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韓国メディアは無価値な自分と闘っていない【コラム】

登録:2026-05-04 03:03 修正:2026-05-04 06:56
イ・ジェソン|論説委員
李在明大統領が謝罪と訂正報道を求めた2021年10月9日付の東亜日報の「大庄洞のあの方」に関する記事//ハンギョレ新聞社

 李在明(イ・ジェミョン)大統領が謝罪と訂正報道を求めた東亜日報の「あの方」報道は、韓国メディアの病弊をタイプ別に展示するモデルハウスのような記事だ。物証のない伝言報道、ターゲットを決めて追いつめる標的報道、取材源の不明な「幽霊」報道、なかなか訂正報道や謝罪をしない慣行など、あらゆる問題が1本の記事に万華鏡のように展開されている。

 この記事について、2021年に大庄洞(テジャンドン)第1期捜査チームを率いていたソウル中央地検のキム・テフン第4課長(当時。現大田(テジョン)高検長)は、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)の政治検察によるでっち上げ起訴に対する国政調査」に出席し、重要な証言をおこなった。東亜日報が報じたキム・マンべ氏の発言(「天火同人1号の配当金の半分はあの方のもの」)は、いわゆる「チョン・ヨンハク音声記録」にはなく、あの記事が「大規模な誤報」であることを当時の出入り記者団の幹事を通じて伝えたというのだ。しかし東亜日報が記事を訂正していないのはもちろん、他のメディアも追随記事を相次いで発表し、「あの方=李在明」というフレームが瞬く間に形成された。担当の次長検事の「事実確認」さえ無視するほどの強い予断を、大半の既成メディアがすでに抱いていたと考えざるを得ない。「チョン・ヨンハク音声記録」の全文が公開され、「あの方」発言が存在しないことが確認されてからも、それらのメディアが記事を訂正することはなかった。確認された事実を無視するメディアを、果たして言論機関と呼べるのだろうか。

 当時も今も、多くのメディアはキム・テフン高検長の肉声をほぼ完璧に「ノイズキャンセリング」処理している。キム高検長の証言だけでなく、国政調査そのものを扱っていないし、あるいは扱ったとしても政争扱いしている。共に民主党に抗議する元・現職の検事の主張や、既存の証言を維持するサンバンウルの関係者の発言は使い、検察の起訴事実を覆す証拠や証言は使用しない。20代大統領選挙の際に大きく波紋を広げた、尹錫悦候補の父親の自宅をキム・マンべ氏の実姉が購入する取引にパク・ヨンス弁護士が関与していたことを、ナム・ウク弁護士が証言したにもかかわらず、どこも冷淡な態度だ。パク弁護士は、いわゆる「大庄洞50億クラブ」のメンバーで、キム・マンべ氏の紹介で釜山貯蓄銀行のブローカーのチョ・ウヒョン氏の事件を受任し、担当検事だった尹錫悦を通じて捜査をやめさせた疑いが持たれている当事者だ。ついに真実を明らかにする手がかりがつかめたにもかかわらず、メディアはまったく関心を示さない。

 韓国メディアの偏向は珍しくはないが、今回は露骨すぎて改めて驚かされる。特に、正義と人権の守護者であるべき検察が証拠を改ざんし、人権を蹂躙(じゅうりん)していたことが明らかになったにもかかわらず、集団で沈黙するメディアには、その存在意義を問わざるを得ない。せっかく提起された「チョン・ヨンハク音声記録」の改ざん(「チェチャンイ兄さん」から「室長」に改ざん)だけでなく、ポン・ジウク、ハン・サンジン両記者の通話の音声記録やショートメッセージの改ざんの暴露、サンバンウルの「キム・テギュン会議録」改ざん疑惑も、いとも簡単に無視している。人権蹂躙の過剰捜査に対する問題提起も同様だ。尹錫悦名誉毀損の疑いで2年間苦しめられた末、最終的に嫌疑なしとされたキム・ウチョル元民主党専門委員は、「弟の配偶者の実兄まで通信照会されたり、1カ月もたたないうちにマンションに出国禁止のシールが貼られたり、90歳近い母の寝室まで家宅捜索されたりした」と憤りをあらわにした。検察に積極的に協力したサンバンウルのキム・ソンテ元会長でさえ「検察は私の家族や同僚、17人もの人を拘束した。実弟、妹の夫、従兄、30年共にした同僚も、みな捕らえた」と述べ、連座制捜査を批判した。にもかかわらず、多くのメディアは一貫して沈黙している。党派性にとらわれ、真実や人権を無視するメディアは、果たして言論機関なのか。拘束された被告人(ナム・ウク)を拘置所に戻さず、検察の拘置監に事実上監禁していたことが明らかになっているにもかかわらず報道しないのは、人権蹂躙を容認するとの意思表示に他ならない。

 尹錫悦政権の検察による証拠改ざんと人権侵害は、軍事独裁時代のスパイ工作とどれほどの違いがあるのか。肉体的拷問が精神的拷問へと変わり、鉄拳統治が法権統治へと進化したにすぎず、あらかじめ書いておいたシナリオ通りに甘言や強要で存在しない罪を作り出すでっち上げであったという本質に変わりはない。社会的に恥をかかせ、周囲を徹底的に洗い出す反人権的な捜査手法は、中央情報部や安全企画部よりもはるかに残忍だ。

 独裁政権が投げた餌を追いかけて犬のように走り回っていたあの時代のメディアと、強大な権力機関となった検察が指し示す方向へ競争するように走り回ったメディアに、どれほどの違いがあるのか。権力機関を監視しけん制するどころか、自発的に捕らわれ、違法行為にさえも目をつぶるメディアに、存在価値があるのか。検察が怪物になるまでの過程に対し、メディアには責任がないと自信を持って言えるのか。韓国メディアは、話題のドラマのタイトルとは裏腹に、無価値な自分と闘っていない。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジェソン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1256626.html韓国語原文入力:2026-04-30 14:49
訳D.K

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