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[記者手帳] “内乱陰謀”がなかったのに“内乱扇動”ができるのか

登録:2015-01-24 18:49 修正:2015-01-26 07:32
内乱陰謀容疑などで起訴されたイ・ソクキ前統合進歩党議員が22日午後、ソウル瑞草区の大法院で開かれた宣告公判に参加するため法廷に入っている。 写真共同取材団 //ハンギョレ新聞社

“陰謀”は犯罪の謀議、“扇動”は他人に決心させること
“陰謀”なしに“扇動”が可能か…専門家たちも意見交錯

 22日、(最高裁)全員合議体(主審 キム・ソヨン最高裁判事)は、イ・ソクキ前統合進歩党議員(53)など7人の内乱扇動および国家保安法(称揚,鼓舞)違反容疑については有罪を、内乱陰謀容疑については無罪を宣告した原審を確定しました。 内乱を“陰謀”してはいないが“扇動”はしたという結論です。

 反応は交錯しました。 陰謀してコンテンツを作らなかったのに、何を持って扇動するかということです。 ネチズンたちも“内乱陰謀”と“内乱扇動”容疑の根拠になる事実関係はすべて同じなのに、有無罪が分かれたことは常識的に理解し難いという反応です。「陰謀がないのに、その陰謀を扇動した。存在しないことを扇動するということは一体どういう意味なのか」というような反応が出てきました。最高裁関係者は「内乱扇動罪は内乱陰謀を扇動すした時に成立するのではなく、内乱を扇動した時に成立することで、内乱扇動罪が内乱陰謀の成立を前提とするものではないという立場を基礎にこのような結論が出てきた」と説明しました。

 大法院は「2人が陰謀しなくても、それぞれ扇動することはできる」という法理を前面に出してこのような結論を下しました。 しかし大法院判事のうち3人は少数意見を出して「多数意見が『内乱犯罪実行の合意にまで至らず、合意に至ったとしても内乱に進む実質的危険性はない』として内乱陰謀罪は無罪としながら、内乱扇動罪は認めておりいぶかしい」という立場を出しました。 陰謀と扇動の概念から一つずつ説明してみます。

■予備・陰謀、宣伝・扇動とは何か

 まず陰謀と扇動が法律的にどんな意味を持つのか正確に知らなければなりません。 犯罪は実行段階により既遂と未遂に分けられます。 犯罪に着手して成功すれば既遂、失敗すれば未遂になります。 金持ちの家の垣根を乗り越えたが強盗はできずに捕まれば未遂、家の中に入って家の主人に刃物を突きつけ物品を掠めてくれば既遂になります。

 予備・陰謀は既遂-未遂より以前、すなわち犯罪の実行着手に至る前段階の行為です。 陰謀は犯罪をしようと謀議すること、予備は犯罪を準備する行為と見ることができます。 強盗3~4人が「金持ちの家を襲おう」で具体的に意見を交わして決意する行為は陰謀、強盗に使う凶器を買って金持ちの家の周辺を偵察するなどの行為は予備と見ることができます。

 陰謀、予備、未遂、既遂が特定犯罪の実行過程を時間的に区分する概念である反面、宣伝、扇動は時間的な概念ではありません。 宣伝は犯罪同調者を増やすために犯罪行為の正当性を広く知らしめる行為、扇動は他人に正当な判断を失わせて犯罪を決心させる行為を言いますが、陰謀、予備、未遂、既遂の前段階で可能です。

 予備・陰謀や宣伝・扇動を処罰するかどうかは判断が容易でない問題です。 実際に犯罪に着手したわけではないからです。 このような理由で刑法は特別な規定がある場合にのみ例外的に予備・陰謀行為を処罰できるよう規定しています(刑法第28条)。 宣伝・扇動行為も国家的法益がかかった内乱罪・内乱目的殺人罪・スパイ罪などに対してのみ極めて例外的に処罰します。

■扇動にはあたるが、陰謀にはあたらない?

