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華やかな住商複合ビル、空室はカンボジアの「犯罪空間」…「韓国人男性多い」

登録:2025-10-15 09:26 修正:2025-10-16 09:22
ルポ|カンボジアのプノンペン「犯罪空間」を行く
ボイスフィッシング犯罪組織が生活・業務空間として使用していることで知られるカンボジアのプノンペンのある住商複合コンドミニアムの外壁に、「売買・賃貸」の横断幕がかかっている//ハンギョレ新聞社

 カンボジアのセンソック地域。低い建物の間に30階建てのホテルがそびえ立つ。場所に似合わない華やかさを除けばこれといった特徴のないホテルには、「賃貸」の表示が中国語で大きく掲げられていた。カンボジア在住の韓国人Pさん(54)がホテルを見上げながら言った。「主に中国のボイスフィッシング組織が階単位で部屋を借りて使用しています。ホテルは空室を減らし、組織は犯罪スペースを安く得る。一種の共生です」。アンコールワットを抱える観光国のど真ん中で、ホテルのロビーを歩いていたのは、旅行には関心のなさそうな日常服姿の数人の中国人だけだった。

 ハンギョレがカンボジアのプノンペンを訪れた14日、雨季の同地の空はさわやかな秋へと向かっていた。混雑した通りと騒音、その間の予期せぬ平穏と親密さは、他の東南アジアの都市と変わらない。カンボジアは「犯罪国家」ではないが、犯罪空間を抱えている場所だった。世界各地を標的とするボイスフィッシング、ロマンス詐欺、賭博詐欺の伝播基地であり、監禁や脅迫を用いて韓国の若者を犯罪に関与させているといわれる空間だ。

14日、カンボジアのプノンペンに近いウォング団地に、塀と鉄条網が設置されている。中にはフィッシング犯罪組織が存在し、韓国人が監禁され、強制労働させられていたという。ホテルやコンドミニアムなどの空室を借りて犯罪空間にすることも多い=チョン・インソン記者//ハンギョレ新聞社

 犯罪空間は変幻自在だ。2010年代に主に中国資本が投じられて作られた華麗なホテルやコンドミニアムの空室が舞台になることもあれば、都市郊外の比較的きれいな集合住宅も、壁と鉄条網で囲われれば犯罪団地に変貌する。プノンペンの中心街の犯罪基地とされるある住商複合コンドミニアムの前で出会った警備員は「多くの韓国の男性が住んでいる。主に20~30代」と語った。フィッシング犯罪組織が密集し、韓国人を標的とする監禁などが行われていたプノンペン周辺の3大犯罪団地の一つとして知られる「ウォング団地」には、普段着姿の2人の警備員が立っていた。「中を見たい」と要請すると、2人は「責任者の許可が必要だ」と言って立ち去った。

 約束された高収益と国外での生活を「新たな挑戦」ととらえた若者たちも、このような空間に足を踏み入れたことだろう。外観は平凡だが、中では多国籍犯罪組織と腐敗が横行してる。被害者の若者や現地在留民たちはそのように口をそろえて言った。外交部は今年に入って8月までにカンボジアと関係する330人の失踪、監禁被害の通報例があると明かす。8月の時点で、そのうち80人あまりの安全が確認されていない。

 20代半ばの若者、Aさんもハンギョレに、膨れ上がった借金を返すために8月初めにカンボジアに足を踏み入れたと語った。オンラインカフェで「チャット広告業務をすれば月300万~500万ウォン稼げる」という広告を見た。カンボジアに滞在した7日間で「3回逃げた」という。Aさんは、初めて訪れたシアヌークビルのある組織がチャット広告業者ではなく「ボイスフィッシング」組織であることに気づき、すぐに逃げた。一銭も稼げずに帰るわけにはいかないと考えて、チュレイトム地域やカンポット地域の組織を訪ねたが、実態に気付いて再び逃げ出した。

 彼が経験した犯罪空間は想像を絶するものだった。犯罪はすでに事業や業務のような体系が整っていた。勤労契約書を書かされ、契約期間は1年だと言われた。いずれも「合法的な正常業務」として宣伝されていた。果ては、最後に訪ねたカンポット地域の組織は、「我々は韓国企業だ。今いるところで働いていると撃たれて殺されるから、ここに逃げてこい」と言ってAさんを引き入れた。その企業が数年間ロマンス詐欺を続けてきた犯罪組織であることは、入ってようやく知った。「組織員だけで1500人にのぼると豪語していました。警察から逃れたり癒着したりしながら企業みたいに規模を拡大してきたんです」。Aさんは言った。

プノンペンのウォング団地の出入口に、中国語で「部屋貸します」という宣伝文句の記された横断幕が掲げられている=チョン・インソン記者//ハンギョレ新聞社

 Aさんはすぐに足抜けしたが、脱出を自ら拒否する人も少なくないという。すでに犯罪に加担してしまったため取り返しがつかないと判断するからだ。カンボジアでの勤務経験を持つある警察官はハンギョレに、「被害者が『監禁されていたわけではない』、『稼ぎ続ける』と主張するケースが一番もどかしい」として、「犯罪に加担したため処罰されると組織に吹き込まれるものだから、自ら脱出を放棄する」と語った。

 プノンペン最大の繁華街、ボンケンコン地域で出会ったカフェの店員は、ハングルでいっぱいになった練習帳を見せながら明るく笑った。「韓国語、勉強しています」。在留韓国人たちは、このような人々の暮らす国、カンボジアが「犯罪」のみで表象されることを懸念する。ただし、都市のあちこちに入り込んでいる犯罪空間に、韓国とカンボジアの当局が断固たる態度で臨むことを願っていた。「先月、ある韓国人がこのカフェから出て行ったところを中国人に拉致されたんです」。現地に住むPさんは、店員の笑顔を背にして低い声で言った。

プノンペン/チョン・インソン、パク・チャンヒ、チョ・ヘヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1223389.html韓国語原文入力:2025-10-15 05:00
訳D.K

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