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国際刑事裁判所はイスラエルの「人道に対する罪」を断罪できるか

登録:2023-11-07 08:06 修正:2023-11-07 09:18
イスラエルがレバノン攻撃に白リン弾を使用したと、アムネスティ・インターナショナルが先月31日(現地時間)に主張した。写真は先月15日、白リン弾と推定されるイスラエル軍の砲弾がレバノン南部の国境村に投下され爆発する様子/AP・聯合ニュース

 イスラエル軍が武装組織ヒズボラへの攻撃を予告し、戦線をレバノンに拡大した。アムネスティ・インターナショナルは先月29日、イスラエルがレバノン南部のダイラで、国際法で禁止されている白リン弾(致命的毒性物質である白リンで作られた爆弾)を使ったという証拠を公開し、「戦争犯罪として調査しなければならない」と主張した。

 その2日前、国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン検察官はエジプトのカイロで記者会見を行い、ガザ地区の民間人たちを封鎖し、食糧や医薬品まで絶ったイスラエルを非難した。会見に先立ち、カーン検察官はソーシャルメディアに動画声明を投稿し、イスラエルがローマ規程(国際刑事裁判所に関するローマ規程)にともなう「刑事責任」を負うこともありうると警告した。今回の攻撃だけでなく「2014年、イスラエルがガザ地区とヨルダン川西岸で犯した犯罪」についても「積極的に調査している」とし、ガザ地区の武装組織ハマスも調査の対象だと付け加えた。

ICCの設立の基盤となった「ローマ規程」

 ロシアのウクライナ侵攻に続き、イスラエルとハマスの戦争が勃発し、世界は悲劇に突き進んでいる。戦争自体が何よりも残酷な歴史的事件だが、それでも少しはその残酷さを弱めることはできる。戦争捕虜を拷問したり、殺したり、強制労働をさせることのないよう国際法で定め、身体に恐ろしい苦痛を残す武器を使ったり、民間人を大量虐殺した場合は、国際社会が制裁するなど、ルールを作る目的はまさに戦争の残酷さを軽減することにある。国連で可決された各種の条約や国際法、国連の決議案などは、そのようなルールを表す枠組みだ。シリア政府軍による化学兵器を使った攻撃やイスラエルの白リン弾使用、ロシアのウクライナ民間地域への爆撃など、国際法が守られていない場合がもちろん多い。しかし、国際的なルールがなかった時に比べると、ほとんどの国は不利益を懸念してルールを守ろうと努力している。

 大量虐殺、意図的な民間人殺傷、戦時の性的暴行と戦争捕虜に対する虐待および処刑、民間人地域と保健、医療、教育、施設などインフラの破壊などは、人道に対する罪と呼ばれる。「戦争犯罪」よりもう少し包括的な概念だ。戦争犯罪を国際社会が裁判形式で法廷で扱い始めたのは、第二次世界大戦直後のニュルンベルク裁判と東京裁判にさかのぼる。1945年8月、ニュルンベルク国際軍事裁判所の活動の根拠となったロンドン憲章に「人道に対する罪」という新しい法的カテゴリーが作られた。当時、もう一つ付け加えられた概念は「平和に対する罪」で、戦争を計画し起こした行為自体を犯罪として扱おうということだった。にもかかわらず、ニュルンベルク裁判ではナチス・ドイツが犯したユダヤ人虐殺自体は問題視されなかった。ホロコーストがイシューになったのは1948年、イスラエルが建国され、虐殺者を追跡する過程においてだった。

 他のすべての概念と同様に、犯罪に対する認識も時代とともに進化する。人道に対する罪の概念は、国際慣習法といくつかの国際裁判所の裁判を経て発展してきた。最も明確な基準は、ICCを設立するために1998年に採択されたローマ規程だ。同規程によると「民間人を対象にした広範囲で組織的な攻撃」によって殺人および虐殺、奴隷化、強制追放や強制移送、投獄と拷問、性的暴行と強制妊娠、強制不妊施術などを行うことが人道に対する罪に当たる。人種や民族あるいは文化的・宗教的な理由で特定集団を迫害することや人種分離も含まれる。

イスラエルは「ローマ規程」に加盟していないが

 ニュルンベルク裁判と東京裁判以後、旧ユーゴスラビア連邦戦犯裁判所(ICTY)、ルワンダ内戦戦犯裁判所、西アフリカ内戦戦犯裁判所、カンボジアのクメール・ルージュ裁判所などが作られたが、運営過程は事案によって様々だった。また、これらの裁判は時間がかかりすぎて、被疑者が「天寿を全うする」場合が多く、「遅れた正義」が果たして正義なのかに対する疑念を抱かせた。

 ローマ規程は、ルワンダ内戦と旧ユーゴ連邦内戦後、国際社会で人道に対する罪を審判する共通の枠組みを作るべきという認識の高まりと共に生まれた。この規程により、2002年オランダのハーグにICCが設立され、これまで韓国を含め123カ国が署名している。ICCに事件が受け付けられれば、検察官室で事前検討を行ったうえで「公式捜査」に入る。検察官が起訴すれば、ICCの法廷に移る。事前審判部で正式裁判にかけるかどうかを検討し、決定されれば1審裁判所で裁判を担当する。紛争当事者に適用される国際人道法や武力衝突に関する国際法は、一つの成文法として定められているわけではないが、1949年のジュネーブ条約とそれに伴う議定書が法典の役割を果たしている。

 しかし、大国や人道に対する罪を犯した疑いが持たれている国々が、ローマ規程を拒否していることが問題になっている。米国はローマ規程に一度署名したものの、のちに撤回した。ロシア、中国、インドは署名もしていない。イスラエルも同じだ。パレスチナは2015年にローマ規程の加盟国となった。パレスチナの要請によりICCが2014年のイスラエルによるガザ地区攻撃、ヨルダン川西岸と東エルサレムの不法入植地の建設を調査した時、イスラエルはローマ規程の加盟国ではないとして、「ICCの権限は適用されない」と主張した。当時、ICCの検察官だったファトゥ・ベンソーダ氏の要請により、ICCは西岸とガザ、東エルサレムにも管轄権が存在するという判断を下した。その後、ベンソーダ氏が5年間の予備調査の末、正式調査に着手すると、ドナルド・トランプ米大統領は2020年、ベンソーダ氏の米国ビザを取り消し、金融制裁を加えた。翌年6月、ベンスーダ氏が退任した後、ICCは同事件の調査を中断した。

 ガザで再び戦争が起きたことを受け、南アフリカ共和国とスイス、リヒテンシュタインなどいくつかの国がICCの介入を要請した。カリム・カーン検察官は「決断力を持って」調査すると意志を示している。イスラエルの政治指導者や軍指導部をICCで捜査し起訴しても、法廷に出席するよう強制することはできない。それでも国際社会の莫大な圧力として、行動に制約が加わるのは明らかだ。イスラエル軍高官や政治家は、ローマ規程の加盟国を訪問する際、逮捕される危険を甘受しなければならない。イスラエルは国際機関で米国の庇護に依存してきたが、米国はローマ規程に加盟しておらず、ICCへの影響力も限られている。欧州もウクライナ戦争に関して強力な捜査と起訴を要求してきたため、イスラエルを擁護すれば、論理的矛盾に陥ることになる。

 多くの圧力の中でもイスラエルに対し捜査の刀を抜いたことで、ICCは国際社会の前で「正義」の基準を示さなければならない位置に立った。パレスチナだけでなく、世界が「見守っている」。

ク・ジョンウン|国際専門ジャーナリスト (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/arabafrica/1114915.html韓国語原文入力:2023-11-06 10:18
訳H.J

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