チョン・グァンフン牧師と手を握った保守勢力
性的少数者、イスラム、差別禁止法を攻撃
「共通の利益」のために互いに利用
保守プロテスタントの「民主党攻略」で
大型教会の行事に与野党の議員たちが
大勢参加するのは見慣れた光景に
政治と宗教の癒着、もう終わるべき
2020年8月15日は、大韓民国の歴史において最も奇妙かつ不幸な光復節の中の一つとして記録される可能性が高い。チョン・グァンフン牧師という理解しがたい人物に代表される一部のプロテスタント勢力と、キム・ムンス氏、ミン・ギョンウク氏、キム・ジンテ氏、チャ・ミョンジン氏などの前職の保守政党の国会議員をはじめ極右保守団体やユーチューバー、論客が総出動し、全国から貸切バスなどを利用して押し寄せた保守派の市民たちがソウルの光化門(クァンファムン)広場を埋め尽くし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ウイルスを無差別的に広めたからだ。
その波紋と後遺症は桁外れだ。大邱(テグ)の新天地イエス教会、ソウル梨泰院(イテウォン)の集団感染の危機をようやく乗り越え、注意深く日常を探っていた大韓民国が、自らの機能の相当部分を止め、凍りついてしまった。社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)のレベル2への引き上げにより、カラオケやインターネットカフェなどの“ハイリスク群”の業種の営業が禁止され、結婚式を含む50人以上の室内集会も全て禁止された。各級の学校の2学期の登校など学事日程も支障が避けられなくなった。一部のメディアでは「ドジョウ1匹(チョン・グァンフン牧師)が大韓民国を泥水にした」という批判的表現も使われたりした。
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チョン・グァンフン牧師を育てたファン・ギョアン元代表と保守政党
実は、チョン・グァンフン牧師という人は、一人ではこのように国を揺るがす影響力や力量、業績、地位などを一つも備えていなかった。むしろ、学歴詐称疑惑や公開の場でのセクハラ、性差別発言などにより、大衆的な嘲弄や戯画化の対象に過ぎなかった。そして2007年の大統領選挙の際に「李明博(イ・ミョンバク)長老に投票しなければ、いのちの書から消す」という発言をし、本格的に政治の第一線に飛び込み、政治と宗教を繋ぐ役割を自任していたと見られる。以後、選挙法違反で拘束され有罪判決を受け、韓国基督教総連合会(韓基総)の会長の座を巡る争いで、民事と刑事の裁判を繰り広げた。
大韓民国には、政治と権力の力を借りて教勢を拡張しようとする大型教会中心のプロテスタント勢力と、宗教の力と影響力を借りて支持率を高め、選挙に勝とうとする政治勢力があった。チョン・グァンフン牧師は、その間を仲栽し繋げば大きな利益と影響力が生じるという点を看破したものと見られる。大韓民国の保守政治勢力は、1948年の政府樹立以後、長期間政権を担い、「北朝鮮の脅威」「アカ」「従北(北朝鮮に盲目的に従う)左派勢力のうごめき」などの赤狩りの「マッカーシズム」を伝家の宝刀のように振り回し、危機を脱してきた。大型教会中心の保守プロテスタント勢力もやはり、「信仰を口実に金を稼ぐ」「教会を私有化し世襲する」という批判や教会内での性暴力疑惑などが明らかになるたびに、「従北左派の陰謀」「反キリスト教勢力の攻撃」などを前面に出し、危機を脱してきた。二つの勢力の間に「共通の利益」と「共通の敵」があるのだ。そして、互いを必要とした。
保守プロテスタント勢力は、最近になり性的少数者(同性愛)、イスラム出身の外国人、差別禁止法の三つを攻撃目標に追加し、信者を扇動してきた。宗教家への課税の廃止という現実的な利益は裏に隠した。それに合わせて「教会の道具」になると手を差し出した人が、当時の自由韓国党のファン・ギョアン代表だった。ファン元代表は2019年3月20日に韓基総を訪問しチョン・グァンフン牧師に会った席で、チョン氏が「総選挙で自由韓国党が200議席を取れば、この国を正しく立て直し、第2の建国ができる基盤がつくられる」という政治介入の発言をしたのに対し、満足な表情で聞いているだけだった。以後、光化門で開かれた反政府集会の壇上にチョン・グァンフン牧師とファン・ギョアン元代表が共に上がって手を取り、互いを支持し応援する姿が、何度もメディアと放送で公開された。保守キリスト教界の代表者として公式の地位と政治的影響力を渇望していたチョン・グァンフン牧師に翼が生えたのだ。
