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「過ちがあれば全部書きなさい」…精神疾患呼んだサムスンの「白紙監査」

登録:2018-08-09 16:39 修正:2018-08-10 12:13
サムスンウェルストーリーの職員であるL氏が2016年11月2日、監査を受けている。L氏は監査後、パニック障害診断を受けた=L氏提供//ハンギョレ新聞社

 サムスン火災の子会社で監査を受けていた職員が最近自ら命を絶ったことが7日確認された。ハンギョレの取材結果を総合すれば、サムスン火災の子会社であるS社で働いていたA氏が4日午前、ソウルにある自宅で死亡しているのが発見された。彼は付箋3枚の短い遺書を残しており、遺書には会社の監査チームに対する恨みと不当だという思いを訴える内容が主に書かれていたという。

 S社では先月から保険料支給などの適切性を問う監査が進行された。サムスン火災側はS社でなされた監査を1~2年毎に実施する「定期現場点検」だと説明した。A氏は数回調査を受ける過程で、周りの人に監査が不当だという思いを訴えてきたという。サムスン火災側はA氏の死亡と監査の関連性を尋ねると「残念なことではあるが、監査のために起きたことかどうかについては明確に確認されていない。捜査が進行中なのでその結果を見る必要があると思う」と答えた。 警察はA氏が自ら命を絶つことになった過程で会社の違法な行為があったかどうかなどを調べているとされる。

■監査後に精神疾患にかかった職員たち

 サムスングループの監査は苛酷なことで悪名が高い。検察の捜査より苛酷だという話まで出てくるほどだ。監査による精神疾患で労災が認められたケースもある。S社の親会社であるサムスン火災で部長として勤務していたK氏(51)は部下の職員にプレゼントを強要し、7万ウォン相当の販促品のネクタイ4本を着服したなどの理由で2016年9月に5回監査を受けた。そして同年10月5日に職務解任された。

 K氏は「部下の職員にプレゼントを強要したことはない。当時私が管理していた販促品の費用だけで年間数億ウォンのレベルなのに、ネクタイを4本着服したというのもやはり非常識な話だ。にもかかわらず、会社が78人の人事命令を出した翌日に私一人だけを職務解任する人事命令を出した。ひどい侮蔑感を感じた」とハンギョレに打ち明けた。

 K氏は職務解任の2日後の10月7日、初めて精神科医院を訪ね「激しいストレス反応および適応障害」の診断を受けた。以後もずっと精神科の治療を受けなければならなかった。結局彼は昨年10月、会社の監査によって適応障害、外傷後ストレス障害などの疾患を患っているとして、勤労福祉公団ソウル瑞草(ソチョ)支社に業務上災害の申請をした。そして今年3月、労災が認められた。

 勤労福祉公団がK氏に通知した「最初の療養申込書処理結果」を見れば、「監査を受ける過程で監査方法と監査直後の部署長人事発令(職務解任)等が業務上ストレスの要因として作用したものと判断」され、「適応障害」と業務上の因果関係が認められると明らかにした。 だが、サムスン火災はプレゼント強要と販促品流用および勤務怠慢などを理由に先月31日、K氏に解雇通知書を送った。

 K氏は「会社規定を見れば労災患者は2年ずつ2回、計4年間療養することができる。大学病院と総合病院で精密診断の結果、日常生活が困難なほどに精神疾患症状が重いという診断を受けて会社に提出したのに、勤務怠慢などを理由に解雇したのは理解できない」として憤りを爆発させた。K氏は今でも精神疾患治療のために毎日11個の薬を飲んでいる。 これに対してサムスン火災は「職員3人の実名投書があって監査を進めたもの」として「労災が認められたとしても会社が出勤できる状態だと判断すれば出勤を要求できるのだが、K氏がこれに応じなかった」と明らかにした。

 監査による精神疾患で労災を認められたのはキム氏だけではない。 サムソンSDIで2016年3月29日から監査を受けたB氏も、昨年1月に監査による精神疾患が認められて労災判定を受けた。B氏の「業務上疾病判定書」を見れば、「(B氏は) 中等度のうつ病エピソード(うつ病)、適応障害などの傷病を有するものと認定される」として、事業場で実施した監査方法(抜き打ち監査、監査場所、事実強要など)等が影響を及ぼしたと見られると明らかにしている。

 サムスンウェルストーリーのL氏も監査後に精神疾患を負った。彼は2016年10月28日から翌月7日まで監査を受けた。彼は監査中だった11月5日から精神科診療を受け始め、パニック障害診断を受けた。L氏は「最近はパニック障害に加えて体の左側部分が麻痺したようにしびれる症状まで生じている」と話した。彼は近いうちに勤労福祉公団に労災申請をする計画だ。

サムスン火災の子会社所属A氏の極端な選択
先月から「現場点検」の名目で監査
付箋3枚の遺書には「監査は不当だ」
会社側「監査のためかは確認できない」

監査後に精神疾患発症した職員たち
プレゼント強要・ネクタイ着服などで監査受け
サムスン火災の部長「適応障害」等発症
労災判定受けたが会社は解雇通知

捜査より苛酷な監査
監査対象者に問答無用式の自白強要
白紙与え「ガイドライン違反を全て書け」
「取引先・会った職員の名前全て書け」
辞表出すまで終りの見えない監査
相談労務士「人員退出用ではないか」

■サムスンの苛酷な監査方式

 サムスン系列会社で監査を受けた人たちは一様に、苛酷な監査方式を指摘して苦痛を吐露した。 法務法人「カムチョン」がサムソンSDIで2016年に監査を受けた40人余りに会って記録した資料とハンギョレの取材結果を総合すれば、サムスンの監査には一定の「パターン」があった。

 まず、監査対象者にどういう理由で監査するのかを言わない場合が大部分だ。監査官はたいてい「入社以来今までサムスン役職員ガイドラインに違反したことがあれば全部書きなさい」と言って白紙を与えて出て行く。 いくら考えても特別書くことがなくて書かないでいると、次には「今まで取り引きした会社の名前を全部書きなさい」という注文が続く。その次には「今まで取り引きした会社で会った職員の名前を全部書きなさい」と要求する。監査の中間中間に「(不正事実は)全部分かっているから今話せば善処する」という言葉も挟む。

 こうした“訳のわからない”監査が短くは数日、長くは数カ月続く。 サムソンSDIのように全国各地に工場がある場合は「長距離監査」が行なわれたという証言もある。蔚山(ウルサン)工場に勤務する職員を京畿道水原(スウォン)にあるサムスン電子素材団地に呼んで監査するといった形だ。監査対象者のうち一部は一週間も耐えられず辞表を出した。

 サムソンSDIに20年余り勤めた職員C氏は、2016年3月初めに監査通知を受けた。彼は「20年の間に誤ったことがあれば全部書けという注文を受けた」と証言した。 いくら考えても特別何も浮かんでこないので「誤りがあればいっそ懲戒委員会に上げてほしい」と言ったが無駄だった。彼は結局監査4日目にして辞表を出すと言った。すると5分後に人事チームの職員がその用紙を持ってきた。

 法務法人カムチョンがまとめた資料を見れば、家族の葬儀を終えた翌日に監査室に呼び出されたケースもあり、酒を飲まない職員に「2次会に行ったんじゃないのか」と追及した事例も登場する。 不正事実があるなら教えてくれという職員の要求に、監査官は「監査プロセス上、言うことはできない」と答えた場合が大半であった。

 サムスン系列会社の監査対象者に何人も会って相談を行なってきたカムチョンのイ・ヨンマン労務士は「サムスンの監査方式は、ひとまず自らの過ちを自白せよという方式でなされる。不正摘発が目的というよりは人員退出など他の目的のために活用されるのではないかという疑いを持たせる面がある」と話した。 サムスン側はその度に不正の疑いのある者に対する適法な監査または日常的な定期監査だと釈明した。また、監査が抑圧的に進められることもないと述べた。

チョン・ファンボン、 シン・ミンジョン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/856671.html韓国語原文入力: 2018-08-08 05:00
訳A.K

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