尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「(夫人の)キム・ゴンヒ女史の株価操作疑惑に対する特別検事法」(以下特検法)の再議要求権(拒否権)を行使した日、韓国法務部が発表した資料について、法務部が事実上検察に嫌疑なしの処分にするよう捜査を指揮したという批判の声があがっている。
法務部は5日、尹大統領の拒否権行使直後、「野党単独で強行した違憲的な特検法案2件に対する国会の再議要求、国務会議で議決」という6ページの報道資料を発表した。同資料で法務部は「ドイツモータース株価操作疑惑事件は文在寅(ムン・ジェイン)政権当時の検察が、キム・ゴンヒ女史が大統領と結婚する前である12~13年前のことについて、すでに2年以上強引で過度な捜査だと批判されるほど徹底的に捜査したにもかかわらず、キム・ゴンヒ女史については起訴どころか呼出しすらできなかった事件」だと主張した。法務部は所管省庁として、政府に移送された法案に対し意見表明できるという法制業務運営規定に則り、立場を表明する資料を出したと説明した。
問題は、法務部が「呼出しすらできなかった事件」としたドイツモータース株価操作事件が、まだ「現在進行中の事件」という点だ。2020年、告発によって捜査が始まったが、検察はキム女史に対するまともな捜査も不起訴処分もせず、時間ばかり引き延ばしている。このような状況で、法務部が「具体的犯罪の手がかりがあった事件ではない」、「起訴どころか呼出しすらできなかった」、「権力型不正腐敗事件とは言えない」という内容の報道資料を出したのは、検察に嫌疑なし処分書を書いて渡したとも取れる行動だ。「手がかりがない」という法務部の説明とは異なり、通話の録音記録や相場操作を総括した投資諮問会社で発見されたキム女史の口座の管理ファイルなど、キム女史が関与したという情況は、先に起訴されたクォン・オス元ドイツモータース会長など作戦勢力の裁判で多数明らかになっている。
法務部の報道資料が大統領室と与党の主張をそのまま写したかのように、政治用語だらけであることも批判を受けている。法務部はキム・ゴンヒ特検法について、「特定の政党が政治的な目的を持って告発した事件」、「総選挙への影響を狙った政争のための立法」だと批判した。匿名のある弁護士は「特検法が『総選挙用』だと主張するのは、与党が野党を攻撃する典型的な論理」だと語った。
さらに法務部は報道資料で、与党の特別検察官の推薦権を排除した特検法条項について、「最小限の中立性どころか、政治偏向的な特別検察官が任命されるのが目に見えている奇形的な構造」だと問題視した。しかし、これは2016年の国政壟断特検法にもあった条項だ。2019年2月、憲法裁判所はこの条項に対して合憲決定を下し、「捜査対象になりうる大統領が所属する与党が特別検察官候補者を推薦することによって利害衝突状況が生じた場合、特別検察官制度の導入目的を阻害する恐れがある」と判断している。