AFP・聯合ニュース

 ドナルド・トランプ米大統領は議会を排除し、憲法に違反し、米国経済と世界経済を破壊した。行政命令を通じて前例のない大統領の権限も振りかざしている。裁判所はトランプ大統領の数々の政策に歯止めをかけたが、現在上院で審議中の予算法案には裁判所の判決執行をこれまでよりはるかに困難にする条項が数千ページの中に隠れている。すでに最高裁は大統領のほとんどすべての行為が刑事免責の対象だというトランプ大統領の弁護人の主張を受け入れたことがある。

 権限の限界がどこまでかを試しているトランプ大統領は、今や軍隊に対する権限も試している。1792年に制定された反乱法を適用し、州防衛軍と海兵隊をロサンゼルスに派遣した。移民・関税捜査局(ICE)の措置に反対するデモを鎮圧するためだ。トランプ大統領のこのような行動は違憲だ。大統領は軍隊を治安活動に動員できない。

 トランプ大統領は米国全域の都市に州兵を派遣し、デモを鎮圧すると公言した。暴力・非暴力デモの区分もしない。移民問題を口実に公共機関に対する統制力を強化し、表現の自由と集会の自由を違憲的に抑圧しようとしている。ゆっくり、漸進的に実行に移される戒厳令であるわけだ。

ドナルド・トランプ米大統領の79回目の誕生日であり、米陸軍創設250周年記念の軍事パレードが開かれた14日(現地時間)、カリフォルニア州ロサンゼルスで開かれた「ノー・キングス」集会で参加者たちがプラカードを掲げている=ロサンゼルス/ロイター・聯合ニュース

 米国人たちはトランプ大統領の独裁的な動きに抵抗している。14日、ワシントンD.C.で行われた軍事パレードに合わせ、全国各地で数千件の「ノー・キングス」(王様はいらない)デモが開かれた。デモは特定の政党の支持者だけの行事ではなかった。多くの無党派の有権者と数人の共和党員さえもが、トランプ大統領の戒厳令の試みに驚愕している。

 議会で奇怪で民主党がトランプ大統領をけん制できるほどの議席を確保していない状況で、カルフォルニア州のギャビン・ニューサム知事がトランプ大統領に対する批判の急先鋒に浮上した。ニューサム知事は自分の承認なしに州防衛軍を派遣したことを、単なる憲法違反ではなく、トランプ大統領が絶対権力を掌握しようとする瞬間として正確に捉えている。ニューサム州知事は最近の演説で、「法の支配はますます『トランプの支配』に取って代わられている」とトランプ大統領を批判した。

 韓国では、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が昨年12月に戒厳令を宣布した際、国会議員と市民たちが直ちに抵抗した。彼らは数時間で戒厳令を撤回させ、尹大統領はその後弾劾された。憲法裁判所はこれを認容し、新たに選挙が行われた。戒厳令に対抗して勇気を持って戦った国会議員の一人である李在明(イ・ジェミョン)氏は、大差で大統領に当選した。

 一方、米国の状況は韓国とは正反対だ。トランプ大統領は、100万人を追放し、政府サービスを削減しようとする自分の措置が大規模なデモを触発することを知っている。そして、「一般的な」やり方でデモを抑えきれないなら、切り札を出すだろう。戒厳令だ。

 今、トランプ大統領に対する抵抗運動はジレンマに直面している。デモに参加すると、大統領が戒厳令を宣布する可能性が高まり、デモをしなければ、大統領は権力を拡大し続けるだろう。

 トランプ大統領は「強さ」を掲げている。だが、真に自分の権力に確信を持っている独裁者なら、誕生日に軍事パレードなどはしない。トランプ大統領も分かっている。多くの米国人が自分を支持しておらず、裁判所は自分の政策に反対し続け、大学、マスコミ、ハリウッドのような主な社会制度が自分を軽蔑していることを。トランプ大統領は自分が持っている(数少ない)信念さえ実践に移す勇気もない、弱い人間だ。最近付けられたあだ名「タコ」(TACO:Trump Always Chickens Out、トランプはいつも怖がって退く)がそれを物語っている。

 だからこそ、トランプ大統領の権力誇示に萎縮する必要はない。それは強さの表現ではなく、不安の裏返しだ。戒厳令宣布の危険があっても、トランプ大統領の行動に対する答えはデモしかない。デモはトランプ大統領に圧力をかけ、やがてこれまで暗黙的に言ってきたことを公の場で明らかにするよう導くだろう。自分が米国の民主主義を破壊しようとする独裁者であると。

//ハンギョレ新聞社
ジョン・フェッファー |米国外交政策フォーカス所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1202927.html韓国語原文入力:2025-06-16 08:50
訳H.J

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