ドナルド・トランプ米大統領が金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長とのハノイ会談で、北朝鮮が合意を履行しない場合は制裁を復元する「スナップバック」(snapback)を前提に制裁緩和に肯定的な立場を示したと、チェ・ソンヒ北朝鮮外務次官が明らかにしたことで、同案が朝米非核化交渉の突破口になるかどうかに注目が集まっている。キム・ヨンチョル統一部長官候補者は、26日に開かれた人事聴聞会で、「スナップバックにどのようなレベルの内容を盛り込むかが、今後の朝米交渉で非常に重要な議題になるだろう」と見通した。
スナップバックとは、経済的利害をめぐる貿易交渉で、合意履行を強制するための装置として使われる。合意を履行しなければ報復できるという事実を明示することで、履行の持続性を担保するものだ。2012年3月に発効した韓米自由貿易協定(FTA)の自動車関連分野にもスナップバックが明示されたが、投資家対国家の紛争解決(ISD)の容認とともに、代表的な毒素条項に挙げられる。
スナップバックは2015年7月、オーストリア・ウィーンで妥結したイラン核合意にも適用された。当時、国連安全保障理事会(安保理)5カ国の常任理事国(米中ロ英仏)とドイツがイランと結んだ「包括的共同行動計画」(JCPOA)には、イランが合意を破れば制裁を復元できるという内容が盛り込まれている。イランは、国連制裁の段階的解除の見返りとして、核開発プログラムを推進しないことを約束した。
スナップバックはイランにとって友好的とはいえない内容だった。合意当事国に欧州連合まで参加した合同委員会で、一国でも制裁解除の継続に異議を申し立てれば、直ちに国連安保理に付託される。合同委員会では誰も拒否権を行使できない。安保理では、制裁解除を継続するかどうかに関してのみ投票できる。制裁の復元に反対する国家の拒否権行使を根本的に排除するためだ。30日以内に投票が行われなければ、自動的に制裁が復元される。
北朝鮮がこのような事情を知らないはずがない。にもかかわらず、チェ次官がハノイ会談でスナップバックを前提にした制裁解除が協議されたことを公表したのは、北朝鮮がこれを受け入れる可能性があることを示唆する。ク・ガブ北韓大学院大学教授は「北朝鮮としては大きな賭けに出たといえる」とし、「スナップバックの言及は北朝鮮の非核化への意志を示すと同時に、制裁緩和が切実だという事実を示す」と説明した。
チェ次官は、スナップバックにトランプ大統領が前向きな態度を示したが、マイク・ポンペオ国務長官とジョン・ボルトン国家安保補佐官が障害を作ったと主張した。米政府内部でもスナップバックをめぐり見解が分かれていることがうかがえる。
スナップバックが米国の武器になるためには、発動のハードルを最大限下げるなど、緻密な計算が必要だ。そのうえ、現在の対北朝鮮制裁は、国連を含む国際社会の制裁と米国の独自制裁が複雑に絡み合っている。外交部の関係者は「朝米がスナップバックを議論する場合、非核化措置と結びつけた制裁解除の手順をはじめ、合意違反があったかどうかの判断方法や手続きなど、複雑な争点が新たに浮上するだろう」と述べた。国家安保戦略研究院のチョ・ソンニョル前首席研究委員は「朝米が依然として信頼が足りない状況で、スナップバックが合意の安全弁になるのは難しい」とし、「朝米の非核化交渉の核心は、依然として北朝鮮が核をどうするかの問題」だと指摘した。