米国のドナルド・トランプ大統領が北朝鮮のビーチとコンドミニアムについて語った。まさに「砂が明るく光る十里の海岸」である明沙十里(ミョンサシムニ)で、元山(ウォンサン)の葛麻(カルマ)半島の東にある。ここの大規模な観光団地が、着工から10年を経た今年6月にオープンする。トランプ時代、葛麻海岸が北朝鮮と米国の交渉の舞台として、または争点として登場した。越えなければならない山を点検してみよう。
まずは、葛麻海岸観光地区の規模をみなければならない。ホテル12棟、コンドミニアム27棟、ペンションと民宿を合わせて客室数は2万室になる。かつての金剛山(クムガンサン)観光地区の客室590室ほどに比べると相当な規模だ。北朝鮮は困難な経済状況にもかかわらず、なぜ葛麻地区の完成に全力を注いだのだろうか。元山が金正恩国務委員長の故郷だという点が作用した。さらに重要な理由は、国際的な制裁状況のもとで外貨を稼げる分野こそ、まさに観光であるためだ。
6月のオープン後、誰が来るのだろうか。北朝鮮の人々の国内観光から始めるのだろうが、これほどの規模の施設を維持して運営するためには、当然、外国人観光客を誘致しなければならない。北朝鮮はまずはロシアの観光客に期待している。しかし、ロシア極東は人口が少なく、ロシア西側の都市から来るには移動コストが高い。年に数千人を超えないだろう。
当面は中国人観光客に依存するしかない。パンデミック前の北朝鮮の国外観光客で中国人が占める割合は90%を超えた。観光客が最多となった2019年は、収益が少ない日帰り観光を除くと、中国人団体観光客は13万人から15万人と推定される。ほとんどが北朝鮮に隣接する東北3省の住民たちだ。中国人観光客がアクセスの良い羅津(ナジン)や新義州(シンウィジュ)ではなく、元山にまで行く場合、移動に手間がかかり費用が増える。中国人観光客だけで1日に2万室の客室を満たすことはできない。
葛麻地区の規模を考慮すれば、当然南側の扉を開かなければならない。「美しい浜辺」で米国は何ができるのだろうか。コンドミニアムはすでに十分に作られているため、トランプホテルを追加で建てるのは難しく、問題は観光客だ。韓国系を含む米国人がビーチに行くのであれば、解決しなければならない課題は多い。2017年6月、米国人大学生のオットー・ワームビア氏が死亡したとき、トランプ政権は北朝鮮を旅行禁止国に指定した。強力な金融制裁を含む「オットー・ワームビア北朝鮮核制裁強化法」もトランプ政権期に作られた。トランプ大統領が保守的な世論を変えるためには、北朝鮮が過去の事件の再発防止案を提示する必要があるだろう。
個人観光は制裁対象ではないが、観光会社の営業活動は制裁の壁を乗り越えなければならない。当然、米国は観光を北朝鮮核問題の交渉の補償と考える。トランプ大統領は北朝鮮との交渉のために再度「明るい未来」を語っているが、北朝鮮の期待は高くはない。2019年2月にハノイ会談が決裂したとき、金正恩委員長は米国が渡した「明るい未来」が書かれた文書を席にそのまま残して去った。6年が経過したが、不信の傷は深い。日本の観光客はどうだろうか。北朝鮮と日本が長年の拉致問題の泥沼から抜け出し、外交関係を正常化すれば、元山は両国の人的交流の通路となるだろう。もちろん、万景峰号がふたたび元山港に入港するには、越えねばならない山が多い。
北朝鮮が葛麻の成功を望むのであれば、韓国の観光客を無視できない。1998年から2008年までの10年間、金剛山観光客は195万人だった。2007年の1年間だけで35万人で、パンデミック前の中国観光客より多かった。もちろん、葛麻は金剛山という不信の渓谷を越えなければ、行くことはできない。金剛山観光客銃撃事件の再発防止策が17年経過した現在も有効なのかについては疑問だ。北朝鮮が何の協議もなしに撤去した金剛山の南側施設に対する財産権侵害についても、確認しなければならない。過去の問題を覆い隠したまま、未来の協力を進めるのは難しい。観光客が安心して北朝鮮を訪問できる環境は、北朝鮮自らが作らなければならない。観光は門戸を開くことであり、当然、開放社会に切り替える意志がなければならない。
南北関係はあまりにも疎遠になってしまった。南北観光交流は、南北関係の性格を敵対ではなく協力に切り替えてこそ可能だ。楽観はできない。しかし、長い目で見れば葛麻の成功は南側の江原道にとっての機会だ。崩れた南北関係の復元は、境界隣接地の平和と非武装地帯の平和的利用から始めなければならない。南北観光交流を始める前にも、江原道の襄陽(ヤンヤン)空港、または束草(ソクチョ)と高城(コソン)を通る陸路は米国、日本、あるいは中国人が葛麻に行く経路になりうる。世界も朝鮮半島のいずれも危機の海だが、葛麻という小さな機会の船が現れた。今こそ、不可能を可能に切り替える交渉の技術を準備するときだ。
キム・ヨンチョル| 元統一部長官・仁済大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )