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[コラム]「信頼構築」が「CVID」を抑えた朝米首脳のコード

登録:2018-06-18 05:57 修正:2018-06-18 07:08
ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が今月12日、シンガポールカペラホテルで首脳会談の結果を盛り込んだ共同宣言に署名した後、笑みを浮かべている=シンガポール/AP、聯合ニュース

 金正恩委員長は、CVIDの代わりに「信頼構築」という極めて常識的なコードを、北朝鮮核問題の解決の鍵として持ち込んだ。そして、まさにこの過程で、自らが目指す「核兵器がなくても生存できる北朝鮮」の可能性を、彼の“人民”に示した。

 6月12日の朝米首脳会談は、70年間にわたって金城鉄壁のごとく立ちはだかってきた朝鮮半島における冷戦構造の解体の幕開けを告げる、歴史的事件だった。朝鮮半島の安保体制の根本的転換を目指す、実に大胆な合意だった。

 しかし、筆者の期待が大きすぎて、ポイントを見逃したのか、朝米共同声明の内容を確認する瞬間には当惑した。期待されていた「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)と、それに相応する「北朝鮮に対する完璧な体制保証」(CVIG)の具体的な交換とはかけ離れた、原則的な合意を盛り込んだ共同声明が出たからだ。この抽象的な共同声明に基づき、米国がいかに北朝鮮の非核化措置を引き出せるのか、また、北朝鮮がいかに彼らの望む経済制裁の解除を得られるのか、あまり予測がつかなかった。

 「もしかして何か見逃した点はないだろうか」と思い、分析を重ねたところ、今回の共同声明がCVIDとCVIGの交換モデルとは異なるフレームで作られたという判断に至った。首脳会談の合意が共同声明の中に留まることなく、共同声明の外にも存在するのだ。案の定、トランプ大統領は記者会見で、北朝鮮ミサイルエンジン実験場の廃棄と韓米合同軍事演習の中止のような重要な措置を、北朝鮮と合意したと明らかにした。

 このような合意方式は、北朝鮮が提案し、米国が受け入れて作られたものと見られるが、その中心には「信頼構築」がある。共同声明にも「相互信頼構築が朝鮮半島の非核化を後押しできるという共同の認識」のもと、4項目に合意すると書かれている。著名なジャーナリストのキム・ヨンヒ先任記者は、ある討論会で「CVIDが合意文に盛り込まれたとしても、相互信頼がなければ、その履行を保障できないのではないか」と指摘した。本質を突く問題意識だ。実際、逆にCVIGについても、朝米間の信頼がない状態では、金正恩(キム・ジョンウン)委員長も(米国の約束を)信頼できないだろう。

 北朝鮮は自分が物理的に実践しなければならない非核化に比べ、口約束や書面で保証を受けるしかない体制の安全について、不安感を持っていた。だからこそ、これを補完し合う方式として、相互信頼が深まる中で進められる非核化と体制保証の交換を提案したのだろう。北朝鮮は自分のフレームを貫くため、まず条件なしで核・長距離ミサイル試験発射の停止と豊渓里(プンゲリ)核実験場の廃棄を断行すると共に、抑留米国人たちを解放した。実際、このような“善意の措置”が朝米間の初歩的な信頼を作り出し、朝米首脳会談を実現させる足がかりとなった。

 同じ脈絡で、朝米首脳会談が作り出した情勢の発展と朝米間の信頼構築が、韓米合同軍事演習の中止措置と相乗効果を発揮し、北朝鮮指導部に非核化の名分を提供して、追加的な非核化措置につながる可能性が高い。こうなれば、米国は北朝鮮の“善意の措置”に見合う別の前向きな措置を取るだろう。結局、信頼と“善意の措置”が好循環を成すプロセスとして、新たなメカニズムが作動するのだ。

 トランプ大統領が金正恩委員長を信頼し、新しいフレームの提案を受け入れた理由は何だろうか。金委員長の非核化への意志に対する評価が変わったからだ。これまでトランプ大統領は、米国の最大の圧迫と制裁により、金委員長が仕方なく非核化に乗り出したと判断しており、だからこそ北朝鮮の欺瞞を警戒した。しかし、金委員長が非核化を通じて、今とは全く異なる北朝鮮を作りたがっているとすれば、話が違ってくる。

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が今月12日、シンガポールカペラホテルで首脳会談の結果を盛り込んだ共同宣言に署名した後、笑みを浮かべている=シンガポール/AP、聯合ニュース

 実際、金正恩委員長は、彼の祖父と父親のように「米国の脅威」に対抗して軍事力を強化するため厳しい経済状況を余儀なくされる「貧しい北朝鮮」を拒否する。彼は「経済的に隆盛した北朝鮮」を熱望しており、これに向けて核兵器を放棄する代わりに米国から体制保証を受ける意思を表明した。軍事主義ではなく経済主義路線を追求する新たな国家モデルを提示したのだ。多分トランプ大統領は短い単独首脳会談でこれを直接確認したのだろう。

イ・ジョンソク元統一部長官・世宗研究所首席研究委員//ハンギョレ新聞社

 結局、金正恩委員長は、CVIDの代わりに「信頼構築」という極めて常識的なコードを、北朝鮮核問題解決の鍵として持ち込んだ。そして、まさにこの過程で彼が目指す「核兵器がなくても生存できる北朝鮮」の可能性を彼の“人民”に示した。北朝鮮式にいえば、米国の脅威に対処して作った「核保有の戦略国家」から、大国と対等に朝鮮半島の情勢を主導的に変化させていく「核のない戦略国家」への転換を示したのだ。

イ・ジョンソク元統一部長官・世宗研究所首席研究委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/849463.html韓国語原文入力:2018-06-17 20:53
訳H.J

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