韓国政府は、合同取り締まりの強化の理由に未登録外国人滞在者の急増を挙げている。
2019年3月現在、未登録滞在者は35万6095人(全体滞在者237万9805人の14.9%)。最近急増した背景には、昨年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪の成功と外国人観光客誘致のために政府が行ったビザなし入国の拡大が大きく作用した。2017年12月末(25万1041人)から2018年5月末(31万2346人)までに増加した未登録滞在者6万1305人のうち、5万2213人がビザなし入国者だった。
政府が「未登録を量産する制度と政策は放置し、必要に応じて取り締まりで数字の管理にのみ重点を置いている」(ソク・ウォンジョン外国人移住・労働運動協議会運営委員)という指摘がある。移住労働者の就職の根拠である雇用許可制も未登録の量産の原因となっている。「雇用許可制で入ってきた移住労働者は、暴言・暴行を受け労働条件が劣悪でも事業場を離脱すれば未登録になる。雇用主が事業場の移動に同意しても、3カ月以内に新しい職場を見つけることができなければ未登録になり、40歳以上の労働者(雇用許可制は18歳以上40歳以下だけを許可)が韓国で働くためには未登録にならざるを得ない」(ウダヤ・ライ移住労組委員長)。2000年から2017年まで取り締まりで強制退去させられた人だけで約34万800人だった。
タン・ジョ・テイ氏(ミャンマー出身労働者)の死亡から12日後(2018年9月20日)、法務部は「不法滞在外国人が建設業などで国民の雇用を蚕食するのを防ぐ」とし、特別取り締まり対策を発表した。「不法滞在就業者が占める国民の雇用を回復するという点で雇用創出の効果をあげられると期待する」という説明がついた。前年同期に比べ3千人の増加にすぎず、就業者数がグローバル金融危機以降最低値を記録したというニュース(昨年8月)が騒然と報道されてから1カ月後のことだった。法務部は雇用をめぐる韓国人と外国人の葛藤の構図によって取り締まりの正当性を説明した。就職難を利用した新たな取り締まり論理の登場だった。
移住労働者が建設市場の好む労働力となった背景には、多段階の下請け構造があった。元請けは工事期間の短縮と事業費の縮小で下請け業者に圧力をかけた。下請け業者は、安価で使われながら労働災害や賃金未払いがあっても声を上げることが難しい未登録移住労働者らを雇用し、コストを減らした。韓国はもはや低賃金・長時間労働に耐える移住労働者なしには建設できない段階に進んでいる。多段階の下請けによる建設労働市場の歪みからは目を背け、移住労働者に雇用難の責任を転嫁しようとしているという批判が法務部に向けられている。