尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が9・19南北軍事合意を事実上廃棄したことで、この6年のあいだ南北の軍事衝突を防いできた安全弁が消えた。北朝鮮の「汚物風船」挑発を防ぐこともできず、危険な南北の軍事的対決局面ばかりを助長する無謀な対応だ。尹大統領が大切だと考える米日の支持を得られるかも未知数だ。尹政権は「政権の利益のために国全体を危険に陥れている」と批判されるこの決定を撤回すべきだ。事態を根本的に防ぐ解決策を講じるには、南北が対話して互いに対する不信を解消し、相互の脅威の縮小を協議すること以外、方法を見つけるのは難しい。
尹大統領は4日、前日に予告した通り「9・19軍事合意の全効力停止案」を裁可した。2018年9月の合意から6年。国防部は裁可直後に発表した声明で、これまで「制約を受けてきた軍事境界線、北西島しょ一帯で韓国軍のすべての軍事活動を正常に復元」すると明らかにした。この措置で軍は、禁止してきた軍事境界線から5キロ以内の砲兵による射撃訓練、連隊以上の野外機動訓練、北朝鮮に対する拡声器放送もできるようになった。北朝鮮が2日夜の談話で汚物風船挑発を中断すると一歩退いたにもかかわらず、それを無視して対決を選んだわけだ。「休戦ラインで高射砲弾が飛んでいた時代に戻ろうというのか」(共に民主党のパク・チャンデ院内代表)という野党の批判は当然だ。
国同士の対立においては、拳は振りあげるより下ろす方が難しいものだ。自由北韓運動連合は直ちに「報復の性格を帯びた」対北朝鮮ビラを飛ばすとしている。そうなれば再び北朝鮮は韓国を刺激する挑発を開始するし、韓国軍も相応の対応をする状況に直面することになる。このままでは南北が共倒れする恐れがある。支持率が21%まで落ちた尹大統領は、政権の短期的利益のために国全体を安保危機に陥れているのだ。
米日も尹大統領の対決路線に距離を置いている様子だ。米国務省のマシュー・ミラー報道官は3日(現地時間)、北朝鮮の「汚物風船」に韓米はどう対応するのかと問われ、「虫ずが走り、無責任で幼稚な戦術であり、直ちに中止すべきだ」と述べるにとどまった。質疑応答の過程では爆笑が起こった。北朝鮮が軍事挑発を行う度に「過剰対応」してきた日本も同じだ。林芳正官房長官は4日の記者会見で、「韓国の判断を尊重する」としつつも、「南北間の緊張の高まり、事態のエスカレーションにつながらないということが重要だ」と述べた。緊張を高めないよう求めたということだ。