チョン・グァンフン牧師は2019年、大統領府前での集会で「今、大韓民国は、文在寅は、すでに神が廃棄処分にしました…大韓民国は誰を中心に回っていくのか。チョン・グァンフン牧師を中心に回るようになっている。よく思わなれなくても仕方がない。…私は神の玉座をしっかりつかんで生きている。神よ、動くな。神よ、ふざけたらひどい目に合わせるぞ。私はこのように、神と親しいのだ。仲良しだ」という神性への冒涜発言まではばかることなく吐き出す状況に至った。とうとう、全世界を荒しているCOVID-19への感染の脅威を防ごうとする当局の努力まであざ笑い、「野外集会の現場ではCOVID-19に感染しない。…COVID-19にかかっても愛国だ。かかった病気も治る」などの妄言を続け、信者を惑わし、フェイクニュースを広めた。「文在寅打倒」「民主党攻撃」という共通の目的に傾倒した保守政党は、チョン・グァンフン牧師や極右プロテスタント勢力との距離を広げようとする努力を全くしなかった。コロナ禍に対する政府の防疫努力も蔑み、結果的にチョン・グァンフン牧師のでたらめ主張に力を加える役割を果たした。あげくの果てに「2020年8月15日のCOVID-19集団感染および伝播事態」が発生したのだ。
「怪僧ラスプーチン」は、腐敗したロシアのロマノフ王朝の没落を急速に進めた人物として挙げられる。貧しい農民の息子に生まれ、学校でも素行不良などで追い出された彼は、あちらこちらを歩き回り、飲酒や暴力、窃盗、性犯罪など様々な乱れた生活を日常的に行い、「放蕩な人」だという意味の「ラスプーチン」と呼ばれた。そうしているうちに神の啓示を受けたとし、苦しむ人々に秘密の治療をして回っていたが、効き目があるという噂が広まり、ロシア皇室が呼び出すようになった。血友病の症状で苦しんでいた皇太子がラスプーチンに会ってから痛みが和らぐと、アレクサンドラ皇后の絶対的な信頼を得るようになった。その影響力を利用し、税金で私利私欲を満たし、これに抗議する市民に銃撃を加えるなど、国政を我が物のように使うようになる。結局、民意が離反し、帝国は急激に没落することになった。
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進歩政治にも手を伸ばす保守プロテスタント
1960~70年代の朴正煕(パク・チョンヒ)政権下での政教癒着とプロテスタント教団の乱れの背景には、チェ・テミン牧師がいた。日帝強占期に巡査だった彼は、解放後に仏教青年会の会長および僧侶になり、自ら仏教・キリスト教・天道教を総合した永世教という宗教を創始し、似非教主になる。そうしているうちに、いつのまにかキリスト教の牧師を自任し、ラスプーチンに似た「神秘の治癒能力」を掲げ、当時母親を失った悲しみに陥っていた朴正煕大統領の家族、特に次女の朴槿恵(パク・クネ)に近づき信頼を得る。彼はその影響力を前面に出し、大韓救国宣教会を設立し、プロテスタント界を親政権派に改造する作業を行い、救国奉仕団、セマウム奉仕団などを設立し、総裁の地位に就き、各種の人事と利権に介入し、莫大な不正蓄財を行った。30年ほど後、チェ・テミン牧師の娘のチェ・ソウォン(改名前はチェ・スンシル)氏は再び朴槿恵大統領の側近の役割を果たし、国政壟断を日常的に行い、保守政権の没落を加速化させる契機となる。ラスプーチンとチェ・テミン牧師、チェ・スンシル氏が政権勢力の歓心を買った後、「陰の実力者」の役割を果たして国政を壟断したとすれば、チョン・グァンフン牧師は野党権力と野合し、利益を追求し、社会不安と無秩序を助長しているといえる。しかし、現在の野党勢力が富と権力を長く独占してきた伝統的な大韓民国の保守勢力を代表しているため、歴史的脈絡から見るならばこれらは同じ道をたどっているといえる。
