子宮内で胎児、特に脳が他の霊長類に比べてはるかに速く成長することは、人間(ヒト)の進化の秘密であり、人間と他の霊長類を区別する主な特性の一つだ。
人間の胎児は1日平均約11.6グラムずつ成長する。一方、ヒト科(ホミニド)に属する霊長類の中で最も成長の速いゴリラの胎児は1日に8.2グラムずつ成長する。人間の方が40%も速く成長するわけだ。
科学者たちは、この成長速度が大きな脳を持つようになったことと深い関連があるとみている。人間は体に比べて脳が相対的に大きく、新生児を分娩する時には大きな苦痛を伴う。では、人の胎児が子宮の中で成長速度が速くなったのはいつからだろうか。
だが、胎児が化石として残っている事例はほとんどないと言っても過言ではない。まれに発見される骨盤や乳児遺骨では、この空白を埋めるのは難しい。
米ウェスタンワシントン大学の研究陣が、思いがけないところでこのような悩みを解決できる方法を見つけた。霊長類胎児期の成長速度は、最初と3番目の奥歯の長さの割合と密接な関連があることを発見したのだ。幸い、歯は最も多く残っている骨格化石の一つだ。研究陣はこれを根拠に、人間の進化の歴史の中で胎児の成長速度がどのように変化してきたのかを類推し、国際学術誌「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に発表した。
研究陣はまず、後期中新世である600万年前から更新世が始まる1万2千年前の間の類人猿と、アフリカおよびアジアの猿など608頭の霊長類の奥歯と頭蓋骨の化石データを総合分析し、胎児の成長速度を予測できる数学モデルを構築した。その後、このモデルを利用して奥歯の化石の大きさを土台に、類人猿13種の胎児期の成長速度を類推した。
脳容量の増加-道具の使用-協力の強化…連鎖的な相乗作用
その結果、ホミニドの胎児期の成長速度は約600万年前にチンパンジーから分かれてから速くなり始め、約100万年前には現生人類と同じようになったという計算が出た。
研究陣は、アウストラロピテクスのような初期ホミニドの胎児成長速度は現代の類人猿と似ており、150万年前~200万年前のホモ・ハビリスから類人猿を追い越し始め、ホモ・エレクトスの場合は一日9.83gで、成長速度に明確な差が生まれたと明らかにした。さらにネアンデルタール人に至っては胎児の成長速度が1日11gで、現生人類とほぼ同じになった。
研究を率いたテスラ・モンソン教授(古人類学)は「今回の発見は、人間の進化のもう一つの重要な要素である道具の使用に関する研究結果とも一致する」とし、「胎児の成長速度と脳容量が増加する頃、人間の祖先はより多くの道具を使って資源を収集していた」と述べた。また、これは連鎖的に胎児の脳の成長速度と人との協力、道具の使用を強化する好循環効果をもたらしたと、モンソン教授は説明した。
モンソン教授は「非常に興味深い事実は、初期人類が現生人類の登場する数十万年前の50万年~100万年前に、他のすべての現存の類人猿とは異なる胎児の成長速度に達していたという点」だと強調した。
しかし、研究陣は胎児期の成長速度と奥歯の長さの割合が相関関係を持っている理由は究明できなかった。現在、特定の遺伝子と関連があるかを調べている。
実際、過去に遡らない限り、遺骨の奥歯を通じて胎児期の成長速度を推定することがどれほど正確なのかを確認できる方法はない。モンソン教授は「しかし、過去600万年間の胎児の成長速度の増加推定値は、ホミニドの骨盤および脳の大きさの増加と一致する」と述べた。
英ケント大学のパトリック・マホニー教授(骨格生物学)は科学雑誌「ニューサイエンティスト」で、「遺骨は保存状態が良くないため、胎児の成長速度についての情報を得ることが非常に難しいが、この障害を乗り越えられる新しい方法を提示したという点で非常に重要な研究」だと評価した。
妊娠末期には成長速度低下
しかし、急速に成長する胎児は、妊娠末期になると成長速度が遅くなる。
日本とベルギー、スイスの共同研究陣は、人間とチンパンジー、日本猿の出生前後の姿を比較分析した結果、人の胎児の肩の成長速度が出生前にしばらく遅くなってから出生後に再び速くなることを発見したと、今年4月、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。
科学者たちは、正確な理由は分からないが、頭とともに肩の成長速度が遅くなるのは出生時の産道を通過しやすくするための進化的適応による結果だと解釈した。