数えきれない程おかしな人に会って、歯ぎしりする思いをしたが、感情労働者は概してひとりだけを記憶する。 心理治癒専門企業マインドプリズムが行う‘会社員心の健康キャンペーン’-チョン・ヘジンの公開相談室で会ったサービス職労働者もそうだった。 去る8月から感情労働者相談プロセスを同行取材してきた<ハンギョレ>は、その中で精神的外傷(トラウマ)を抱いているサービス職労働者3人に深層インタビューした。
コールセンターで仕事をするオ・ジヨン(仮名・29)氏には忘れられない‘お客様’がいる。 1年前のことだ。 彼は電話をかけるやいなや某中堅企業会長の家族だと自身を紹介した。 商品が届かないと言うのでその注文番号を入力していると、受話器の向こう側から悪口が襲ってきた。 「ジヨン、お前早く探さないと首を刎ねてしまうぞ。 ジヨン、お前の目玉でビリヤードを打つ前に早く探せ…。」 手が震えてしまって到底注文番号を打てないほどだった。 20分間浴びせ続けられる悪口をぼうぜんと聞いているだけだった。
それで終わりではなかった。 なぜか彼が注文した商品が通関保留中だった。 誰のミスでもなかったのに、そのお客はむやみにオ・ジヨン氏だけに要求した。 「ジヨン、私がお前のためにまったく眠れなかった。 ジヨン、お前はどうしてそんなに無能なの?」きちんと自身を名指ししてののしり叱責する電話を、数日間一日一時間ずつ受けなければならなかった。 商品を受け取ると、そのお客はこの間自身が電話した内容が記録された音声録音ファイルを全て消去することを要求した。
トラウマは暴力の前で弱者が体験する苦痛だ。 問題は加害者には何事もなく、被害者は同様な状況を体験するたびにトラウマが強化されるということだ。 運悪く‘変態’顧客に会っただけだとして簡単に忘れられない理由だ。 ジヨン氏は変わった。 魂が抜けてしまったようだった。 先日、友人がびっくりして尋ねた。 「あんた声がどうかしたの? 自動応答電話機みたいだよ。」
仁川(インチョン)空港販売店のレジで仕事をするキム・スジョン(仮名・32)氏は、40代の女性客が入ってくるのを見た。 腹を立てて入ってくるお客さんを見れば、販売職員の心の中には警戒警報が鳴るという。 そのお客さんは指先で販売職員を呼んだ。 "これ開いて見て。" "ちっとも良くないね、しまって。" 見ていたスカーフを放り投げもした。 お客さんが突然レジに来たのでスジョン氏は微笑を浮かべるタイミングを逃した。 「ここの職員はみんな表情がどうかしたの?」 「申し訳ありません。」 いくら頭を下げてもお客さんの怒りはおさまらなかった。 マネジャーを呼べと言った。 お客さんは搭乗時間が近づくと捨て台詞を吐いて出て行った。 「かわいそうだから許してあげる。 あんたの人生も本当に…」 「その一言で私の人生は本当に崩れた。 今まであくせく生きてきた人生がまるごと否定されたようだった」とスジョン氏は話した。
顧客に精神的に傷つけられた感情労働者の心理状態は、家庭暴力の犠牲者と似ていると専門家たちは指摘する。 仕事のために抱く感情的負担をストレスという。 感情を傷つける暴力や虐待はトラウマという。 健康な人はストレスを発散させようとする。 トラウマを体験した人々はしきりにその時に立ち戻ろうとする。 そんなことが自分に起きなかったことを願う気持ちのためだ。
スジョン氏は女性客が怒ったその場面を頭の中で数百回も反復再生した。 「私がそのような侮蔑を受けて当然な人間だという証拠を自らずっと捜し出そうとしたんです。 私が明るく笑えなかったのでお客さんが怒ったのだろう、私が良い大学を出て華やかな会社に通えば良かったのに・・・。 後日には父親が亡くなって生計を私に委ねた母親を恨んだりもしました。 私の人生、私という人間が嫌いになりました。」 結局、病院を訪れてうつ病の診断を受け、6ヶ月間治療を受けた。
感情労働者がマインドプリズムに送ってきた手紙には「いつからか無礼な相手が来ると、手や声が震えてひどく驚く症状が出るようになった」として身体的異常症状を訴える公務員や、 「親切にしなければならないので絶対に患者に勝とうとしてはいけないという顧客サービスセンター講師の講義を聞いてばかりいる。 中には私を疲れさせた人を見ればそわそわして、時には何の理由もなく腹が立って殺したい熱望が生じたりもする」と告白した病院職員もいた。
顧客センターの管理者として仕事をするパク・ジョンヨン(仮名・32)氏は、新入社員の時ささいな失敗のために顧客に告訴されるところだった。 顧客はこっちに来てひざまずいて謝れば告訴しないと言った。 チーム長と部長が直接彼を連れていって謝らせた。 ひざまずく前に顧客が許したが、親切と歓待でぎっしりと埋まったジョンヨン氏の人生はその日を境に崩れた。 「その時、初めて人を殺したいと思った。 仕事では不満顧客をののしるが、会社を出れば弱者に大声を上げる自分の姿を発見する。」 マインドプリズム チョン・ヘシン代表は「攻撃性は慢性的挫折が日常化される時に出てくる自然な反応だ。 手足が縛られた状態で顧客の感情を受け入れなければならない感情労働者が、外に出て行けば今度は自ら攻撃性を表出することになる」と話した。
"精神的傷が奥深く食い込めば心が傷つき、外へ向かって怒りが爆発」(書籍<ビンタされた魂>)と言う。 生きるために毎日ビンタを張られる人はいない。 感情労働者の精神的外傷をたやすくは認めない社会、人々は仕事場で毎日‘人格的暴力’にさらされているのかもしれない。
ナム・ウンジュ記者 mifoco@hani.co.kr