29日の韓米首脳会談の開始時、李在明(イ・ジェミョン)大統領は米国のトランプ大統領に「韓国が原子力潜水艦の燃料の供給を受けられるよう、大統領には決断していただきたい」と述べた。全世界に生中継される冒頭発言で、参謀たちも予想していなかった「隠し球」が飛び出したのだ。翌日、トランプ大統領は「韓国が原潜を建造することを承認した」と発表した。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代からの韓国の度重なる要求にも数十年間もぴくりとも動かなかった米国から、大統領の公式の「承認」が飛び出すという、驚くべき「ドラマ」が演出された。
■原潜、盧武鉉以来の民主党政権の夢
盧武鉉大統領以降、韓国の民主党政権は原潜(SSN)の導入を絶えず推進してきた。北朝鮮の核能力の高度化に対する対応であり、「自強」を念頭に置いたものだった。しかし、米国は核拡散の懸念を理由にまったく応じなかった。原潜は核兵器を搭載する潜水艦ではなく動力に原子力を用いる潜水艦だが、敏感な戦略兵器に分類される。李在明大統領も6月の大統領選挙の公約集に「原潜建造」を入れようとしていたが、悩んだ末に入れなかった。当時、国内政界で台頭していた「核武装論」に対する米国の疑念が高まったことで、韓国がセンシティブ国に指定されたことを考慮した決定だった。
この事案に詳しい消息筋の説明によると、原潜については今年8月のホワイトハウスでの韓米首脳会談を前に、大統領室で改めて論議がはじまった。李大統領は就任後、米国に無理な対米投資を要求されて関税交渉を準備している際に、米国に与えるものがあるなら、韓国も確保するものがなければならないと注文したという。
大統領室は議論の末、ウラン濃縮と使用済み燃料の再処理とともに、原潜建造に必要な燃料の供給を交渉のテーブルに載せることを決めた。ある外交消息筋は、「公約集には入っていないが、とにかく陣営内でこのような議論が非常に熟していたし、大統領もこれに関する事案を詳細に知っているので、急速に進展した」と語った。
■8月の首脳会談でもトランプは肯定的な反応
李在明大統領は8月25日のホワイトハウスでの首脳会談でも、トランプ大統領に韓国のウラン濃縮と使用済み燃料再処理、原潜建造の必要性を訴えた。トランプ大統領は肯定的な反応を示したという。だがその後の実務協議では米国側が様々な面で難色を示し、進展していなかった。
最終的に「トップダウン」での首脳同士の決断が必要だと判断した李在明大統領は、メディアで公開される首脳会談の冒頭発言で、自ら解決に乗り出した。李大統領による「誤解があるようだ」、「以前にすでに支持してくださったと理解しているが、実質的な協議が進展するよう指示してくだされば、より迅速に問題が解決できる」との発言には、そのような背景がある。
ただし、トランプ大統領がソーシャルメディアで韓国の原潜建造を承認するとしつつ、ハンファオーシャンが買収した米国のフィリー造船所で建造することになると述べたことについては、懸念もある。米国内の造船所で建造して運んでくることになるわけだが、そうなると「米軍が保有する最も敏感で最も厳格に保護されている技術」(AP通信)と評される原潜関連技術を、米国が果たして韓国に提供してくれるのか、韓国は製造技術を蓄積できるのかが不確実になる。
■「韓国が中国けん制に関与」と中国が認識する可能性も
さらに難しいのは、米中覇権競争が徐々に激しさを増す中、韓国が原潜の建造と運用を行うと、中国との関係に影響が及ぶことだ。韓国が米国に頼って戦略兵器である原潜を確保、運用すると、中国は米国の中国けん制戦略に韓国が深入りすることになると判断し、対応に乗り出す可能性が高い。