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[インタビュー]『パラサイト』観に行くならポン・ジュノも探してみては?

登録:2019-05-30 08:38 修正:2019-05-30 10:23
「観客の反応が知りたいから変装して映画を見にいく」 
「次の映画はソウルの都心で繰り広げられる恐怖劇」 
「『パラサイト』が私のベストかって?年末に答える」
ポン・ジュノ監督=CJ ENM提供//ハンギョレ新聞社

 「『パラサイト』が私の映画の中でベストだと思うかですって?そうですね…。私もひとの映画を見る時はそういう疑問を抱いていましたね。昨年、是枝裕和監督が『万引き家族』でパルムドール賞を受賞した時、心の中では『ああ、でも『歩いても 歩いても』(2008)が最高だよな』と思いました。この答えはもう少し落ち着いてから、今年の年末くらいにしてもいいですか?ハハハ」

 自身の七番目の映画『パラサイト』でカンヌ国際映画祭パルムドール賞を獲得したポン・ジュノ監督(50)に29日、帰国後初めて行った最初のインタビューを、攻撃的な質問で始めてみた。多作ではないが『殺人の追憶』『母なる証明』『グエムルー漢江の怪物』『スノーピアサー』『オクジャ』など、大衆性と作品性いずれも兼ね備えた優れたフィルモグラフィーを書き加えているポン監督は、少し戸惑いながらも、「『坊主は自分で頭を刈れない』(自分のことだが自分でうまくできない)と言うが、まだ自分の作品に客観的な物差しで答えられない。ただ、ほかの作品に比べて相対的に作り上げた後の未練は少なかったようだ」と付け加えた。

 まさに「ポン・ジュノの時代」だ。韓国では彼の時代が開かれて久しいが、いまや彼の時代は世界中に広まった。すでにカンヌに続きアカデミー監督賞・脚本賞受賞まで予想する報道が出ている。浮かれてもおかしくない状況だが、ポン監督は「カンヌはもう過去のこと。今は国内の観客の反応がとても気になる。こっそり変装して一般観客に混じって映画を見るつもりだ」と語った。

 『パラサイト』は、全員が無職の一家のギテク(ソン・ガンホ扮)の長男ギウ(チェ・ウシク扮)が、金持ちのパク社長(イ・ソンギュン扮)の家に家庭教師として働くようになったことから起こる予測不可能な出来事を描く。「芸人の出ないコメディー、悪党の出ない悲劇」というポン監督の説明のように、韓国社会の長年の「階級格差」問題を、コメディー、スリラー、破局的悲劇という多様なジャンルの間を絶妙に行き来し、描き出している。

 実は『パラサイト』の始まりは「演劇の脚本構想」だった。2013年、『スノーピアサー』の後半の作業を行う途中、ポン監督は普段から親しくしていた俳優のキム・レハから「演劇の演出をやってみないか」という提案を受けた。「演劇の素材を考えていたら、空間的に単純な構造を考えるようになったんです。『パラサイト』は話の90%がギテクの半地下の家とパク社長の高級住宅で成り立っている。最初から貧しい家族と裕福な家族に代表される話を考えていました。最終車両と先頭車両で対比されるスノーピアサーの延長線にありながらも、もう少し私たちの肌感覚に近い、小さなディテールの話をしたかったというか」

映画『パラサイト』の一場面//ハンギョレ新聞社

 「階級格差」をあらわすために、撮影時もディテールにこだわった。「ホン・ギョンピョ撮影監督と“光の貧富の格差”に集中しました。自然光があまり入らない半地下と、大きな全面窓で一日中日の当たる高級住宅。その対比自体だけでもちょっと悲しいでしょ」。映画の中に登場する様々な“階段のイメージ”もこれにつながる。『スノーピアサー』が水平なイメージで表現される不平等だったとすれば、『パラサイト』は垂直のイメージで表現される不平等だ。「半地下のセットでトイレだけ階段の上にあるんですが、実際、半地下の家には“浄化槽の逆流”を防ぐためにそのような形のトイレが作られます。ネチズンが『糞の祭壇』(笑)と自嘲しながら掲載した画像がたくさんあります。後から洪水が発生して半地下が水に浸かるとき、降り注ぐ雨と水も垂直的な不平等を示す重要なイメージの一つです」

 映画の中の「匂い」はもう一つの重要な“素材”だ。「匂い」は映画全般を支配し、最終的に雰囲気を反転させる重要な媒介だ。「匂いは人間の最も内密で私的な部分。夫婦の間でも匂いの話はしにくいでしょう。人間が守るべき善と礼儀、無礼さをよく表わしています。映画の中のギテク家族の職業である車の運転手などは、金持ちと貧しい者が私的な距離を縮めて向かい合い、互いの匂いを感じられる唯一の職群です。最近報道されているパワハラ事件がほとんど車の中で起きることからも分かります」

 公開前にあまりに大きな賞を受賞し、むしろ『パラサイト』に関する自由な論議が起こりにくい状況ではないかと尋ねた。「パルムドール賞は私が何か悪いことをして受けた賞ではないじゃないですか。ハハハ。ただもらったものですから。実際、映画は3月末に完成したし、カンヌ受賞の前も後も変わりはありません。皆さんが受賞の事実を意識せず映画を見てくださればと思うが、そうもいかない状況になりましたね」

 すでに千万人動員の映画を作り、カンヌのパルムドール賞まで手にしたポン・ジュノ監督だが、“損益分岐点”は避けて通れない問題だ。「純制作費だけで130億ウォン(約12億円)かかりました。ベルイマンや黒澤明のような巨匠たちも一生制作費の回収を心配しました。誰かに損害を与えず現役監督として映画を続けられる基盤を作ることは、みんなの『基本目標』です。これまで芸術性と商業性を分けて天秤にかけたことはなく、衝動的に導かれるままに映画を作ったが、運が良かったんです。ソン・ガンホのように訴える力と説得力のある俳優たちが、私が伝えたいストーリーと観客の間に“鵲の橋”をちゃんと渡してくれたおかげです」

 ポン監督の次の歩みは「負担」であり、また別の「挑戦」だろう。「次の映画も『パラサイト』くらいの規模です。ソウルの真ん中で繰り広げられる怖い事件を扱う映画ですが、アクションも多少あって…」。ジャンルの間を絶妙に乗り越えるポン監督の技は次の映画でも発揮される。カンヌのパルムドールの“重み”が、今後の彼には“自信”の別の名となりそうだ。

ユ・ソンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/movie/895810.html韓国語原文入力:2019-05-29 19:25
訳M.C

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