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チャン・ハソン高麗大学教授「サムスン特別法もチェノミクスも間違いだ」

登録:2014-10-18 18:37 修正:2014-10-20 01:08
チャン・ハソン高麗大学教授. リュ・ウジョン記者//ハンギョレ新聞社

 チャン・ハソン高麗大学教授(経営学)が年下のいとこであるチャン・ハジュン英国ケンブリッジ大学教授の「サムスン特別法」の提案だけでなく、チェ・ギョンファン副総理兼企画財政部長官が主導するいわゆる「チェノミクス」に対しても直接的な批判をした。

 16日、ソウル通仁(トンイン)洞の参与連帯で開かれたブックコンサート「著者チャン・ハソンと共にする韓国資本主義」で読者たちと会った席でのことだった。チャン教授はキム・サンジョ経済改革連帯所長(漢城大学教授)との対談を通じ、自身の意見を加減なく明らかにした。

 年下のいとこである英国ケンブリッジ大学のチャン・ハジュン教授のサムスン特別法の提案に対しては、荒唐無稽な話だと明らかにした。 チャン・ハソン教授は「サムスン電子が外国人から経営権の脅威を受けているというのは話にならない。 経営権を奪うためには100兆ウォン(1ウォンは約0.1円)ほどの金額が必要になるが、そのような資金を調達できるファンドはない」と明らかにした。 また「サムスン特別法を通じてサムスン電子が経営権を保証されるとしても、反対給付として何を誰に出さなければならないかも明確でない。 サムスンがうまくいくことは韓国経済にとっても良いだろうが、サムスンにとって良いことが韓国経済に良いこととは限らない」と付け加えた。

 さらにチェ・ギョンファン長官のチェノミクスに対しても批判した。 彼は「ピケティ教授によって不平等に対する関心が高まり、そのような側面から“チェノミクス”が出てきたが、実際には効果がない」と話した。 チャン・ハソン教授は「企業の配当に対する減税を通じて消費が増えるかは疑問だ。20億ウォン相当の株式を保有した人に対して税金を減らしたからと消費につながるかは疑問だ。 また、企業所得に対して投資が少なければ課税するということ(企業所得還流税制)を導入しても、やはり税金を払う企業は幾つにもならないだろう」と話した。

 以下はキム・サンジョ経済改革連帯所長との質疑応答の全文だ。

(キム・サンジョ教授 以下、キム)『韓国資本主義』を出版することになった契機は?

(チャン・ハソン教授 以下、チャン)私が書いた初めての本だ。参与連帯で少数株主運動を始めるなど社会問題に参加して多様な評価をいただいた。 保守右派からは“アカ”という批判があった反面、正統マルクス主義を研究する人々からは“資本の手先”、特に“外国資本の手先”という明確に交錯する評価を受けた。 根拠のない批判も多かった。 私が(米国の)ハーバード大学に入学した時期に推薦書を書いてくれたカン・ヨンソクという友人は、サムスンから(チャン教授が)200億ウォンを受け取ったという話もした。

 これまで交錯した評価と根拠のない批判に対して防御したり言及したことはない。 テレビ出演もしたことがない。 政府の委員を引き受けたり、企業で講演したこともない。 自ら私の垣根の内側で過ごしてきたが、いつかは整理しなければと考えていた。 その間、出版社からサムスンとどのように戦ったとか、少数株主運動に関して出版を提案してくれたが、過去の話をして何になるかと思った。

 この本を書いた契機は、心から怒って書いたということだ。 韓国社会が最近10年余りも停滞しているが、その原因は保守だけでなく進歩にもあるからだ。 保守は既得権があるので自分を守るために論理を展開するのは理解できるが、ここ10年余りの新しい進歩が生まれたが社会と関係のない論理で大衆を魅了する姿を見た。

 もう一つの契機は、新たな論争を始める時が来たと考えたためだ。 韓国社会は時代的な価値や話題に対して紛らわしさがあると考えた。 そのために当初は1000ページ以上書いたところ、出版社が(出版することは)難しいと言って引いた。

 三つの原則を守って書こうとした。 1番目は、韓国の現実に徹底して基づくこと。 今日この時点で韓国に適用されない論理は加減することなく批判する。 2番目は、客観化されないものは提示しない。 そして3番目は、単純な事実伝達ではなく新しい韓国の未来に対する価値指向的な文を書かなければならない…だが、売れない。(笑)

