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[寄稿]テロリズムの帰還か

登録:2024-04-01 06:13 修正:2024-04-01 11:30
ロシア・モスクワ近郊のコンサートホールで起きたテロの容疑者として逮捕されたムハマド・ソビル・ファイゾフが3月24日(現地時間)、車椅子に乗ってモスクワ裁判所に出頭し、目を閉じて座っている=モスクワ/AP・聯合ニュース

 米国は「テロとの戦争」という名で、同時多発テロの加害者だけでなく他の標的も狙い、世界レベルでの戦争を始めた。この戦争は恐らく、射殺した者よりも多くのテロリストを生み出しただろう。米国はアルカイダと緊密な関係ではなかったアフガニスタン、アルカイダと全く関係のないイラクに侵攻し、多くの民間人を殺害した。

 きちんと定義されていない目的を達成することに失敗した米国は、結局、他の安全保障上の脅威に焦点を移した。今、世界はロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ地区攻撃、中国と台湾の衝突の可能性など、国家が行う戦争をよりいっそう懸念している。

 しかし、最近のモスクワで起きたテロ事件が示したように、一部のテロ組織は依然として強力だ。「イスラム国」(IS)はイラク戦争の残骸、そしてシリアのアサド政権に対する蜂起から芽生えた。イスラム過激派はイラクとシリアの広い地域を支配した。ISが作り出したカリフ制国家は米国、ロシア、シリア、イラクの度重なる攻撃によって、2019年に崩壊した。

 しかし、カリフ制国家は滅びてもISは生き残り、シリアで攻撃を続けている。東南アジアにもまだ基盤を持っている。ISの連携グループはアフリカでも活動を続けている。ISはアフガニスタンでタリバンのライバルに浮上した。アフガニスタンで活動するISの分派組織は、自分たちがモスクワテロを犯したと主張した。ISへの爆撃、アフガニスタン侵攻、ロシア内のムスリムグループへの弾圧が、ISがロシアを攻撃した理由だ。

 テロリストを定義するのは容易ではない。南アフリカ共和国のアフリカ民族会議や北アイルランドのアイルランド共和軍は、彼らが政府を構成した後はテロ組織と呼ばれなかった。しかし、米国とイスラエルは2006年のガザ地区選挙で勝利し、政府の役割を果たしてきたハマスを認めていない。米国とイスラエルは彼らをテロ組織と呼んでいる。国のないパレスチナ人やクルド人が自らを守ろうと武力に頼る時、外部の人たちは彼らをテロリスト扱いする。しかし、支持者たちはこのような武装勢力を「自由の戦士たち」と呼ぶ。

 ISは彼らとは異なる。ISは抑圧される人々のために戦っているわけではない。国際秩序を破壊し、自由を全く許さない宗教的カリフ体制に取り替えようとしている。ISは国民国家という近代的概念を認めず、中世的統治の復活を目指している。米国とロシアは多くの問題で対立しているが、少なくともISが彼らにとって安全保障上の脅威であることを認識しなければならない。

 ところが不幸にも、ウラジーミル・プーチン大統領は同時多発テロ以降のジョージ・ブッシュ大統領のような過ちを犯そうとしているようだ。プーチン大統領は証拠がないにもかかわらず、モスクワで起きたテロ事件の責任をウクライナとその支持国に転嫁しようとしている。ブッシュ大統領は同時多発テロをアフガニスタンとイラク政権交代という目標を達成する機会として使った。プーチン大統領はまた、ブッシュ大統領がアルカイダの計画に対する警告を深刻に受け止めなかったことに対する世論の批判から目をそらそうとしたように、テロを防げなかった責任からロシア人の関心をそらそうとしている。

 2人の似ている点は他にもある。法廷に出頭したモスクワのテロ容疑者には拷問の跡が残っていた。担架に乗せられて出てきた人もいた。拷問する場面が収められたとみられる動画がいくつかインターネットに出回った。ブッシュ大統領は、水責め尋問をはじめとする「強化された尋問技法」を適用する口実として、同時多発テロを掲げた。

 ISは規模と影響力こそ減ったものの、明らかに国際社会にとって強力な脅威として残っている。これは悲劇的な事件が起きたにもかかわらず、国際社会が分裂を克服して共通の脅威に集中できないほど弱体化したことを示す兆候だ。

//ハンギョレ新聞社
ジョン・フェッファー | 米外交政策フォーカス所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1134591.html韓国語原文入力: 2024-03-31 18:53
訳H.J

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