次期大統領に当選した尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏は13日、国民の党のアン・チョルス代表を引き継ぎ委員長に任命した。「共同政府」を約束した人々のコラボレーションが意外な成果を上げるなら、それより望ましいことはない。
しかし尹氏は、冷徹な政治の現実へと、まさに足を踏み入れたに過ぎない。同氏は3月9日の大統領選挙で48.6%の票を得た。決選投票のない選挙では、1票でも多く獲得すれば大統領になれる。しかし0.73ポイント、24万7077票という差、「ぎりぎり」での当選だった。棄権票まで含めて実に63%の有権者が彼を支持しなかった。
さらに、172議席を持つ共に民主党の協力がなければ、成功した大統領になることは不可能に近い。国民の力の110議席に国民の党の3議席を加えても、処理できる法案はない。尹氏は、このような事実をまず認めて始めなければ成功はできない。
国民の力の中には、5月10日の大統領就任後、6月1日の地方選挙で圧勝し、その力をもってすれば2024年4月の総選挙まで持ちこたえられると計算する人もいる。しかし2年は長い。5年単任の大統領は、任期序盤の力のある時期に成果を出さなければならない。1987年の大統領直接選挙制改憲以降、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に至る7人のすべての大統領で、就任式後の時間の流れと国政掌握力は反比例曲線を描いた。現実政治と国政全般に精通していた金大中(キム・デジュン)元大統領さえ、少数与党の限界に苦戦した。保守本流のキム・ジョンピル、パク・テジュンの自民連と連合して政権を獲得し、彼らを首相に起用してなんとか政府を率いたものの、DJP連合の崩壊後は悪戦苦闘を繰り返した。
今月10日、尹氏は「民主国家において少数与党は非常に自然なことで、少数与党は民主主義が一段と成熟する機会だと思う」と述べた。そのような認識であるのは幸いだ。選挙過程では「私も民主党の顔色をうかがわなければならない」と述べている。それ以上のこともしなければならない。民主党に謙るべきは譲り、時代の流れに逆行したり反対が激しかったりする公約は果敢に整理しなければならない。
直ちに女性家族部廃止公約を廃止すべきだ。性別による分断で票を得ようという退行的な戦術は破産した。20~30代女性の投票で確認された。尹次期大統領が掲げた「国民統合」とも合わない。実行するには政府組織法を改正しなければならないが、172議席の民主党が受け入れない限り、国会は通過できない。
地域割り当てや女性割り当てを「仲間内でのポストの分け合い」と見る尹氏の認識も危険千万だ。過去の政府が地域・女性割り当てを試みたのは、地域差別や性差別による「傾いた運動場」(そもそもが公平ではない状況)のバランスを取るためにすぎなかった。経験と実力によって人選しようという尹氏を非難することはできない。しかし、検事時代の経験に頼っているなら、もう少し慎重であるべきだ。政府と大統領府は、一介の外庁である検察庁とは次元が違う。検察では内部の信望と特捜通の専門性を武器に「尹錫悦師団」を運用できた。それさえも、積弊捜査のために彼の要求を受け入れた文在寅(ムン・ジェイン)政権の支援があったからこそ可能だったのだ。
尹氏も「検察共和国」に対する国民的憂慮があるということを知らないはずはない。検察総長出身の彼が、逆に検察の既得権を廃止し、統制を受けない全能の検察の力を奪う選択をしたなら、大きな拍手が送られるだろう。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領や文在寅大統領も果たせなかった検察の政治的独立を完成させた大統領として記録される機会だ。民情首席室を廃止して政敵と政治的反対勢力の統制という残滓を清算するという尹次期大統領の約束が、このような流れの出発点となることを期待する。
尹氏は国民統合を約束した。アン・チョルス代表との共同政府の試みはよいが、狭すぎる。尹氏は、既得権、反則と戦ってきた盧武鉉元大統領を尊敬すると述べた。盧元大統領は任期中に、権力の半分を渡してでも大連立を行うと述べた。内部の既得権勢力の反発、保守の嘲笑によって失敗したが、韓国政治において最も革新的な発想の転換だった。
尹氏は、文在寅政権を略奪政権と規定していた。しかし、勝者である自身の決心によって、協働統治と連立の道はいくらでも開かれる。「憎悪を正義だと錯覚した」とし「陣営の論理に陥って身内をかばった」のが文在寅政権の失敗の原因だと診断したキム・ドゥグァン議員の遅きに失した反省を、尹次期大統領も噛みしめてほしい。
シン・スングン|政治エディター (お問い合わせ japan@hani.co.kr )