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戦争終結どころか中東に拡大…トランプ大統領、対外政策破綻の危機

登録:2025-06-16 06:42 修正:2025-06-16 08:00
爆撃と報復「燃える中東」の波紋  
ベトナムに向かっていた米空母、中東へ 
ウクライナ戦の収束に向け仲裁する余力もなく 
ネタニヤフ首相に足を引っ張られたトランプ大統領
15日(現地時間)、イスラエルの空襲で、イラン・テヘラン市のシャラン精油貯蔵所が燃える姿をイラン市民が見守っている=テヘラン/ロイター・聯合ニュース

 ドナルド・トランプ米大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に足を引っ張られている。米国の「永遠の戦争」を終わらせ、中国との対決に注力するというトランプ大統領の対外政策の枠組みが、イスラエルのイラン攻撃で座礁する危機に陥ったためだ。

 米国防総省はイスラエルがイランを攻撃した13日、中東に米海軍戦艦など軍事戦力を移動させ始めたと、ニューヨーク・タイムズが報道した。駐ベトナム米国大使館は米軍空母「ニミッツ」のベトナム入港が「緊急な作戦要求」で取り消されたと発表し、米国が中東にさらなる空母打撃群の派遣を進めていることを示唆した。これは、中東紛争が米国の努力と資源をインド太平洋に集中させようとする戦力を実際にどのように阻んでいるかを示す事例だ。

 トランプ大統領は昨年の大統領選挙と今年1月の就任以来、米国の「永遠の戦争」を終わらせ、米国をこれ以上海外の紛争に関与させず、中国の浮上を抑制するためにインド太平洋に集中するという対外政策の骨幹を明らかにしてきた。だが、トランプ大統領のこのような公約と努力はウクライナ戦争とガザ戦争でほとんど成果を上げられなかったうえ、イスラエルのイラン攻撃でさらなる打撃を受けている。

4月7日、米国のドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がワシントンのホワイトハウスで会った時の姿/ロイター・聯合ニュース

 トランプ大統領は、自分が就任すればウクライナ戦争を24時間以内に終わらせることができると豪語し、就任してからも終戦に向けた仲裁を行ってきた。就任直後、ガザ戦争休戦を引き出し、イランとは核交渉を行ってきた。これはすべてウクライナと中東戦争を終わらせ、これらの地域に投入された米国の外交・軍事的資源をインド太平洋側に回すためだった。

 ところが、トランプ大統領のこのような公約と努力にもかかわらず、現在ウクライナとガザ戦争終戦に向けた努力は成果に繋がっていない。ウクライナは欧州の支援を受けて、米国とロシアが合意した従来の条件に反対してきた。イスタンブール平和会談前日の1日、核戦力が配置されたロシア本土の空軍基地を攻撃し、終戦交渉はしばらく不可能になった。トランプ大統領も報復を行うというロシアのプーチン大統領との電話会談の内容を公開し、米国は当面ウクライナに対するロシアの攻撃を傍観するというシグナルを送った。

 ガザ戦争の休戦も3月中旬に破られた。ネタニヤフ首相の極右内閣は、パレスチナのガザ地区を完全に占領し、パレスチナ住民を追放しようとする「ギデオンの戦車作戦」を遂行し、戦争を拡大している。

 イスラエルの対イラン攻撃は、トランプ大統領の就任後から政権内部と支持層の亀裂と軋轢(あつれき)を引き起こした事案だった。マイケル・ワルツ前大統領補佐官(国家安全保障担当)は、この事案のために更迭された。イランとの外交的交渉を優先視したトランプ大統領は、ワルツ前補佐官がネタニヤフ首相の対イラン攻撃など強硬策を擁護したことを受け、5月初めに彼を更迭した。

 ところが、イランを攻撃したイスラエルの挑発の前で、トランプ大統領は力を発揮することなく引きずり込まれた。米国はイスラエルの攻撃2日前から、中東地域の駐在大使館などの職員を避難させた。これは、米国がイスラエルの攻撃を事前に知っており、少なくとも黙認したという証拠だ。マルコ・ルビオ国務長官は、イスラエルの攻撃に米国は関与しておらず、一方的な攻撃だという内容の声明を発表した。だが、イランの対イスラエル報復攻撃を防ぐのに、中東地域の米軍が参加し、米軍の関与は避けられなくなった。

 イラン・イスラエルの攻撃が激化し長期化すれば、米国はイスラエルのイラン攻撃に参加する可能性も排除できなくなった。イスラエルは地下深く建設されたイランのフォルド核施設を攻撃するのに必要だとし、米国に大型バンカーバスター爆弾の供与を要請してきた。実際、イスラエルは独自にはイランの核施設を不能化させることができず、今回の攻撃は米国を引き入れようとする作戦だという分析がある。

14日、イスラエル・テルアビブ管区のラマトガン市で、イランのミサイル攻撃により建物が破壊されている=ラマトガン/ロイター・聯合ニュース

 イスラエルの挑発は、すでにウクライナの終戦交渉にも影響を及ぼしている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、AP通信などとの会見で、米国がウクライナに配備する予定だった防空ミサイル2万機をイスラエルに再配置することにした決定が、イスラエルのイラン攻撃前にすでに下されたと述べた。今後さらにウクライナへの支援が縮小されることは明らかであり、米国がすでに黙認しているロシアの攻勢はさらに激化するだろう。

 イスラエルの対イラン攻撃が現水準で終結するとしても、米国の外交・軍事的資源はかなりの間、中東に縛られざるを得なくなった。トランプ大統領は、今回の攻撃がむしろイランとの核交渉を促進すると強弁したが、イランは15日、米国との6回目の核交渉を見送った。米国とイスラエルはこれまで、イランの核施設に対するハッキング攻撃、核科学者の暗殺、核施設へのテロなどでイランの核計画を一時的に遅らせたが、このような取り組みは結局、イランの核開発をさらに拡大する結果を生んだ。

 対外政策に対するトランプ大統領の脆弱性と場当たり的かつ気まぐれな対応も明らかになった。ニュースコープのルパート・マードック会長、マーブルエンターテインメントのアイザック・アイク・パルムッター前会長など軍事介入を擁護するユダヤ人たちが、トランプ大統領を対イラン攻撃へと追い込んできたと、ワシントン・ポスト紙は報じた。

 トランプの最大の支持層である「MAGA(米国を再び偉大に)」陣営の不満も引き起こしている。MAGAの理論家でありポッドキャスターであるジャック・ポソビック氏は、Xへの投稿で「トランプの同盟を災害に近い形で分裂させるだろう」とし、「戦争を新たに始めないというトランプの賢い公約は接戦州で支持率を上げた理由であり、中間選挙が迫っており、議会で多数党の地位はすでに危うい」と懸念を示した。MAGA陣営のジャーナリストのターカー・カールソン氏は、トランプ大統領が「戦争行為の共謀者」だと批判しており、議会でトランプ大統領の最大の代弁者であるマージョリー・テイラー・グリーン下院議員も「眠りから覚めて、イランに対する爆撃を考える人がいるとは思わなかった」とし、代わりに米国は「自傷的な問題を」解決する必要があると述べた。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1202886.html韓国語原文入力:2025-06-15 22:03
訳H.J

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