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尹大統領が復活すれば保守与党「国民の力」が生き延びるという「誤った判断」

登録:2025-03-24 02:28 修正:2025-03-24 11:21
[ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏] 
2016~2017離脱・分裂、2022年政権返り咲き 
尹大統領の弾劾が却下・棄却されたら国民の力は壊滅 
弾劾訴追後、保守結集して極右化は「毒薬」
与党「国民の力」のキム・ギヒョン、ナ・ギョンウォン、パク・テチュル、ユン・サンヒョン、チュ・ギョンホの各議員らが3月21日、ソウル鍾路区の憲法裁判所前で行われた尹錫悦大統領の弾劾の却下を求める記者会見でスローガンを叫んでいる/聯合ニュース

 ドイツの文学者アントン・シュナックの作品に、「私たちを悲しませるものたち」という散文があります。長いのですが、私は特に次の部分に共感します。

 「動物園のおりに閉じ込められ、いら立ってうろつく1匹のトラも、私たちを悲しませる。いつ見ても鉄格子際を行ったり来たりするその動物のぎらついた目、恐ろしげな怒り、苦しみに満ちた咆哮(ほうこう)、前足に満ちた果てしない絶望、狂ったような循環、このすべてが私たちをこの上なく悲しませる」

 私たちを悲しませるものリストにもう一つ加えられるなら、「絶対に死にそうになかった巨人が死に際に叫ぶ場面」を追加しようと思います。まさに12・3非常戒厳以降の与党「国民の力」の姿です。

 私は12・3非常戒厳に大きな衝撃を受けましたが、12月7日に与党議員たちが本会議場に入ってこず、弾劾訴追案を否決させる場面を見て、さらに大きな衝撃を受けました。私がかつて知っていたハンナラ党、セヌリ党とあまりにも違っていたからです。

 国民の力は保守政党です。李承晩(イ・スンマン)の自由党、朴正煕(パク・チョンヒ)の共和党、全斗煥(チョン・ドゥファン)の民正党の後身です。1990年の3党合同で、金泳三(キム・ヨンサム)の統一民主党が保守政党に編入されました。3党合併は野合でしたが、保守に改革の遺伝子が加わったことで、保守は強固になりました。民自党は新韓国党-ハンナラ党-セヌリ党-自由韓国党-未来統合党-国民の力と変遷し、栄辱の歳月を送ってきました。

 国民の力の「全盛期」はいつだったのでしょうか。18年前の2007年でした。金大中(キム・デジュン)大統領、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と続いたことによる疲労感から、民主党の支持率が地に落ちていた時です。ハンナラ党には李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)、ソン・ハッキュの3人の大統領候補がいました。誰が候補になっても大統領に当選しえました。ソン・ハッキュ前京畿道知事が離党し、李明博-朴槿恵の二強構図が形成されました。ハンナラ党は親李明博勢力と親朴槿恵勢力に二分されました。まかり間違えば分裂しかねない危険な状況でした。

 しかし、ハンナラ党には有能な「実務陣」がいました。彼らは勢力争いを路線対決に仕立てあげました。李明博は「実用保守」、朴槿恵は「正統保守」でした。ハンナラ党は、2両の機関車がけん引する列車のようなものでした。

 党内予備選挙では「実用保守」が薄氷の勝利を収めました。「正統保守」は結果に潔く従いました。良い勝負でした。2007年12月19日の第17代大統領選挙で李明博候補は、大統合民主新党のチョン・ドンヨン候補を48.67%対26.14%、実に22.53ポイントの差で破りました。

 2008年4月9日の第18代総選挙の結果は、ハンナラ党153議席、自由先進党18議席、親朴連帯14議席でした。統合民主党は81議席にとどまりました。日本の自民党のように保守が永久に政権を握り続ける可能性もあるとの観測も流れました。

 李明博大統領の失政で、ハンナラ党は5年で政権を譲りわたす危機に直面しました。しかし、ハンナラ党にはもう1両の機関車が残っていました。朴槿恵非常対策委員長はハンナラ党をセヌリ党に改造し、勝負に出ました。2012年4月11日の第19代総選挙で、セヌリ党は152議席を獲得する勢いを見せ、その余勢を駆って2012年12月19日の第18代大統領選挙でも勝利しました。

 そこまででした。2016年4月13日の第20代総選挙で、セヌリ党は122議席で共に民主党に第一党の座を奪われました。総選挙での敗北は朴槿恵大統領の弾劾へと続きました。2016年12月9日の国会による弾劾訴追では、セヌリ党の128人の議員の半数近くが賛成票を投じました。

 2017年5月9日の第19代大統領選挙は、保守にはとうてい勝ち目のない選挙でした。ホン・ジュンピョ、アン・チョルス、ユ・スンミンがいずれも出馬しました。保守の惨敗でした。

 しかし、2016年12月のセヌリ党議員の弾劾訴追賛成という「離脱」と2017年5月の大統領選挙における保守の「分裂」は、5年後に国民の力が政権を取り戻すうえで大切な礎となりました。朴槿恵大統領の国政壟断を批判し、弾劾訴追に賛成した「健全な保守」が存在したからです。

 2022年3月9日の第20代大統領選挙ではホン・ジュンピョ、アン・チョルス、ユ・スンミンの3人が手を組み、尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補の当選を助けました。朴槿恵大統領が2012年の総選挙を前に世代交代の象徴として起用したイ・ジュンソク代表も、それに大きく貢献しました。

