ロシアの代表的な野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が獄中で突然死亡したことを受け、暴圧統治を続けているウラジーミル・プーチン政権の「正当性の危機」がさらに深まる見通しだ。ロシアの国際的な孤立も深まり、ウクライナ戦争終結の糸口を見出すことも期待できなくなった。
ナワリヌイ氏が収監されていたシベリアのヤマロ・ネネツ自治区の刑務所で16日(現地時間)に突然死亡した後、モスクワに設けられた臨時の追悼場所で静かな追悼の列が続くなど、ロシア全域でナワリヌイ氏の死を悼む動きが広がっている。ロイター通信が17日付で報じた。ロシアの人権団体「OVDインフォ」は、同日午後までで全国36都市で追悼者401人が警察に連行されたと明らかにした。
追悼者は強い怒りと絶望をあらわにした。モスクワの追悼所で献花したウラジーミル・ニキチンさん(36)はロイターのインタビューで、「ナワリヌイ氏の死はぞっとするものだ。希望が粉々に砕けた」と語った。また別の追悼者は「彼が未来に何かを成し遂げる人物と期待してきた」と言い、死を悼んだ。追悼所には「私たちは忘れない、容赦もしない」と書いたメモなどが貼られていた。
弁護士出身で2000年に政治に飛び込んだナワリヌイ氏は、政府の腐敗と人権弾圧を強く批判し、プーチン大統領の最大の政敵として浮上。その後、生死をさまよう危機を乗り越え、プーチン大統領に対抗するロシアの良心として大きな注目を集めてきた。2020年8月20日、シベリアからモスクワに向かう飛行機で毒物中毒症状で意識を失い、ドイツに移って治療を受けた。しかし、亡命ではなく翌年1月17日に帰国を選んだ。多くの人々が懸念したとおり、ロシア政府は2014年の金品違法取得容疑で下された有罪判決の執行猶予決定を取り消し、ナワリヌイ氏を収監した。その後、氏は過激主義扇動などの疑いで30年以上の懲役刑を宣告された。氏は獄中でもウクライナ戦争に反対する声をあげるなど、政府批判を続けた。
ナワリヌイ氏の突然の死は、ロシア政府の弾圧で大きく萎縮した民主陣営の終末につながるという憂慮を生んでいる。米シカゴ大学のコンスタンチン・ソニン教授(政治経済学)は、「もはやロシアでプーチンの言葉に疑問を呈したり、反対の声をあげることさえ、どうやったら可能なのか不明になった」と懸念を示した。
ロシア連邦捜査委員会は、最長30日にわたりナワリヌイ氏の死亡に対する「手続き的検討」に入るとし、遺体を家族に引き渡していない。ロシア政府が死因を隠ぺいするだろうという懸念が高まる中、クレムリン(ロシア大統領府)の内外でも、現在の状況を気にかける声があがっている。ロシアの独立メディア「メドゥーザ」は、クレムリンの政治戦略家と政権与党「統合ロシア党」の関係者らが、来月15~17日に予定された大統領選前に発生した今回の事態がプーチン大統領にとって「非常に否定的な状況」になるという見通しを示したと報じた。別の政府関係者も「(プーチン)大統領は(西側から)再び手を血に染めた独裁者であり殺人者と呼ばれることになるだろう」と述べた。消息筋は、「ナワリヌイ氏の死去後、西側諸国ではプーチン大統領との対話を決して容認できないというムードが強まり、丸2年となるウクライナ戦争を終結させるための交渉の可能性もほぼ消えた」と診断した。
実際、米国のジョー・バイデン大統領はナワリヌイ氏死亡のニュースが流れた直後、「ナワリヌイ氏の死がプーチンとその側近のならず者たちが行った何らかの行動にともなう結果だということは疑う余地がない」と述べた。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長も「ナワリヌイ氏の死に対するロシアの責任を問うための努力を惜しまない」と約束した。英国のデービッド・キャメロン外相も、西側の主要7カ国(G7)とともにロシアに対する対応措置を検討すると宣言した。
ロシアの反体制派は、西側の強力な対応を求めた。英国で亡命生活を送っているロシアの民間石油会社ユコスのミハイル・ホドルコフスキー元会長は、政治専門メディア「ポリティコ」への寄稿で、3月の大統領選でプーチンが再選しても西側諸国は絶対に結果を認めてはならないと述べた。さらに、西側がプーチンといかなる接触をしたとしても平和の試みを引き出すことはできないとし、ウクライナに対する強力な軍事支援だけが戦争を終わらせることができると強調した。
ナワリヌイ氏の死は、ロシアの閉鎖性と排他性をさらに強めるものとみられる。メドゥーザは、プーチン大統領の側近の言葉を引用し「政府はナワリヌイが死亡した時に備えた対応策をすでに準備している」と伝えた。また、ロシア政府が「西側が過激な反政府派の人物の死を機に、プーチン大統領に打撃を与えようと大騒ぎするだろう」や、「ナワリヌイの死は西側だけに利益を与える」、「ロシア内の強硬派がナワリヌイを除去したことでウクライナ戦争を終わらせるための交渉を座礁させた」などの主張を同時多発的に広めるだろうと予想した。