韓国の新政権発足が11日後に迫る中、米国のトランプ政権が在韓米軍の削減を検討しているとする米メディアの報道が波紋を呼んでいる。トランプ大統領をはじめとする米国政府の上層部がこのかん、在韓米軍の「中国けん制」用への転換などの根本的変化を推進してきたことを考慮すると、在韓米軍問題は新政権が発足し次第解決すべき最重要課題となるとみられる。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は22日(現地時間)、現在韓国に駐留している約2万8500人の米軍兵力のうち約4500人を、トランプ政権がグアムをはじめとするインド太平洋地域内の他地域へと移転させることを検討していると、複数の国防当局者の話を引用して報道した。WSJは2人の関係者の話を引用して、「この構想は北朝鮮問題を扱うための非公式な政策検討の一環」だとし、「まだトランプ大統領に公式に報告されてはいない」と伝えた。
「4500人削減」はまだ確定したわけではないが、トランプ大統領が1期目時代から在韓米軍の撤退や削減の可能性を強調し続けてきたことを考慮すると、実際に削減が実行される可能性は低くない。
在韓米軍は朝鮮戦争の休戦後の6万人ほどから、徐々に規模を縮小してきた。米国は、自国の戦略的判断と必要に応じて在韓米軍を減らし続けてきており、2007年からは現在の2万8500人の規模を維持している。WSJが述べた削減の検討対象となっている4500人は、全体の16%ほど。在韓米軍は第8軍をはじめとする地上軍兵力が大半を占めており、第7空軍などの空軍、海軍、海兵隊の戦力も含まれている。
韓国の新政権発足の直前のこのような報道は、防衛費分担金の再交渉圧力まで考慮した、米政府側による多くの目的を持つ布石だとも考えられる。「在韓米軍削減」をちらつかせて韓国の新政権に防衛費の大幅引き上げ、中国けん制への同調を迫ることを意図したものと解釈しうる。10日後に発足する韓国の次期政権は、トランプ政権との関税・貿易交渉とともに、在韓米軍と韓米同盟の新たな未来の安保課題に徹底して備え、解決していかざるを得ない。
特に「在韓米軍削減」は、トランプ政権の推進する世界軍事戦略の変更、とりわけ中国けん制の強化という最重要目標とつながっている。米国防総省は今年3月、米国本土の防衛と中国による「台湾占領の阻止」を最優先目標に設定すること、北朝鮮の通常戦力に対する対応は韓国軍に担わせること、在韓米軍を中国けん制用へと転換することを内容とする「臨時国防戦略指針」を内部に指示している。ピート・ヘグセス国防長官は今月2日に国防戦略(NDS)の樹立を指示した際に、米国本土の防衛とインド太平洋地域における中国の封じ込め、世界の同盟国およびパートナーのコスト分担の拡大を優先せよとするガイドラインを提示している。
在韓米軍の中国けん制用への転換は、現在は地上軍中心の防衛軍である在韓米軍の戦力と兵器体系の変化とも連動する。在韓米軍と在日米軍の指揮体系の統合へと向かうにつれ、韓日、韓米日の軍事協力もさらに強化されることになる。韓米同盟の性格そのものが変化するとともに、台湾有事への対応とも連動することになる。
ソウル大学統一平和研究院のチャン・ヨンソク客員研究委員は、「米国防総省は戦略的に大きな変化をすでに進めており、それに伴って朝鮮半島に駐留する米軍の戦力構造と規模を変えつつある。そのことに注目すべきだ」と語る。
韓国国防研究院のトゥ・ジンホ研究委員は、「在韓米軍の削減検討は、米ホワイトハウスなどの当局で海外駐留米軍の削減に関する政策の検討がある程度おこなわれた結果だとみられる。4500人というのは、準備態勢の維持などを考慮して在韓米軍司令部が検討したうえで、米国防総省に提案した規模だと推定される」と語った。トゥ研究委員は「韓国の新政権発足前に在韓米軍の削減を課題化し、今後、韓国に防衛費再交渉を迫る時などに有利な位置を確保するとともに、在韓米軍と在日米軍を統合する『ワンシアター(one Theater)』構想を本格化することを意図したもの」だと分析した。
米軍は最近、群山(クンサン)基地にあった戦闘機F16を烏山(オサン)基地に移動させ、群山には長距離作戦が可能なF35を配備したと報道されている。米国の新たな国防戦略によって、朝鮮半島における軍の配置の変化が実際に目に見えるものとなりつつある。
在韓米軍のブランソン司令官は今月15日、ハワイのホノルルで行われた米陸軍協会(AUSA)太平洋地上軍のシンポジウムで、「韓国は北京と最も近い距離にある米国の同盟国であり、日本と中国本土との間に浮かぶ島、または『固定された空母(fixed aircraft carrier)のようなもの」だと述べた。韓国の戦略的価値を強調しつつも、韓国は最前線で中国をけん制する役割を担うべきだとの意図を公に明らかにしたのだ。台湾有事への在韓米軍の介入の可能性を示唆したものとも解釈される。米国は、在韓米軍の活動範囲を朝鮮半島に限定せず、中国による台湾侵攻や南シナ海紛争などに投入しようという「戦略的柔軟性」を本格的に備えていくとみられる。
しかし、在韓米軍の戦略的柔軟性は韓米同盟の変化を意味するだけに、韓米の協議が必要だ。韓米相互防衛条約の内容をどのように解釈するかとも関係する。ここのところ北朝鮮はロシアとの軍事的協力を強めつつ、核にとどまらず通常の軍事力をも急速に強化している。そのような中、在韓米軍の削減が現実のものとなると、韓米連合の防衛態勢が弱体化するという世論の懸念は高まらざるを得ない。
韓国の立場からすると、韓米同盟が紛争に巻き込まれる危険性と、在韓米軍の削減や撤退の危険性がいずれも高まっている。米国による在韓米軍の中国けん制用への転換の動きが続けば続くほど、米中対立の中で中国の反発と圧力も強まることが予想される。これは、韓国の次期政権の外交安保チームにとって重い課題になるとみられる。
チャン・ヨンソク研究委員は「韓国は、米国の中国けん制戦略を変えることはできなくても、細部では朝鮮半島に及ぼす影響を最小化するとともに、米中衝突に巻き込まれる可能性を低くするために状況を綿密に検討し、慎重に対応すべきだ」と述べた。チャン研究委員は「中国に対しては北朝鮮の抑止に関する内容をよく説明しつつ、北朝鮮の挑発の防止と朝鮮半島情勢の安定をめぐって協力すべき部分を作り出すべきだ」と述べた。
同氏は、とりわけ「韓国の自律的空間を確保することが非常に重要だ」として、「米国がかつてのような『国際警察』役を果たせなくなった中、新政権は戦作権の返還をはじめ、自ら北朝鮮抑止で中心的役割を担う力量の構築に努めることがさらに切実になっている」と強調した。