大法院の内乱陰謀無罪・内乱扇動有罪判決の論理はこうです。

 「被告人らが希望したとおりに全て成し遂げれば内乱だ。しかし希望を成し遂げるための具体的実行計画に合意できず、合意したとしても現実的に希望が実現される可能性が低い(内乱陰謀無罪)。 ただし、陰謀行為とは別に、『希望(内乱)を成し遂げよう』と扇動したので、この行為は聴衆の胸中に犯行の決心を誘発する危険がある。(内乱扇動有罪)」被告人らの扇動により聴衆が犯罪を決心することがありえ、その犯罪が実現されれば内乱だという意味です。大法院は「内乱扇動段階では内乱実行行為の時期と場所、対象と方式、役割分担など主な内容が具体的に提示される必要はなく、聴衆に内乱決意を誘発したり増大させる危険性があれば充分だ」と明らかにしました。

 だが、イ・インボク、イ・サンフン、キム・シン大法院判事の意見は違いました。三人の判事は、内乱陰謀はもちろん内乱扇動も無罪と判断して次のような論理を出しました。

 「被告人らが希望したとおりに全て成し遂げられても内乱でない。さらに希望を成し遂げるための具体的実行計画に合意できず、合意したとしても被告人らの希望(この希望自体も内乱とまでは認定しがたい状態)さえ実現の可能性が低い(内乱陰謀無罪)。 陰謀行為とは別に、『希望(内乱に至らない内容)を成し遂げよう』と扇動したが、扇動内容も具体的でない(内乱扇動無罪)」

 犯罪を決心するよう誘発する危険も少なく、扇動内容が抽象的であり、扇動の通り実現されても内乱とまで見ることは難しいという意味です。 三人の判事は「客観的に見て、内乱の主要な部分に関し概略的であれ特定された扇動というものが明確に認められ、その扇動により聴衆が内乱に進む実質的な危険性が認められる場合に限り内乱扇動罪が成立する」と話しました。

 特に三人の判事は多数意見が内乱扇動罪の成立要件を広げたことを強く憂慮しました。 三人の判事は「内乱陰謀罪の構成要件を充足できなくとも、別途の構成要件なく直ちに法定刑が同じ内乱扇動罪として処罰できるという多数意見の主張は納得できない」として「内乱扇動罪も内乱陰謀罪と同様、客観的明確性と実質的危険性が認められなければならない。 それでこそ同じ法定刑で処罰できる」と説明しました。

大法院判事たちが22日午後、イ・ソクキ前統合進歩党議員の内乱陰謀等事件の上告審宣告公判が開かれたソウル瑞草洞の大法院大法廷で席についている。 写真共同取材団 //ハンギョレ新聞社

■専門家の評価も交錯

 イ・ホジュン西江大学法学専門大学院教授は23日、ハンギョレとの通話で「内乱陰謀罪と内乱扇動罪は共に内乱犯罪を犯す前の準備段階を罰することだ。 したがって両方とも犯罪実行に進む実質的危険性がなければならない」と説明しました。イ教授は「準備段階行為を処罰することは例外的なので、厳格に解釈しなければならない。 今回の最高裁判決のように扇動罪の要件を緩和させれば処罰範囲が過度に広がり、表現の自由を萎縮させる恐れがある」と憂慮しました。

 一方、ソウルのある部長判事は「被告人らの希望が内乱に達するとまでは見難い」として“少数意見”に手をあげながらも「(少数意見が主張する)『法定刑が同一なので扇動と陰謀が類似の条件を必要とする』という主張は受け入れ難い。 わいろを授受・要求・約束した場合にも、その行為は違うが刑量は同じだ。 扇動と陰謀とは別の行為だが、同じ刑量で処罰するということは立法者の意志だ。 この部長判事は扇動は扇動なりに、陰謀は陰謀なりにそれぞれの意に合わせて判断すれば良い」と話しました。

 最高検察庁研究官出身のある弁護士も「陰謀は二人以上が意見を合致させることで、扇動は大衆に一方的に行えることだ。 陰謀より扇動の内容が具体的でなくとも成立するという多数意見が妥当に見える」と話しました。

 また別のソウルのある部長判事は「陰謀には目的がなければならないが、扇動は目的がなくとも処罰を受ける。ただし、扇動の内容が内乱と見るに足る内容でなければならない」と話しました。 法理はこのように観点により論争の対象になります。 皆さんはどう思われますか?

キム・ウォンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/675003.html 韓国語原文入力:2015/01/23 21:45
訳J.S(3469字)

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