セウォル号惨事10年を迎え、安山(アンサン)の檀園高校の記憶教室や珍島(チンド)の彭木(ペンモク)港など、追悼空間への訪問者が絶えない。犠牲者と遺族、そして惨事の教訓を忘れないという市民の連帯と確約だ。セウォル号は安全よりも利潤を優先する韓国社会の素顔を赤裸々に示した。しかし、反省と省察で惨事に向きあう市民たちとは違い、政府はセウォル号がすみやかに忘れ去られることだけを望んでいるようだ。
15日、セウォル号関連の市民団体「4・16連帯」によると、社会的惨事特別調査委員会(社惨委)が2022年6月の活動終了とともに勧告した54の措置のうち、政府が履行したものはわずか1つ(海洋災害捜索構造システムの改善)にすぎなかった。社惨委は、セウォル号の遺族に対する国家情報院の不法査察やセウォル号の調査妨害などについて大統領が自ら謝罪することを勧告したが、大統領室は拒否した。また社惨委は、不法査察とセウォル号の調査妨害に対する追加の独立した調査▽国家情報院の資料の国家記録院への移管▽医療支援金の支給期間の改正なども勧告したが、すべて退けられた。それだけではない。檀園高校の向い側にある花郎(ファラン)遊園地に公式の追悼施設を作ることで合意したが、政府が様々な理由で先送りしたため、10年が過ぎた今でもまだ着工すらできていない。米国連邦政府がニューヨークの中央に911メモリアルミュージアムを作ったのは、記憶を通じて悲劇を繰り返さないという意志を示したものだ。しかし韓国政府は、セウォル号惨事が市民に記憶されること自体を恐れているようにみれる。
セウォル号惨事が起きて10年となったが、韓国社会の安全は一向に良くならない。過去1年間に職場での事故で死亡した労働者は598人にものぼる。自殺人口は1万人を優に超えた。2022年10月29日にソウル市の梨泰院(イテウォン)で159人が圧死した事件は、セウォル号惨事とそっくりだった。政府は徹底した真相究明と責任者処罰、対策準備の代わりに、真相縮小と責任回避に汲々とした。このような政府では、市民は不安にならざるをえない。東亜大学の緊急対応技術政策研究センターが最近、セウォル号10年を迎え災害安全認識を調査した結果、回答者の60%が韓国は「安全ではない」と答えた。回答者は、安全に対する責任が中央政府(34%)と大統領(41.4%)にあると答えたという。それでも政府は、市民の安全とはかけ離れたところにもっと気を使っているようだ。惨事を記憶しない社会は決して安全にはなりえない。