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[寄稿]軍志願制にも徴兵制にも進歩論理はない

登録:2021-05-12 06:49 修正:2021-05-12 10:00

 ハンギョレのクォン・ヒョクチョル論説委員は最近、「『軍志願制は進歩派』なるドグマは警戒すべき」というタイトルのコラムで、志願制は「兵役の市場化」政策であり、“貧困層の軍隊”になる可能性が高いという点で、進歩的な価値としてはむしろ警戒しなければならない制度だと主張する。朝鮮半島に平和が定着するまで「戦争だけはだめだ」という世論を形成するためには「我々全員の問題」にしなければならず、そうするためには徴兵制は維持されなければならないということだ。私も志願制が進歩で徴兵制が保守だという両極端な断定には同意しない。しかし、この主張のとおり、志願制は兵役の市場化政策だろうか。志願制を実施すれば貧困層の軍隊になり、富裕層に有利になるばかりという仮定は事実だろうか。そして、徴兵制が戦争を抑止するという論の意味と効果は何だろうか。

 一つ目に、クォン・ヒョクチョル論説委員は、志願制は「兵役の市場化」政策であるのに、なぜ進歩改革側が鉄道や飲用水供給などの公共サービスの民営化には反対し、代表的な公共サービスである兵役の市場化と民営化には賛成するのかを問うている。

 しかし、「兵役の市場化」は徴集制度の問題ではなく、民間軍事会社が治安から戦争まで代行することで生じる問題であり、民間軍事会社の役割と範囲などが主な争点だ。徴兵制であっても民間軍事会社が存在しないわけではなく、それどころか徴兵制のもとでの退役軍人の再就職活性化の手段として、民間軍事会社に対する規制緩和が議論されたりもする。国家による徴集方式として徴兵から志願に替える志願制を、ただちに市場化・民営化であるかのように語るのは、論理的に大きく飛躍している。

 二つ目に、志願制が実施されると貧困層の軍隊になるのだろうか。同記事では、兵役の義務を貧困層が担うようになれば社会経済的な二極化が深まり、危険の外注化という構造的な問題が兵役にまで広がる倫理的問題につながると主張する。

 しかしこれは、軍隊が誰もが行きたがらない所である場合に生じる問題だ。志願制導入によりむしろ不平等が減少する効果も期待できる。志願制と徴兵制の所得の公平性を比較したキム・デイル氏の研究によると、志願制を通じて賃金が現実化されれば所得の不平等が改善する。もちろん、志願制は現実的には軍兵力規模の縮小を伴うため、所得相乗効果は特定の階層全般の所得を引き上げる程度にはならないという反論もある。しかし、賃金所得より資本所得を通じて富を蓄積する機会のある富裕層は、兵役の義務期間中に貧困層と同じように所得が抑制されることはない。そのような点で、不平等改善の具体的な効果は、徴兵制よりも志願制を通じての方がより実現可能だ。もちろん、処遇の改善が行われるという前提での話だ。参考までに、2020年の新型コロナによる就職難の状況でも、専門下士(入隊前の本人の希望により徴兵期間を延長し、通常の徴兵期間中はほぼ無給で兵卒として勤務し、延長期間中は一定の給与を得ながら下士官として勤務する制度)の充足率は72.3%にとどまった。

 三つ目に、普遍的な徴兵制により「戦争だけはだめだ」という世論が形成されうるという論の意味と効果は何だろうか。軍服務にともなう危険が「私たち全員の問題」になれば、本当に戦争だけはだめだと考えるようになるのだろうか。

 現在の韓国の兵力の規模を減らすことはできないという論理の核心には、有事の際に北朝鮮軍を制圧できる程度の兵力規模を維持しなければならないという主張がある。普遍的な徴兵制は、「戦争だけはだめだ」という論理ではなく「戦争は避けられない」という論理を経て強化されてきた。危険を避けられないのであれば、全員が同じ経験をすることにより、共同体は危険を軽減できるという主張は、一見“平等であれば安全だ”という進歩派的なスローガンを連想させる。しかしこの主張は、政治家や財閥の子も「一般人」と同じように軍隊に行くなら社会はより関心を持つ、というものであり、差別を自ら認める事例を通じて支持される。そのような点で、弱者が安全であれば全員が安全になるという論理とは「そもそも」異なる。

 軍隊内の人権問題から処遇改善、強制徴集制度の問題についての話が登場するたびに、普遍的な徴兵制をより強力に実施しようという主張に戻る。誰が普遍を自任でき、誰が「私たち」を代表するのかをめぐる「普遍の暴力」を如実に示す論理でもある。言い換えれば、志願制が進歩だというドグマも警戒しなければならないが、志願制に対するこれまでの“進歩”の批判自体もドグマに陥っている。志願制はより進歩的であるからという理由からではなく、現実的な条件のもとで具体的な検討が行われなければならない。また、全員がこの苦労を例外なく耐えなければならないという図式で、徴兵制の普遍化を報復的なかたちで主張する論理は、結局は何の変化も作り出すことができず、兵役の義務から排除された者に対する憎悪ばかりを煽るだろう。久しぶりに兵役制度についての公論の場が開かれた。より良い論争を願う。

//ハンギョレ新聞社

クォン・キム・ヒョニョン|女性学研究者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/994755.html韓国語原文入力:2021-05-12 02:38
訳M.S

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