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　幼い息子と一緒に町のスーパーに来た彼は、外に出られない状況になった。一人の老人が血を流しながら飛び込んできて「霧の中に何かがいる」と叫び、実際に人を害する怪生命体が存在した。スーパーに閉じ込められて外部と断絶された人々は、各自の方法で対処する。映画『ミスト』の話だ。事件の実体を把握しようとする人々、どんな情報も信じず自分の道を行く人々、終末の兆候だと言い他人を生け贄にしようとする人々に分かれる。主人公は状況を見守り、幼い息子を守るために外に出ることを決心する。彼は霧の中の怪物よりもスーパーの中に危険が潜んでいると判断した。

　私たちはひと月近く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と暮らしている。ある宗教はウイルスが伝播しやすい礼拝方式のために一日で100人以上の感染者を量産し、全国を恐怖に陥れた。感染病専門家らは「市中感染の拡散を完全に遮断することは事実上不可能だ。被害を最小化する2次予防で防疫の方向に転換しなければならない」という立場を発表した。専門家でなくても、疾病が決壊するように津々浦々に広がる様相を見れば、危険を日常として受け止めざるを得ない。昨年から今年にかけてアフリカ豚コレラによって豚が大量屠殺された。数年おきにSARS、新型インフルエンザ、エボラ、MERSという名前で人間を攻撃するウイルスがやって来た。ラクダやコウモリ、センザンコウが宿主だというが、これらからウイルスをもたらしたのは結局人間だ。今後も見ることもないであろうセンザンコウより、昨日大邱(テグ)に行ってきた友人やひと月前に中国を訪問した同僚の方が怖い。

　14世紀に欧州の人口の30～60％を消したペストを思い出した。中央アジアで始まり、シルクロードに沿ってクリミア半島に運ばれてきた“黒ネズミ”に寄生していた“東洋ネズミノミ”を宿主にしたペスト菌が原因だ。当時も今も致命的な疾病は見知らぬものと接触して国境を越えていた。自分の領域を広げようとする人間の欲から出発した。ところが、欲の被害にまず倒れるのは弱者たちだった。キム・スンソプの『私たちの体が世界なら』では、ペストがはびこった当時も「男性に比べて女性の死亡リスクが高かった」という研究があったことを伝える。

　2015年に腎臓病を患っていた仲間が死亡した。彼の腎臓病患者の友人たちは葬儀に参列できなかった。「MERS」のためだった。しかし、危機状況への恐怖をさらに拡大しうるのは、相対的に安全なところにいる人たちだ。共に生き残るための合理的な選択を議論する政治がなく、弱者や目に見える生け贄を選んで狩るのが最も簡単な解決策になるとき、弱者は恐怖を認識するよりも先に危険に侵される。情報がまともに伝わらず、疾病の前で成すすべもない障害者やホームレス、移住民や高齢者、患者や妊産婦および乳幼児に対する積極的な保護措置が必要だ。清道デナム病院の閉鎖病棟の感染者は110人以上で、死亡者は5人だ。幽閉された精神病棟と彼らの死は、無関係ではない。

　感染した人々と特定地域、宗教者が嫌悪され、これを土台に排除と禁止が優先解決策として提示されてはならない。標的にして排除し禁止する政策を展開することになれば、他国で起きている韓国人への差別に反論することはできない。政府と政治は「排除と禁止」を防疫対象の範ちゅうに含めて対処しなければならない。禁止と制限が必要な時は、不可避な措置なのか、最善の措置なのかを問いたださなければならない。だからこそ、国民の健康よりも自らの統合が目的であるかのように政府と対立する野党は危険だ。リスク商売に没頭する政治屋を追い出さなければならない。いま必要な政治は、危険を最小限に抑えながら人権を疎かにしないことだ。「ペスト当時、フランスのトゥーロンでユダヤ人40人が殺害された後、ストラスブール大虐殺が起こった。生け贄が必要だった社会は、権力から遠く離れており社会的に人気のないマイノリティを選り分け、それがユダヤ人だった。生き残ったユダヤ人は都市から追放され、残った財産はキリスト教信者が奪った」。キム・スンソプの同書はこのように述べている。

　新型コロナウイルスの真っただ中で、私たちが忘れてはならない危険性について問う。霧の中の怪物だけではないことは明らかだ。特定集団を標的にし、共同体から彼らを追い出すことで責任を果たそうとするなら、結局私たちは“ミスト”から脱出しようとする主人公のような選択をせざるをえない。誰がもっとも危険で、何がもっとも危険なのか。

//ハンギョレ新聞社

パク・ジン 茶山人権センター常任活動家