<インスタグラムは10代の若者にとって「万能」だ。友人と会話するメッセンジャー、動画を見るプラットフォーム、ニュースなどの社会問題や歴史情報を得るためのルートの役割をすべて担っている。まさに世界を見る「窓」だ。その空間に、ここ1~2年で極右的な世界観が浸透しはじめている。様々なヘイトや嘲笑コンテンツ、フェイクニュースなどがあふれている。ユーモアとミーム、洗練された美学を武器としているので、さらに危険だ。ドイツや米国などでは、インスタグラムが青少年や若年層を極右勢力に引き込む「関門」になって久しい。ハンギョレのDstory(ディーストーリー)チームは、データにもとづいてインスタグラムのエコシステムを分析し、10代の青少年に対してアンケート調査と深層インタビューを実施した。編集者注>
「本日の主人公、お誕生日おめでとう!」 電車の奥、薄桃色の手書きのプラカードの前で白髪の男性がうつ伏せになっている。地下鉄とホームの間では、ろうそくに火がともったピンクのケーキが不自然に宙に浮いている。誕生会の主役は、全国障害者差別撤廃連帯(全障連)のパク・キョンソク代表。全障連の通勤ラッシュ時の地下鉄乗車デモの写真を加工し、人工知能(AI)で作成した「ミーム」(オンライン流行コンテンツ)だ。インスタグラムの「リールドジ」というアカウントにこのミームが投稿された8月8日は、パク代表が43年前に事故で両脚が不自由になった日だ。
インスタグラム内でこの投稿は、「紙飛行機」のようにあちこちを飛び回った。DM(ダイレクトメッセージ)で3万3000回共有された。障害者に対する深刻な差別的嘲笑が、ミームという「仮面」をかぶると、ユーモアに化けた。6000近く「いいね」が押された。投稿に付いた582件のコメントのうち、90件は「面白い」という内容だった。このようなコメントに再び「いいね」を付けたアカウントは3500件にのぼる。
ミームの力だ。 一般に「チャル」と呼ばれる合成写真やスクリーンショット(キャプチャー)画像、映画やマンガなどの原作のひねり、「30代会社員の近況.jpg」のような流行語を使ったタイトルなどを総称して「ミーム」という。ミームは「笑い」を誘発するために存在する。ユーモアは、イルベ(日刊ベスト貯蔵所)などのオンラインコミュニティーが追求する本質的な欲望だ。米国では、オンラインサイト4chanなどを通じて「オルタナ右翼」が政治勢力として結集する過程で、「ミーム」が若者を集める役割を果たした。
2024年12月の非常戒厳宣布以降、インスタグラムでは「ミーム」に代表される軟化した(柔らかな)極右コンテンツがあふれている。大衆文化コードの共有を通じて相手を認識し、くすくす笑いながらそれを拡散させる「極右のコミュニケーションのエコシステム」が構築されているのだ。
ハンギョレはインスタグラムで何が起きているのかを、データ分析を通じて数字で確認した。極右系コンテンツを活発に投稿している48の主なアカウントの2年分の投稿3万2150件、投稿に添付されたイメージ・動画ファイル6万5000件あまり、ハッシュタグやメンションのような詳細データ200万件などを収集して分析した。その結果、ミームやカードニュースを強力な武器として強まりつつある「インスタグラム極右エコシステム」の一端が明らかになった。
リールドジや自由大学など、インスタグラムの極右の48の主なアカウントによる2024年9月から2026年9月までの3万2150件の投稿を形式で分類したところ、カードニュース(53.7%)が半数以上を占めた。ミームが17.4%で2位だった。イメージを基盤とするプラットフォームの特性上、カードニュースとミームが最も強力な宣伝道具になっているわけだ。
2016年の朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾を機に結集した「太極旗部隊」は、極右ユーチューブ・エコシステムの土台となった。中高年層が主に視聴するユーチューブチャンネルでは、確実な「味方」をターゲットにして明快な文法を用いる。陣営論理によって保守と進歩のチャンネルで二分される構造だ。
2024年12月3日の非常戒厳宣布以降に形成されたインスタグラムのエコシステムは、ユーチューブとは異なる。流通している極右コンテンツの中身を見ると、ユーチューブとの大きな違いはない。しかしコンテンツの形式は、若者を取り込もうという目的意識がよりはっきりしている。ユーチューブの露骨で悲壮な話し方に比べて隠喩的な、あるいは洗練された文法を追求しようとしている。インスタグラムの極右エコシステムが既存のユーチューブの極右エコシステムと最も異なる点は、「何を」伝えるかではなく、「いかに」伝えるかを重視しているところだ。
非常戒厳以降、極右ユーチューブチャンネルも若者に積極的に呼びかけ、取り込もうとしているという傾向が見られる。民主主義や公正など、過去の民主化運動勢力の言説も積極的に自らの資源として取り込もうとしている(キム・ジョンウ「12・3非常戒厳事態直後の極右ユーチューブチャンネル」)。ユーチューブやインスタグラムなどの複数のニューメディア・プラットフォームで、青少年や若年層を対象とした新たな極右政治の文法が作られているというわけだ。