(キム)2001年、私に参与連帯経済民主化委員会(経済改革連帯の前身)責任者の席を譲って自律権を与えた。 それでも(従いたい)種々の原則があったがその一つは、結果で、つまり、することの成果で話をするということだった。 だが、今度は世間の批判に対して無視したり回避したりせずに対応すると言った。 この本の結論の一つは「資本主義を直すこと」だ。 説明をお願いする。

(チャン)資本主義体制に問題が多いということは誰でも知っている。それでも250年の資本主義の歴史で、これに代わる代案が出てきたのは社会主義しかない。 初期資本主義時期の搾取と少数資本家の支配はすさまじかった。 その当時はマルクス理論が出て来ざるをえない状況だった。 マルクスの社会主義以外には国家経済あるいは世界経済体制としての資本主義以外の代案は現れなかった。

 もちろん協同主義、組合主義など部分的補完材はある。 社会主義が民主的手続きを通じて席を占めた民主社会主義、言い換えれば社民主義は、北欧で花を咲かせた。 だが、これは資本主義体制の中の社会主義だ。 極端な方法で革命を通じて社会主義を現実化した共産主義は没落した。 それでは、与えられた状況で我々がどのようにするかという現実的熟慮が必要だ。 資本主義の生命力は代案がないからだと考える。 代案がないならば、韓国のような小さな国で、これ(資本主義)を直して使う最善の方法が何かを探すことが代案になるという、極めて現実的な接近をしたのだ。

(キム)(1997年の)外国為替危機以後、左派、進歩陣営では韓国で起きた多くの問題を新自由主義の問題だとして、それを深化させたのが株主資本主義だという批判もある。 チャン・ハソン教授の少数株主運動が、株主資本主義の深化を持たらしたのではないかという批判もあった。 このような批判に対してどう思うか?

(チャン)世の中には2種類の金がある。自分の金でなければ他人の金だ。 企業も同じだ。 自己資本と負債だ。 株主資本に問題があるならば、代案を出さなければならない。 株主がいない代案は多様だ。 だが、資本をなくそうということは別の問題だ。 現代経済では資本があってこそ企業が成立し経済が動く。 それで利害当事者の資本主義を現実化できる現実的代案として協同組合を話す。 だが、資本問題でうまくいかない。 そこで政府に依存して社会的企業形態のようなものが発達する。

 それでは、一部の進歩左派が言う株主と労働者が互いに衝突するという主張を、現実的に一度見直さなければならない。 株主配当のために労働者の賃金を上げられないなどの話をしばしば聞くが、いったい何を根拠にこういう話をするのか?

 韓国銀行の資料によれば、人件費総額と配当金の比率を分析すれば、2004年の9%から今は4~5%に過ぎない。 最も配当を積極的に行う会社30社を分析しても、賃金対比で5~6%に過ぎない。 現在の銀行貸し出し総額1208兆ウォンのうち、企業向け貸し出しが687兆、家計向け貸し出しが487兆ウォンとなっている。 これに比べて、無担保-無保証資金が1327兆に及ぶ。 その資金は(機関投資家、個人投資家などが出した)株式資本だ。 30大企業に株式投資で入った金が695兆だ。

 株主資本主義が悪いと言うならば、これに代わる資本が必要だ。 30大企業に対する株式投資金を借り入れ金など借金に変えようとすれば、我が国の企業貸し出しの全部を持っていかなければならない。 そうなれば他の企業は借り入れが不可能になる。 企業の誤っている点は形態の問題であって本質の問題ではない。

 株主資本主義が無条件に悪いという主張は誤りだという話だ。 さらに(株主に対する)配当のために賃金が上がらないという主張にも根拠がない。 スイスの国家競争力評価機構(IMD)の資料を見ても、英米式資本主義をしている所が株主の権利が強いわけではない。 むしろ株主の権利が強いのはスウェーデン、フィンランド、ノルウェーなど利害関係者資本主義を実現している所だ。

(キム)英国ケンブリッジ大のチャン・ハジュン教授は、資本と労働の大妥協を代案として提示している。 可能だろうか? 特にチャン・ハジュン教授は、サムスン特別法を制定しようという話もした。 その特別法が、イ・ジェヨンとサムスンを生かし、韓国経済も生かすことができると思うか?

(チャン)妥協するということは何かを譲歩してやり取りすることだ。 具体的にサムスン特別法の話まで出てきたが、財閥の総師に何を与えるということか、総帥は反対給付として何を誰に与えるというのか、という話はされていない。 総帥一家の経営権を保障するという話は聞いたが、その代価として誰に何を与えるという話はない。

 もう一つは、経営権は保障されるものではない。 挑戦を受けるものだ。 韓国は新しい成功神話が作られない国だ。 イ・ジェヨン氏が経営権を受け継ぐことが(すでに)現実化されているのに、何を譲歩するというのだろうか? それでは現代自動車やLGはどのようにしようということなのか? チキン唐揚店の社長はどうしようということなのか?

