韓国西部発電泰安(テアン)火力発電所の下請け労働者のキム・チュンヒョンさんが機械に挟まれて死亡した事故以降、下請け労働者に対する安全管理が形式的で不十分な事例が続々と明らかになっている。西部発電-韓電KPS-2次下請け業者とつながる雇用構造において、下請け労働者たちは、元請けや下請けの事業主によって危険な作業を「1人で」行うよう放置されているだけでなく、安全管理責任を押し付けられていると主張する。「危険の外注化」にとどまらない「責任の外注化」が行われているということだ。
9日に「泰安火力発電所での故キム・チュンヒョン非正規労働者死亡事故対策委員会(対策委)」が公開した、韓電KPS泰安火力発電所の2つの下請け企業(機械・電気)が作成した「作業前安全会議(ツールボックスミーティング)」の日誌を見ると、「危険作業」に労働者が1人であたっていた事例が多数見つかる。韓電KPSは工事設計書に「有害・危険作業」として高所作業、高温/高圧機器および蒸気近接作業、重量物取り扱い作業、充電部近接作業などをあげている。
具体的には、2022年3月の発電設備周辺の非常照明などを交換する作業は有害・危険要因として「感電」、「墜落・落下」、「狭窄(きょうさく)」が指摘されているが、作業者欄に記されている名前は1人で作業にあたっていたことを示している。電気分野の下請け業者の労働者Aさんは「照明は普通は2メートル以上の高さにあり、さらに高いものは4メートルだが、1人ではしごをもって作業することが多い」と話した。今年5月に行われた、発電設備に空気を送るコンプレッサーに油を補充する作業も、「油漏れによる滑り注意」や「挟まれ注意」が危険要因として指摘されている。作業中に滑って高速で回転する別の設備に挟まれる恐れがあるということだ。これも作業者は1人だった。日誌の基本様式に記されている「作業責任者の承認なしでの現場離脱、無断作業、単独作業を禁止する」という文言が意味をなしていない。
対策委が公開した日誌には、墜落の危険や重量物が落ちてきて当たる恐れのある別の作業でも、1人だけ配置されている例が多く見られた。韓電KPSはキムさんの事故について、キムさんが唯一の旋盤技術者だったため1人で作業をしてきたと主張しているが、下請け企業が日常的に遂行する危険作業も「1人作業」が多かったということだ。
韓電KPSがこのような1人作業を黙認してきたことも明らかになっている。元請けである韓電KPSや西部発電の工事監督は、工事開始の直前に同日誌に署名しなければならず、日誌には工事監督者の名が記されている。1人で作業にあたっていることを元請けが知らないはずはない。2次下請け業者の労働者Bさんは、「人手不足の中、本来与えられていた作業ではなく(突然)電話で指示される作業もあるため、1人で作業せざるを得ない」と語った。
下請け労働者たちは、2人以上が作業する際にも、作業者の1人を「管理監督者」に指定する「責任の外注化」が行われていると主張する。2次下請け業者は、作業者たちに産業安全保健法の労働者安全保健教育委託機関が実施するオンラインの「建設業管理監督者教育」を履修させたうえで、作業の「管理監督者」に指定している。2人が作業にあたった際は、1人が作業責任者、1人が管理監督者というわけだ。産業安全保健法と施行令の規定する「管理監督者」は特定作業を指揮・監督する者で、機械・器具・設備の安全・保健点検、作業服・保護具の点検・着用・使用の指導、作業で発生した労災の報告と応急処置などの責任を担う。Aさんは「同じように作業しているのに、管理監督者に指定された人は事故が発生したら責任をすべて取らされる。その人に被害が及ぶことを懸念して、事故が発生してもうやむやにするケースもある」として、「安全要員が補充されることもなく、作業者が安全管理まで責任を取らされる構造が問題」だと語った。