■ミーム:極右を軽く見せる文法
インスタグラムでは、「瞬間」の視線を素早く奪うことが重要だ。テキストベースのフェイスブックやXなどとは異なり、インスタグラムでミームという形式が効果的な理由はそこにある。ミームは理性や論理というより感性を攻略する。しかも、笑いを誘う文化的コードと組み合わされたミームは、どれほど非倫理的な内容を含んでいても、見る人の拒否感を大きく和らげる。
それを利用している代表的なアカウントがリールドジ(フォロワー14.1万人)だ。48のアカウントの投稿1件あたりのコメント数と「いいね」数を算出したところ、リールドジは平均8万980件で圧倒的だった。2位の「自由を目指す太極旗」(フォロワー3.9万人)は1万4616件、3位の「政治マッドムービー」(フォロワー5166)は1万2882件だった。リールドジの投稿に常連として登場する人物は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長、中国の習近平国家主席、李在明(イ・ジェミョン)大統領ら。単なる風刺ではない。例えば、先日、性平等家族部長官候補に指名されたものの辞退した基本所得党のヨン・ヘイン議員の髪型に、金日成(キム・イルソン)や習近平の顔をAIで合成する、といったものだ。北朝鮮や中国と結びつける典型的なレッテル貼りだ。
ミームはヘイトと憎悪を合理化する手段だ。とりわけ障害者や女性などの社会的弱者集団は、嘲笑の対象になりがちだ。データ分析の結果、暴力を美化または擁護する投稿の50%、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を嘲笑する投稿の76%に、「ミーム」という形式が用いられていた。
「いいね」などのユーザーの反応を大きく引き出す効果も狙っている。実際のところ、同じアカウントが似たような内容を「カードニュース」として投稿した時と、「ミーム」で投稿した時とで、ユーザーの反応に違いはあるのだろうか。それを調べるため中国、北朝鮮、労働組合や市民団体、女性やフェミニストなどの特定の集団を嘲笑または非難する7654件の投稿を分析した。正確に比較するため、同じアカウントによる同じ月の似たようなテーマの投稿のみを抽出した。分析の結果、同じようなテーマであっても「ミーム」投稿は、情報伝達を主とする「カードニュース」投稿に比べて「いいね」が1.25~1.72倍ほどついていることが確認された。
■カードニュース:極右を主流のように見せる文法
インスタグラムの極右アカウントで最も一般的な投稿形式はカードニュースだ。カードニュースは、既成の報道機関や政府機関などが長文の記事や複雑な内容を圧縮して伝えるために用いる方式。一般的に、テーマがよく表現されている1枚の写真に短い見出しを付けた配置となる。すっきりしたデザインがポイントだ。客観性を強調するためだ。カードニュースという形式そのものだけで、投稿内容が事実であるかのような錯覚を引き起こす。カードニュースを主に投稿している自由大学やヒップハブなどのアカウントが狙っているのはそれだ。2025年12月3日に自由大学が投稿したカードニュースの見出しは「合法戒厳1周年」だった。
3万2150件の投稿を全数分析したところ、韓国国内の外国人の増加に対する懸念を含む投稿の44%、中国人ヘイトや「反中」感情に関する投稿の33%がカードニュース形式だった。一見すると客観的で洗練されているように見える「包装紙」は、内容の偏向性を隠す。「中身」は、外国人に対する排他主義などの極右的な価値観を強めるものだ。事実であるかのように装った極右思想はたやすく広まる。中国に関する内容を扱ったカードニュース形式の投稿を10件サンプルとして選び、投稿に付いた2万2396件のコメントを分析したところ、中国を一方的に非難したり中国人を嫌悪したりするコメントは約30%にのぼった。単純な暴言などは除いた数値だ。延世大学社会発展研究所のキム・ジョンウ研究教授は「極右勢力は『私たち』と中国、北朝鮮、外国人といった『彼ら』との境界を強調するというやり方で排他主義を強める」として、「極右アカウントは、主流ニュースメディアと同様のスタイル(カードニュース)を採用することで、事実性と客観性という外見をまとっている」と語った。
ハンギョレが分析対象とした「インスタグラム極右エコシステム」の内部では、約73万3800件のアカウントがつながっている。主な48のアカウントとフォローまたは被フォローの関係にあるアカウントの数だ。しかし投稿は、エコシステムの外にいる「つながっていない」人々にも広がっていく。だからより危険なのだ。3万2150件の投稿のうち、コメントが3000件以上付いているものを無作為に10件抽出し、コメント(計4万5170件)の作成者を分析したところ、ほとんどがエコシステムの外にいる人々だった。48アカウントのどれもフォローしていない人たちが、コメント作成者の70%ほどを占めていた。
インスタグラム内で極右系コンテンツに接しているのは、密かに、しかし確実に「普通の人々」の方が多くなっているということだ。ミームとカードニュースという強力な武装の効果だ。