ここ数年間、韓国ドラマで「ジャンルもの(サスペンス、ファンタジー、ミステリー、犯罪などを描いたドラマや映画、アニメのこと)の進化」がかなり目立っている。文在寅(ムン・ジェイン)政権以後高まった大衆の正義に対する関心は「ジャンルものの進化」に重要な動力となった。2017年に登場した「秘密の森~深い闇の向こうに~」(tvN)は現実的な渇望とジャンルものが出会い、いわゆる「韓国型ジャンルもの」として独特な進化を触発した作品だった。シーズン1に続き、昨年シーズン2まで放映されたこのドラマの成功は、韓国型ジャンルものに対する大衆の関心を高めた。一方、ここ数年、ドラマの新しい視聴プラットフォームとして登場したオンライン動画サービス(OTT)で、海外の有数のジャンルものに接した韓国の視聴者たちも目が肥えてきた。韓国ドラマの制作者らも、国内視聴者のこのような変化に歩調を合わせながら、同時にグローバル視聴者まで念頭に置いた作品を次々と公開した。その解決策はやはりジャンルものだった。全世界の誰もが見慣れたドラマの枠組みであり、それぞれローカルの色を加えることで、ユニークな作品に変わりうるからだ。
2021年上半期にもこのような韓国型ジャンルものの進化は続いた。何よりも大人向けコンテンツで表現の幅を広げたことで、過去の“地上波基準”では取り上げられなかった素材や表現を盛り込み始めた。「怪物」(JTBC)や「マウス」(tvN)のようなスリラーは、上半期の代表的な成功作で、現在の韓国型ジャンルものがどこまで進化したのかを見せてくれた。スリラーとしてドラマの終盤まで緊張感を緩ませない力を発揮したこれらの作品は、まるでよく作り込まれた欧米の作品のようなディテールと「韓国型」ならではの情緒的特徴を組み合わせる成果をあげた。素材として登場する殺人事件の裏側を辿っていく過程で、韓国社会独特の情緒がにじみ出ている。被害者たちが加害者よりもっと大きな苦しみを抱える、法の正義が実現されない現実に対する批判意識がこれら「韓国型スリラー」の特徴として表れたのだ。
韓国型スリラーは現実の不条理が作り出す渇望をドラマの中に持ち込み、カタルシスとして解き放った。これが可能になったのは、ジャンルものが多くなるにつれドラマ作りの前提として現場取材が必須になったからだ。「模範タクシー」(SBS)はウェブ漫画が原作だが、その中に盛り込まれた内容はすべて実際に起きた事件をモチーフにしている。調査報道番組「それが知りたい」を担当したプロデューサーが制作したこの作品は、同番組で取り上げた実際の事件を素材にし、法体制が解決できなかった正義の実現という大衆の渇望を“私的復讐”を果たすフィクションで解消した。「飛べ小川の竜」(SBS)のように作品の中の主人公である記者が台本を書いたものも登場した。さらに「ロースクール」(JTBC)のような法廷ドラマは、法に関する専門的な内容で埋め尽くされた。徹底した取材に基づいたドラマ作りは、韓国型ジャンルものがディテールにも強みを持つ理由となった。
2021年上半期のもう一つの成果として、韓国型ジャンルものがスーパーヒーローアクションやタイムリープ、ゾンビもののような新しいジャンルに拡大した点が挙げられる。「昼と夜」(tvN)や「L.U.C.A.:The Beginning」(tvN)のように生体実験を通じて誕生した超能力者を扱うものも登場し、「悪霊狩猟団:カウンターズ」(OCN)のような韓国型スーパーヒーローアクションや「ダークホール」(OCN)のような類似ゾンビものも試みられた。また、「シーシュポス:The Myth」(JTBC)のようなアポカリプスを背景にしたタイムリープジャンルも登場し、「ヴィンチェンツォ」(tvN)のようなイタリアマフィアの感性を韓国風に表現したコミックアクションも人気を博した。
一時、家族ドラマ、メロドラマ、時代劇が韓国ドラマの代名詞だったのは、当時のメディア環境や家族的な価値観、社会的雰囲気などが重なった結果だった。しかし、OTTというグローバルプラットフォームに視聴者が移動しており、個人主義的価値観の拡散とともに視聴者の目も肥えたことを背景に、今後も韓国型ジャンルものの進化は止まらないと思われる。2021年上半期はその激しい流れを改めて確認できる時期だった。
もし言及した作品の中でまだ見ていないものがあるなら、「怪物」や「マウス」、「昼と夜」、「ロースクール」がお勧め。