膠着の泥沼にはまったかのように見えた朝鮮半島情勢が、再び対話に向けて方向転換できる動力を得た。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が取り出した特別使節団(特使団)訪朝カードの成果だ。
南北は18~20日に開かれる平壌(ピョンヤン)首脳会談で、「朝鮮半島の非核化に向けた実践的な案」を含む「朝鮮半島平和」問題を文大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長が集中協議することで合意した。文大統領は、金委員長との協議結果を持って米国ニューヨークで開かれる国連総会(18日~10月1日)に出席し、ドナルド・トランプ米大統領と首脳会談に臨む。「南北首脳会談→韓米首脳会談」につながる、文大統領を軸にした南北米首脳の直接・間接的な“平和交渉”を通じて、「9月の朝鮮半島」における対話の動力を維持する基盤が整った。
これに加え、先月24日に急きょ中止されたマイク・ポンペオ米国務長官の4度目の訪朝が実現すれば、朝鮮半島のの平和に向けた「対話プロセス」にも弾みがつくと見られる。トランプ大統領は6日、ツイッターを通じて「北朝鮮の金正恩氏が『トランプ大統領に対する変わらぬ信頼』を示してくれた。金委員長に感謝を表する。我々は共に(非核化を)成し遂げる」という反応を示した。
金委員長は5日に特使団と面会し、自分の非核化への意志を疑っている米国側の懸念について、積極的に釈明した。「非核化への意志を重ねて確約」し(「朝鮮中央通信」6日付報道)、「トランプ大統領の第一期目の任期中に、70年間の敵対の歴史を清算し、朝米関係を改善すると共に、非核化を実現できることを願っている」(チョン・ウィヨン大統領府国家安保室長6日の記者会見)と強調した。キム・ウィギョム大統領府報道官は「この発言(トランプ大統領の任期中に非核化を実現)に最も重要な意味が込められているとチョン室長は見ている」と説明した。元高位関係者は「金委員長が初めての非核化(と平和プロセス)の完結時点、つまり出口に到達する期限を明確にしたという点で、かなりの意味がある」と指摘した。トランプ大統領の第1期目の任期は2021年1月までだ。
金委員長が特使団との面会で明らかにした対米メッセージの核心は「相互信頼」だ。金委員長はトランプ大統領に対する信頼に変わりはないと強調した。さらに、米国側が韓米同盟を揺るがしかねないとして消極的な態度を示している終戦宣言と関連しても、金委員長は「終戦宣言をすれば、韓米同盟が弱体化される、または在韓米軍を撤退させなければならないというのは、終戦宣言とは全く関係がないという立場を表明した」とチョン室長は伝えた。「終戦宣言を韓米同盟と最初から関連付けるつもりはない」(キム・ヨンチョル統一研究院長)という表明であり、韓米両国の一部の憂慮は“杞憂”に過ぎないという説明だ。特に、金委員長は「非核化の決定に対する自分の判断が正しかったと思えるような環境が整えられることを望んでいる」と述べたと、チョン室長は強調した。
「朝鮮中央通信」も、金委員長が特使団に会い、「朝鮮半島を核兵器も、核の脅威もない平和の地にしようというのが我々の確固たる立場であり、自身の意志だとして、非核化の意志を重ねて確約すると共に、朝鮮半島の非核化の実現に向けて北と南がより積極的に努力していこうと述べた」と報じた。元高位関係者は「金委員長が状況を打開しようとする明確な意思を持っていることを示している」とし、「米国が状況を揺さぶろうとしてもそれに惑わされないという意味で、韓国にとっては幸い」だと話した。
ただし、金委員長は特使団との面会で「同時行動原則」を強調し、「一方的な非核化はない」という意向を明らかにしたようだ。「北朝鮮の先制的処置に対する(米国の)相応の措置が行われるなら、非核化に向けてより積極的な処置を続けていけるという意志を強く表明した」というチョン室長の伝言がそれを裏付ける。「金委員長が米国にメッセージを伝えてほしいと要請した」というチョン室長の発言から、金委員長が非核化と終戦宣言など相応の措置をめぐる朝米の隔たりを埋める北側の案を、特使団に明らかにした可能性もあると見られる。チョ・ソンニョル国家安保戦略研究院首席研究委員は「(インタビューした9月6日から)12日後に開かれる南北首脳会談で、金委員長が非核化と関連した“実践的内容”を表明することもあり得る」と予想した。
さらに、文大統領と金委員長の第3回首脳会談の主要議題も4・27板門店(パンムンジョム)宣言同様、「平和」に焦点が当てられた。南北の軍事的信頼構築は、非核化の意志とも関係する平和定着の努力だけでなく、国連・米国の対北朝鮮制裁の中でも加速化できる領域という戦略的判断の結果とみられる。根本的には、朝鮮半島が冷戦の孤島として残されている背景には、朝米の敵対と共に、南北の軍事対立が続いてきたためという認識があると言える。
このようなアプローチは「平和が経済だ」(文大統領の光復節記念式典での演説)や「経済建設への総力集中の戦略路線を実現するためには、いつになく朝鮮半島とその周辺の平和的環境が必要である」(リ・ヨンホ北朝鮮外相、8月4日のASEAN安保フォーラムでの演説)という南北の共通認識につながっている。対北朝鮮制裁のため、当初計画とは異なり、第3回首脳会談で「大規模な経済協力を含めた南北共同繁栄」案づくりに焦点を当てられない現実を考慮した調整でもある。これと関連し、政府は文大統領の訪朝の際、大規模な財界代表団を一緒に送ることで、経済協力などの共同繁栄の意志を強調する計画だと言う。