朴槿恵(パク・クネ)大統領が10日、中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスに対する初期対応の失敗に厳しくなった世論を収拾するため、「訪米延期」という賭けに出た。国民の安全を理由に最優先外交対象国である米国訪問まで延期し、これまで国家の非常事態に消極的だったという批判を抑え込むとともに、首相任命及び国会法改正をめぐり行き詰った政局も突破しようとする、一石二鳥の効果を狙ったものとみられる。
朴大統領がMERS対応を理由に訪米を延期しただけに、MERSへの対応を毎日直接管理点検するか注目されている。
出国の4日前に電撃的に発表された訪米延期の背景には、徐々に悪化している世論が第一の理由として挙げられる。政府の初期対応の未熟さがMERS事態の拡散の決定的な原因になったという批判の声が高まっている状況で、朴大統領の訪米は、無責任な政府に対する不信感を招くのは必至だった。今月で任期折り返しの時期を迎える朴大統領のリーダーシップが深刻な打撃を受けた場合、回復が困難だという判断に加え、これまでに経験した“歴訪トラウマ”も影響を与えたものと思われる。朴大統領は、セウォル号事故から1カ月後の昨年5月19日、国民に向けた謝罪談話を発表してから、アラブ首長国連邦(UAE)へ出国したのに続き、昨年4月16日セウォル号1周年当日も中南米歴訪を強行し、激しいバッシングを受けた。
同日、世論調査専門機関リアルメーターが発表した朴大統領の訪米に対する世論調査(グラフィック参照)も歴訪を延期すべきだという回答が全体の53.2%で、予定通り訪問に行くべきだという回答39.2%よりも圧倒的に多かった。また政界では、朴大統領が訪米に出かける場合、はるかに世論が悪化するという予想が多かった。MERSによる消費鈍化と景気後退の兆しが実体経済に本格的に影響を及ぼし始めたことを受け、批判世論が激しさを増す速度や波及力がセウォル号よりもはるかに速く、強く現れているからだ。
これと共に国会法改正案と拒否権行使をめぐる大統領府と与野党の対立と、ファン・ギョアン首相候補任命同意案の処理をめぐる国内政治状況も影響を及ぼしたものと見られる。ファン候補者が4日以内に、国会の承認手続きを通過できるかどうかも不透明なうえ、国会の承認手続きを通過したとしても、朴大統領が新首相に危機対応の総括的な責任を押し付けていく格好となるため、政治的な負担になっていたと思われる。
与党が朴大統領の出発前に首相任命同意案を処理しようと無理やり採決を強行し、国会が空転した場合、その責任も朴大統領が負わなければならない状況だった。そうなれば、もう一つの争点である国会法改正案に対する朴大統領の拒否権行使などにおいても、大統領府が名分を失う可能性が高かった。朴大統領としては、今回の訪米を強行する場合、支払わなければなら対価があまりにも大きかったわけだ。
朴大統領の今回の訪米日程に議論すべき緊急懸案や講演日程などがなく、米国政府の理解と同意を求めるのが比較的に容易だったという点も、(訪米延期の決定に伴う)政府の負担を軽くした要因として挙げられる。朴大統領の訪米は様々な面で、4月の安倍晋三首相の訪米と比較されざるを得なかったが、今年4月に(日本の首相としては戦後初めて)上下両院合同演説を行った安倍首相とは異なり、朴大統領は、すでに2013年に合同演説を経験している。すでに国際的にも韓国のMERS対応のプロセスが注目されており、朴大統領としては訪米延期の名分が十分な状況であった。
韓国語原文入力: 2015-06-10 20:28