 進歩ならば中小企業保護法を作って、労働者保護法を作ろうと言ってこそ当然だと思う。サムスン電子の職員平均年俸が1億ウォン(1ウォンは約0.1円)に達している。 今、心配すべきは2~3次協力業者の労働者たちだ。 それ(サムスン特別法)に相応する論理は”サムスン電子が滅びれば韓国経済が滅びる”ということだ。 実際、フィンランドはノキアが経営困難になってマイナス成長をしている。 だが、イ・ゴンヒ保護法、あるいはサムスン特別法を作ってサムスン電子が良くなるならば私も同意できる。 だが、経営権は挑戦受けてこそ企業が成長できる。 サムスンがうまくいくことは韓国にも良いことだ。 だが、サムスンにとって良いことが韓国に良いこととは限らない。

(キム)韓国の進歩陣営に話したいことがあるか?

(チャン)保守は守るべき利害関係があるので、食べ物があるので容易に団結する。 進歩は自分と意見が違う友達から先に抹殺するようだ。 いささかでも理論や意見が違えば抹殺するようだ。 進歩団体の中で社会的影響力を持ったところがない。 参与連帯にしても影響力も動員力もない。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時期に多くの市民団体関係者たちが参加したことが今日の問題まで続いていると見る。 カン・ジュンマン教授が書いた『礼儀をわきまえない進歩』のサブタイトルは「進歩の最終執権戦略」だ。 (私は)進歩が執権の夢を捨てるべきだ(と考える)。 俗に言う進歩だと言いながら、民主党が執権をしようとして毎度のように短期的で短見的な戦略を使っている。 そのためにより一層駄目にしている。 進歩は執権の夢を当分は引っ込めて、いっそ第3の選択、代案を構築することに力を注ぐべきだと見る。 民主党は進歩という考えを捨てた。 さらに経済問題で正義をどのように見るかをよく考える必要がある。 進歩が一般国民に向かって、我々が指向する、我々の社会の究極的な目標が何かを異常ではない現実をもって提示することが必要だ。

(キム)多くの進歩がピケティ教授の本「21世紀の資本論」を肯定的に評価している時、チャン・ハソン教授が唯一韓国には合わない話だという批判を展開した。 このような状況に便乗したチェノミクスに対してはどう思うか?

(チャン)ピケティ教授は長期に亘って所得について研究してきた。 所得不平等の改善(方案)は、我々がよく知っているように累進税だ。 それでは、資産不平等の改善のためには韓国では財産税を通じてなされている。 所得不平等は累進税を改善しようという提案が出てきているが、資産不平等改善のために資本税(wealth tax)を主張している。

 ピケティ教授は、資本税を主張しながらユートピア的な思考だとも言っている。 全世界の国家が金融情報を共有してこそ可能になるためだ。 韓国では絶対的に所得不平等が問題だ。 ピケティ教授の本により火が点いた不平等に関する論争が、累進税や金持ち増税などで沸き立つべきなのに、資本税論争をしていてもどかしかった。 再分配問題ではなく分配こそが韓国の問題だ。

 基本的分配である労働所得が、最近15年間に悪化している。 経済は成長しているが労働所得は上がっていない。 ところが韓国の進歩は、豊かな暮らしをしている国の不平等を語っている。 成長の結果が労働に渡されず企業に入っている。

 ピケティ教授が豊かな暮らしをしている国でも不平等の深化が進んだと明らかにし、資本主義の問題点を示したという点では意味がある。 だが、資本税論争をすることは、韓国社会(の現実)に基づいていない。 このような側面からチェノミクスは話にならない。 企業の配当に対する減税が消費を増やすかと言えば疑問だ。 また、企業所得に対して投資が少なければ課税するということ(企業所得還流税制)もやはり、導入しても税金を払う企業がいくつにもならないだろう。

(キム)資本主義を正す方法として政治を語った。 だが、失敗を経験したことがある。

(チャン)失敗したのではなく成功できなかったのだ。 今まで生きてきて追いかけてきた虹を今後も追い続けるだろう。

イ・ジョンフン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/660335.html 韓国語原文入力:2014/10/17 20:41
訳J.S(5775字)

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