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[ルポ]韓国人被爆者への配慮なく米大統領に謝罪求める日本

登録:2016-05-24 09:10 修正:2016-05-24 21:37
オバマ米大統領が献花する予定の広島の原爆死没者慰霊碑の下には、原爆で死亡した人の名簿が保管されている。名簿(109冊)の犠牲者数は29万7684人。18日、1年に一度の名簿の風通しがされた=キル・ユンヒョン記者//ハンギョレ新聞社

現地では謝罪が必要との意見が圧倒的
安倍政権支持率の反転を狙った日本政府と
謝罪を要求する広島との間に深い溝

韓国世論の「日本の責任論希薄化」に批判
オバマ大統領の韓国人慰霊碑への献花なければ
韓日の歴史認識をめぐる葛藤が再発するおそれ

 「いたずらに幻想を持つ必要はない。みんな自分らの政治判断だよ!」

 18日、広島で在日同胞が多く住む福島町の居酒屋。記者に会った広島県朝鮮人被爆者協議会のキム・ジンホ理事長は、アサヒスーパードライをコップに注ぐとがぶがぶ飲み始めた。夕闇迫る午後6時のことだった。

 キム氏は、1945年8月6日に広島に原子爆弾が落とされた時に母親のお腹の中で被爆した「被爆一世」だ。爆心地から北東へ15キロほど離れた可部町に住んでいたキム氏の親は、原爆投下後、爆心地近くに住んでいた2人の娘を探すため、市内へと向かった。このためキム氏の親、母親の背中におんぶされた2歳上の姉、お腹の中にいたキム氏が被爆。市内に住んでいた上の姉まで合わせると、4男5女の9人のうち4人が被爆者となった。

 生涯にわたり広島の総連(在日本朝鮮人総聯合会)組職に携わったキム氏は、バラク・オバマ大統領の27日の広島訪問について冷淡な反応を示した。「2009年のプラハ演説から7年もの歳月が流れているのに、オバマ大統領は非核化に関連してさしたる成果も出せなかった」という理由からだ。

広島・長崎の朝鮮人被害//ハンギョレ新聞社

 オバマ大統領の今回の訪問を見守る広島の視線は複雑である。広島では、オバマ大統領は「謝罪すべき」という意見と、「被爆地訪問だけでも意味がある」という世論で割れている。だが「謝罪は必要ない」という意見も現実的な妥協論に過ぎず、本心では謝罪を必要とする意見が圧倒的多数だった。1991年から8年間、広島市長を務めた平岡敬氏(89)はハンギョレとのインタビューで、「オバマ大統領には米国大統領として立場もあるから謝罪はしないはずだ。自分の政治的名誉だけのために来るなら、ちょっと広島に失礼じゃないか」と語った。日米同盟の強化と安倍首相の支持率引き上げのため今回の訪問を利用しようとする「東京の視線」と、罪のない人命を犠牲にした原爆投下に対する謝罪を望む「広島の視線」の間には深い溝がある。

 しかし、被爆の悲惨さを訴える広島の視線にも、韓国・朝鮮人被爆者問題に対する積極的な配慮は見当たらない。キャロライン・ケネディ駐日米国大使に「オバマ大統領は被爆者と面談すべき」と要請した松井一実・広島市長は、韓国・朝鮮人被爆者に関連し、オバマ大統領が「外国人の被害に対しても」言及することを望むという趣旨の発言をしただけだ。 中国新聞など広島の主要メディアも、韓国・朝鮮人被害者のインタビューを載せてはいるが、世論を主導しているとはいえない。

 原爆被害に対する広島の公式記憶においても、広島の「加害の責任」に対する省察の痕跡を見つけるのは難しい。ハンギョレ取材陣は18~19日の両日、オバマ大統領が視察することになる広島平和記念資料館の展示物を入念に確認した。しかし、日本のアジア侵略▽朝鮮・台湾に対する植民支配▽7万人と推定される韓国・朝鮮人の被爆問題を一目瞭然で把握できる案内を見つけることはできなかった。しばらく探し回った末、記念館とは別に設けられた国立広島原爆死没者追悼平和記念館で、「原子爆弾が落とされた時、広島には35万人前後の人がいたと推定される。そうした人たちの中には、当時、日本の植民地だった朝鮮半島の出身者も多数いた」という文章が確認できるだけだった。もちろん、記念館の外の記念公園には1999年5月に公園の外から現在の位置に移転された「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」が設置されている。たまに日本の小学生たちが訪れ、「広島には韓国人被害者もいた」という教師の説明を聞いて頷いている光景を見ることができた。

 広島では、オバマ大統領の訪問が「日本の加害責任を希薄させるおそれがある」とする韓国の世論が不愉快な思いで受け止められていた。広島県原爆被害者団体協議会二世部会の中谷悦子事務局長(66)は、「オバマ大統領が慰霊碑に献花したら、なぜ日本の加害責任が薄くなると思うのか理解できない。(本当に非核化を望むなら)韓国でも広島の運動を支援し、(オバマ大統領の)広島訪問を一緒に利用すべきではないのか。結局、韓国と中国は(被爆者を支援する人以外は)核兵器を肯定している」と批判した。

 こうした微妙な対立の間隙をつき、再び韓日間の歴史認識問題が再発するおそれさえ提起される。仮にオバマ大統領が、広島が切実に望む被爆者面談もせずに韓国人慰霊碑に立ち寄れば、「広島を侮辱した」という反発が起きるほかない。現在の記念公園の場所に自宅があったという被爆者のアマザキ・カンジさん(88)は「オバマ大統領と直接会って必ず話をしたい。原爆がどれほど恐ろしいものか、まずは認識しなければならない」と話す。反対に、オバマ大統領が韓国人慰霊碑に献花しなければ、今回の訪問を見守る韓国の世論は冷え込むしかなかろう。オバマ大統領が献花するとされる原爆死没者慰霊碑と韓国人慰霊碑との距離は、大人の足でわずか270歩に過ぎない。韓国人被爆者問題の取材経験がある中国新聞の道面雅量(どうめんまさかず)記者は「今回の訪問を退任を控えたオバマ大統領に花束を贈呈する政治イベントで終わらせないようにすべきだ。韓国人被爆者の意見を共に聞き、非核化に向けた議論を進めていくことが重要だ」と話した。

広島/キル・ユンヒョン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-05-23 22:26

https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/745100.html 訳Y.B

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