韓日の間で外交的に争われている「明治日本の産業革命遺産」とは、明治維新が発生した1860年代末から1910年までの、日本が起こした超高速産業革命の実態を示す、三菱長崎造船所など日本の8県に散らばる23の施設のことだ。
これらの施設が両国の敏感な外交問題として浮上したのは、2014年1月に日本政府がユネスコ世界遺産への登録を試みた時だった。特に問題になったのは、作家のハン・スサンの『カラス』(2003)などの作品で韓国でもよく知られている長崎県の端島(軍艦島)が23の施設に含まれていることが分かってからだ。「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会」の2012年の報告書によると、1944年現在で、この島の地下に造成された海底炭鉱では、500人から800人の朝鮮人労働者が強制労働をさせられていたと推定される。日本の市民団体が発掘した「火葬認許証」によって、1925年から1945年の間に同島で死亡した朝鮮人は少なくとも122人以上いることが確認されている。
韓国では当然にも、朝鮮人の強制動員のつらい歴史を持つ端島を世界遺産に登録してはならないとして、これに反対する世論が起きた。結局、韓日両国間の熾烈な外交交渉の末、日本政府がこれらの施設で朝鮮人の強制労働が行われたという事実を認めるならば韓国は登録に反対しない、という妥協が成立した。アウシュビッツ強制収容所(1979年登録)のように、否定的な遺産も世界遺産としての価値があるという説得が受け入れられたのだ。これにより2015年7月5日にドイツのボンで開かれた第39回ユネスコ世界遺産委員会において、佐藤地ユネスコ日本大使は、軍艦島などの一部の産業施設において「1940年代に朝鮮半島出身者などが『自らの意思に反して(against their will)』動員され、『強制労役(forced to work)』させられたことがあった。犠牲者を追悼するため、インフォメーションセンターの設置などの措置を取る」と約束した。しかし実際に2020年6月に東京のインフォメーションセンターが公開されると、日本政府がこの約束を守っていないことが確認され、この問題は両国間の外交懸案として再浮上した。
当時は大きな波紋は起こらなかったが、日本の思想家、吉田松陰(1830~1859)の私塾である松下村塾が世界遺産に登録されたことについても問題提起が行われてきた。松下村塾は明治維新の主役となる人々が生まれた山口県萩市にある私塾で、「産業遺産」とは呼べないにもかかわらず遺産として登録されたからだ。この私塾で松陰の教えを受けた伊藤博文、山県有朋、寺内正毅らはその後、朝鮮などのアジア諸国に対する侵略を主導することになる。「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録される過程で、明治維新のような「日本の栄光」を再現したいという安倍晋三前首相ら日本の右翼の意向が大きく作用したということだ。