 団結は生、分裂は死。この言葉は政治においても真理です。尹錫悦大統領は自らの当選を助けた政治家たちを一人ずつ排除していきました。そして12・3非常戒厳を実行しました。滅びへの道でした。

「国民の力」のハン・ドンフン前代表が3月18日、大邱北区の慶北大学キョンハホールで「改憲、時代を変えよう」をテーマに、青年トークショーをおこなっている/聯合ニュース

 私は国民の力のハン・ドンフン代表(当時)が非常戒厳に反対し、国会本会議場に入って戒厳を解除する場面を見て、彼は「星の瞬間」をつかんだと思いました。彼が保守勢力の新たな大統領候補として浮上しうると思いました。そうはなりませんでした。

 国民の力全体がチョン・グァンフン、ソン・ヒョンボ、チョン・ハンギルらに引きずられ、極右化しています。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。

 政治の二極化のせいです。2022年3月9日の大統領選挙で、保守系の有権者の大半は民主党とイ・ジェミョン候補が嫌いだから尹錫悦候補に投票しました。もちろん、イ・ジェミョン候補に入れた人たちも同様でした。

 今回もそうでした。尹錫悦大統領が罷免されてイ・ジェミョン代表が大統領になることを心配する人々が、弾劾反対の声を上げました。保守が結集しました。国民の力の支持率は上がりました。

 国民の力の議員や党員、支持者たちは喜々として尹錫悦大統領をさらに強く擁護しました。それがまさに「毒薬」でした。

 弾劾反対の世論は弾劾賛成を決して上回れませんでした。弾劾賛成と反対は6対4ほどで固定化しました。国民の力の支持率も同じでした。一時は民主党と同程度になり、しばし追い抜きもしましたが、続きませんでした。

 3月21日に発表された韓国ギャラップの定例調査で、弾劾賛成は58%、反対は36%でした。政党支持率は民主党40%、国民の力36%でした。「政権交代」は51%、「政権維持」は39%でした(中央選挙世論調査審議委員会のウェブサイト参照)。

 国民の力の破産の兆しは、次期政治指導者の選好度を見ればよく分かります。イ・ジェミョン民主党代表36%、キム・ムンス雇用労働部長官9%、ハン・ドンフン前代表4%、オ・セフン・ソウル市長4%、ホン・ジュンピョ大邱市長3%、イ・ジュンソク改革新党議員(元国民の力代表)1%でした。イ・ジェミョン代表を除いた5人を合わせても21%に過ぎません。国民の力で弾劾に確実に賛成するユ・スンミン、アン・チョルスの両候補は名前すらありません。

 キム・ムンス長官が国民の力の中で1位を走っているのはなぜでしょうか。彼は、非常戒厳の前は存在感がほとんどなかった政治家です。12月11日の国会本会議場で国務委員たちが立ち上がって謝罪した際、1人だけ席に座り続けたため、あっという間に極右のアイコンへと上りつめたのです。

//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦大統領の罷免後の早期大統領選挙でキム・ムンス長官が国民の力の候補として出馬したら、当選できるでしょうか。できないとみるべきです。しかし国民の力としては、早期大統領選挙での敗北はそれほど悪いことではありません。負け方に格好がつけば次のチャンスがある可能性もあるからです。

 国民の力が恐れるべき最悪のシナリオは、弾劾が却下または棄却され、尹錫悦大統領が職務に復帰することです。可能性はほとんどありませんが、もし尹錫悦大統領が戻ってきたらどうなるでしょうか。大統領職が遂行できるでしょうか。できません。

 弾劾審判の最終陳述で述べたように、尹錫悦大統領は任期短縮改憲を提案するでしょう。国民は受け入れないでしょう。市民革命が起こるでしょう。尹錫悦大統領はいずれにせよ退陣するしかありません。

 国民の力はどうなるでしょうか。壊滅的な状況に直面することになります。民意に逆らった政治集団は生存が不可能だからです。2004年の盧武鉉大統領の弾劾訴追後のハンナラ党がそうだったように、凄絶に没落するでしょう。早期大統領選挙はもちろん、2026年の地方選挙、2028年の国会議員総選挙、その次の大統領選挙すらも惨敗するでしょう。

 いわゆる保守論客の中には、尹錫悦大統領が戻ってきて、イ・ジェミョン代表の被選挙権が剥奪されるまで耐えていてくれれば、国民の力が大統領選挙で勝てると考えている人がいます。いえいえ。イ・ジェミョン代表さえいなければ民主党に勝てるのでしょうか。めっそうもない。イ・ジェミョン代表以外の候補が大統領選に出馬すれば、国民の力が民主党に勝つのはさらに難しくなります。

 だからです。国民の力が生き延びるためには、保守が生き延びるためには、尹錫悦大統領を捨てなければなりません。そうしてこそ国民の力は、保守は、再生の機会がつかめます。

 早期大統領選挙で敗北してイ・ジェミョン大統領が誕生したとしても、2026年の地方選挙と2028年の総選挙で再起が図れます。その次の大統領選挙で政権を奪還する可能性もあります。

 憲法裁判所の弾劾審判で尹錫悦大統領が罷免されるよう、国民の力の議員、党員、支持者が切に祈るべき理由はここにあります。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1188349.html韓国語原文入力:2025-03-23 09:00
訳D.K

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