かつてはカトリック正義具現司祭団、韓国基督教教会協議会、実践仏教全国僧伽会など進歩派の宗教団体は進歩政党と近く、保守のプロテスタント・カトリック・仏教団体と聖職者は保守政党と近い二分構図が明確だった。しかし、朴槿恵政権の弾劾と保守政治の没落以後、このような区分は大きく変わり、不明確になった。チョン・グァンフン牧師と韓基総などの極右プロテスタント団体と聖職者は、一方では、ファン・ギョアン元自由韓国党代表など親朴槿恵派の保守政治家との連帯と協力を行い、他方では、独自のキリスト教政党を立ち上げ、活動を広げていった。一方、多数の大型教会の牧師など保守的なプロテスタント牧師は、与野党および保守、進歩を問わず、政党や政治家らと接触を広げ、宗教家への課税の反対や差別禁止法の立法阻止などの政治活動を展開してきた。
国会で大型教会の牧師が主催する祈祷会などに大勢の与野党の有力国会議員が参加し、有名な大型教会の主要行事や礼拝に大勢の与野党の有力議員が参加する光景は、すでに日常となった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が制定を推進するなど民主党の代表政策の中の一つだった差別禁止法に対し、民主党所属の議員が公開の場で反対の意向を表明したり、保守的な関係者を招待し反対シンポジウムを開く現象が現れた背景にも、このような保守プロテスタント界の「民主党攻略」があることを、容易に推測することができる。一部の民主党議員は、宗教家への課税立法にも積極的あるいは消極的に反対しており、その結果、原案から大きく後退した立法が行われたりもした。
国立公園の入場料や寺院の文化財の指定など、国会を相手にした請願が多いのは仏教も同じだ。プロテスタントの政治力に押され、寺院の名称をつけた地下鉄の駅名が変更される危機に瀕するなどの不利益を避けるためにも、政治権力との連帯と協力が必要だった。カトリックや円仏教なども程度の差があるだけで、本質的には似たような状況で似たような態度を示してきた。国会になぜ、あれほど宗教家が頻繁に、数多く出入りし、宗教行事がなぜこれほど多いのか、答えを探してみれば到達する結論だ。死去した有力政治家の追悼式などでは、故人の宗教と関係なく3~4団体の宗教儀式が交互に進められるという実に奇妙な様子もたびたび目撃される。
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政治において宗教は「イベント会場」であり「票田」
各種の選挙のたびに各政党と候補者は、ほとんど全ての主な宗教施設を訪れ、宗教儀式に参加し、礼を尽くす。すでに報道されたが、主流キリスト教界が異端に指定した「新天地イエス教会」の行事に国会議員らが祝辞や祝典などを送ることまで発生した。信者数が多く影響力が強ければ異端も気にしないという姿を示したのだ。第20代国会で4年間議員活動をして見つけた事実の一つは、大韓民国の政治では宗教は決して信仰と信頼の領域ではなく、票と支持を得る“会場”であり、“票田”だということだった。結局、このような“宗教的モラルハザード”が、朴槿恵元大統領とチェ・テミン牧師およびチェ・スンシル氏、ファン・ギョアン元代表とチョン・グァンフン牧師のような「政治と宗教の間の誤った出会い」の環境的要因だと推測できる。
政教分離は現代の民主国家の必須要件の中の一つだ。原始社会の祭政一致、中世時代の神聖国家など、政治と宗教が混じり合う時、例外なく両方とも腐り、堕落し、滅亡に至った。政治家個人がいかなる宗教やいかなる信仰を持っていても、その自由は保障されなければならない。しかし、公的領域である政治が、特定の宗教団体や宗教家の影響を受け、彼らの利益のために活用されるならば、それ自体が利益衝突であり、不正腐敗だ。
反対に、ただ神と教理に基づき永遠の真理と平和を追求しなければならない宗教が、現実政治に影響を及ぼし、介入し、一方の側に立つならば、それ自体が求道と救い、信仰の純粋性を失った堕落だ。ラスプーチンとチェ・テミン牧師、チェ・スンシル氏、そしてチョン・グァンフン牧師の例で見るように、政治と宗教が野合すれば、結局、両方共に堕落し、政治は名分と公正性など大義を失うことになり、宗教は信仰と哲学、そして救いを忘れることになる。何より、国は混乱することになり、国民は苦痛を受けることになる。政治と宗教、もう別れる時が来た。