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「アジア人音楽家にとって、西洋はもはや高い壁ではない」

登録:2022-08-18 10:06 修正:2022-08-18 11:40
1980年、ショパン国際ピアノコンクールで東洋人として初めて優勝したベトナム生まれのピアニスト、ダン・タイ・ソンは、詩を詠むように感覚的なショパンを演奏する。2005年からショパンコンクールの審査委員として活動している=マストメディア提供//ハンギョレ新聞社

 「アジアの音楽家は西洋圏に出て学ばなければならないと考えられていた時代はもう過ぎ去った」

 1980年にショパン国際ピアノコンクールで東洋人として初めて優勝したピアニストのダン・タイ・ソン(Dang Thai Son、64)は、最近行った書面インタビューで「東西洋の音楽の壁崩壊論」を展開した。「クリック1回であふれる音楽と資料を探し出すことのできる世の中だ。アジアの音楽家には大きなチャンスだ」

 彼は韓国のピアニストのイム・ユンチャンとチョ・ソンジンをその例に挙げた。「今年、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したイム・ユンチャンは、完全に韓国だけで学んだケースだ。アジア人が西洋音楽を完璧に理解することは実際難しく、西洋圏に出て学ばなければならないと考えられていた時代ももう過ぎ去った」。2015年、韓国人として初めてショパンコンクールで優勝したチョ・ソンジンについては「15歳の時、釜山のマスタークラスで会ったことがあるが、その時すでに立派な音楽家だった」と思い返した。昨年、ショパンコンクールで優勝した中国系カナダ人ピアニストのブルース・リウ(25)も彼の教え子だ。ダン・タイ・ソンは2005年からショパンコンクールの審査委員として活動している。

 ダン・タイ・ソンのショパンコンクール優勝は当時、世界の音楽界を揺るがした。長い戦争で廃墟と化した北ベトナム生まれの青年が優勝するとは誰も予想できなかったからだ。彼には独奏会や共演の経験はただの一度もなかった。誰よりも驚いたのは彼自身だった。1位という事実が到底信じられず、授賞式会場に向かうこともできずホテルの部屋でためらっていた。結局、ショパンコンクール協会のスタッフらが「あなたなしでは行事が進められない」と懇願した末、連れて行かれるように授賞式に参加した。どれほど慌てていたのか、賞金2000ドルと賞状も授賞式会場に置いたまま出てきてしまい、翌日になってようやく手にすることができた。彼は今回のインタビューで「少しも期待していなかったが、優勝したという知らせにものすごい衝撃を受けた」と当時を思い返した。

3年ぶりに来韓したピアニストのダン・タイ・ソンはリサイタル公演でショパンとラヴェル、ドビュッシーの曲を演奏する=マストメディア提供//ハンギョレ新聞社

 ハノイで暮らしていたダン・タイ・ソンは、空襲が激しくなった頃、70キロ離れた北側の田舎に避難した。そこにはピアノなどあるはずがなかった。爆撃を逃れて入った洞窟の中でも、布団の中でも、紙に描いた鍵盤で運指の練習をした。ピアノを弾くためにはハノイから楽器を運んでこなければならなかったが、すべての橋が爆撃で崩れた状態だった。そこで思いついた方法が、泳げる水牛が引く車にピアノを積んで川を渡ることだった。水に浸かったピアノはガタガタになったが、修理してやっと弾けるくらいにはなった。7歳の時に始まった苦しい避難生活は、14歳になった1972年まで続いた。彼は当時を思い出し「苦難と逆境は芸術家に必ず必要な要素」だとして「涙が感覚をよりいっそう豊かにし、芸術性をより深めてくれる」と話した。

 戦争が終わり、彼の才能を見抜いたロシア出身のピアニストに抜擢され、モスクワ音楽院に留学することができた。彼はいつもショパンを演奏した。「ショパン」というニックネームで呼ばれるほどだった。彼は「ショパンと私の間には運命的なつながりがある。ショパンが体験した苦難と逆境、祖国に対する郷愁、民族主義などは私と共通点がある」として「頭と意図ではなく、感情と感性で完成するのがショパンの音楽」だと話した。

ダン・タイ・ソンのソウル芸術の殿堂リサイタルのポスター=マストメディア提供//ハンギョレ新聞社

 3年ぶりに来韓し、16日に春川(チュンチョン)で公演した彼は、19日に統営(トンヨン)国際音楽堂、21日にソウル芸術の殿堂でリサイタルを行う。今回のリサイタルの前半はドビュッシーとラヴェルのフランスの曲で、後半はショパンのワルツ、マズルカ、ポロネーズといった舞踊曲で飾る。彼は「初めて鍵盤を触った瞬間からフランス音楽に向かうことを学んだ。最初の師匠である母がフランスに留学したフランス音楽のスペシャリストだった」として「フランス音楽はその色合いや光からして詩的な要素にあふれている」と話した。

イム・ソッキュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/music/1055176.html韓国語原文入力:2022-08-18 08:59
訳C.M

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