「演技」とは俳優が自ら扮する人物や性格、行動などを表現することを言う。現代で最も大きな影響を及ぼした演技技法としてはメソッド演技法が挙げられる。ロシアの演出家で俳優のコンスタンチン・スタニスラフスキーが体系化した演技法だ。従来の演劇の大袈裟な発声や表情演技などを控え、リアルな表現を目指した。特に、俳優が役(キャラクター)の性格を完璧に把握し、同化することで、心理と欲望まで表現する段階を最も優れた演技とみなした。
メソッド演技法は、米国ハリウッド映画俳優を数多く輩出する演技教育機関「アクターズスタジオ」が主な演技法として取り入れたことがきっかけとなり、全世界に広まった。マーロン・ブランドやジェームズ・ディーン、ロバート・デ・ニーロらがメソッド演技で賛嘆を浴びた。韓国でもチェ・ミンシクやソル・ギョングなど名俳優たちがずば抜けたメソッド演技を見せてくれる。
高いレベルのメソッド演技は、俳優がキャラクターに憑依したかのようになり切った時に見られる。クリスチャン・ベールやキム・ミョンミンなどは、役作りのために体重を数十キロも増やしたり、減らしりしたこともあった。稀代の悪役とされるジョーカーを演じたジャック・ニコルソンとヒース・レジャーは、撮影が終わった後も長い間後遺症に悩まされたという。
このため、メソッド演技は俳優の過度な献身と犠牲を要求するものだとして否定的にみる人もいる。演技はキャラクターをよく表現する技術であり、必ずしもキャラクターそのものになる必要はないというのだ。ローレンス・オリビエやアンソニー・ホプキンスのような名俳優たちもこうした立場に立っている。
国民の力のキム・ジョンイン総括選挙対策委員長が3日、同党のユン・ソクヨル大統領候補に「我々(選対委)が作り上げた通り演技してほしい」とし、「自分の意見があっても、国民感情に合わないなら、絶対に(表明)してはならない」と要求した。日常では、本音を隠して偽りの言動をするとき「演技している」と言う。このため、大統領候補に「演技」を求めたのは、結果的に有権者をあざむいてでも選挙に勝てばいいという思惑を表したのではないかという批判が出ている。
このような演技が効力を発揮するかも疑問だ。理想的な大統領候補を演じるためには、キャラクターになり切るための骨身を削る努力と長い間練磨した演技力が必要だ。政治経験が浅いユン候補が、キム委員長の「一夜漬けの授業」を受けて舞台に上がったとしても、果たして観客の心をつかめるだろうか。「三文役者」が国民の目と耳を汚すのではないか、心配だ。