「非主流だったチョン・グァンフン牧師はいかにして莫大な資金を動員し、有力政治家たちがへつらうようにさせ、何よりも数多くの人を彼の言うことに従わせることができたのか」
保守プロテスタントの極右化と教会による動員を主たる特徴とする韓国極右勢力の形成、成長、主流化の過程を記録した報告書が発表された。
性的マイノリティー差別反対レインボーアクションと差別禁止法制定連帯は19日、「極右リポート」を発表した。両団体は「12・3内乱事態以降の極右勢力の結集は偶然または突発的な現象ではなく、長きにわたって放置されてきた嫌悪政治の必然的な帰結」だと断言した。
保守プロテスタント集団はこの20年あまりの間、「同性愛反対」と差別禁止法制定反対運動を結集軸として全国の教会ネットワークを動員し、政治的影響力を拡大してきた。彼らの政治勢力化が放置されてきた結果、今の内乱擁護勢力へと成長したというのだ。
報告書は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領弾劾反対集会を主導しているサラン第一教会のチョン・グァンフン牧師を中心に、保守プロテスタントの極右化の歴史を記述する。
報告書の内容を総合すると、保守プロテスタントは韓国の特殊な脈絡である反共主義と政治化した同性愛嫌悪を結びつけた。彼らは差別禁止法制定が公論化された2006年に「同性愛差別禁止法案阻止議会宣教連合」を結成して反同性愛運動を開始。彼らの掲げた反北朝鮮・反同性愛戦略は、2013年に「従北ゲイ」という新造語を作り出してフレーム化された。
報告書は、チョン牧師が勢力を拡大する過程でも反同性愛戦略が功を奏したとしている。「以前から刺激的な扇動と暴言で悪名高かった」チョン牧師は、2007年の第17代大統領選挙の際にある集会で「李明博(イ・ミョンバク)に投票しない人は命の本から消してしまうつもり」だと述べており、極端な発言をはばからなかった。ソウルのソマン教会の長老でもあった李明博大統領候補(当時)は、ソウル市長時代の2004年に、ある祈祷会で「ソウルを神にささげる奉献書」を朗読している。
チョン牧師は、2017年の第19代大統領選挙では「人類を荒廃させる同性愛と差別禁止が大韓民国を没落へと追い込んでいく」と述べて、ホン・ジュンピョ候補を支持した。ホン・ジュンピョ候補は当時のテレビ討論会で、「同性愛のせいで大韓民国にエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)が1万4000人以上まん延している」というフェイクニュースを公然と語った。
報告書は「チョン牧師の政治行動は2019年にファン・ギョアンと組んだことで絶頂を迎えた」と記している。ファン・ギョアン元首相は、首相時代にも自らが開拓した教会の伝道師の資格を維持していたほど熱烈な保守プロテスタントだ。
報告書の分析によると、チョン・グァンフンとファン・ギョアンの連合はその後、2019年に光化門(クァンファムン)で行われた「チョ・グク長官退陣要求集会」や「文在寅(ムン・ジェイン)退陣徹夜国民大会」など、保守プロテスタントを中心として大規模動員を行う極右集会へとつながった。チョン・グァンフンは「ファン・ギョアンを立てたのは神」だとして、彼が大韓民国の次期指導者となるよう祈願した。彼らは2020年8月15日の「文在寅弾劾8・15国民大会」を主導することで極右集会を広げた。
また報告書は、2010年代から性的マイノリティーに対する保守プロテスタント信者の暴力行為がまん延しはじめたと指摘する。2014年にソウル市が開催したソウル人権憲章公聴会は、「性的指向による差別を禁止する人権憲章の制定に反対する」として暴れた保守プロテスタント信者によって修羅場となった。それ以降、全国のクィアフェスティバルにも、保守プロテスタントによる組織的な妨害工作と集会がついて回った。
報告書は、同性愛反対は保守プロテスタント全般に「最重要の動員手段」かつ「レトリック」として位置づけられたことで、次第に極右的傾向がプロテスタント界全般へと広がっていくという現象が起きたと分析する。多くの教会や教団がチョン牧師のような過激主義者の過激な発言と行動に内部的には反感を抱き、表面的には距離を取ろうとしたにもかかわらず、同性愛反対という共通基調の中、結果的に彼らの極右的な扇動のあり方を黙認したり、間接的に支持したりする様相を呈したということだ。近ごろチョン牧師と極右勢力の主導権をめぐって対立している釜山の(プサン)セゲロ教会のソン・ヒョンボ牧師も昨年10月、23万人(警察推計)が参加する差別禁止法反対集会を開催し、プロテスタント界の注目を集めている。
報告書は「結局、韓国において極右政治が主流化する過程には、反共主義から出発し反差別、反マイノリティー議題を中心動力として成長してきた保守プロテスタントが存在する」として、「彼らは周辺部にとどまることに満足せず、民主主義制度への進出を試みつつ、同時に制度を脅かし破壊する」と警告している。そして「極右勢力化の流れと戦略を正確に理解し対応しなければ、性的マイノリティーをはじめとする社会的マイノリティーの権利だけでなく、自由と平等という民主主義の根幹が絶えず脅かされることになるだろう」と続けている。