憲法裁判所は19日にも尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾事件の評議をおこなったが、判決の言い渡し期日を指定できず、来週に持ち越される可能性が高まった。判決が遅れるにつれ、与党では「却下」決定を主張する声が高まっているが、法曹界からは「棄却を主張できないことから出てきている苦肉の策」だとの分析が示されている。
「却下」とは、訴訟手続きに明らかに欠陥があり、本案を検討する必要もないと判断された際に下される決定だ。与党「国民の力」の議員はここのところ、却下を主張して憲法裁の前でリレーデモをおこなってもいる。しかし、尹大統領の弾劾は憲法裁判の手続き上、却下されるほどの問題点は見当たらないというのが法曹界の大方の見方だ。
与党と尹大統領の支持者たちは、弾劾訴追事由から内乱罪が撤回されたことで弾劾訴追の同一性が失われたため、それが却下事由になると主張する。だが朴槿恵(パク・クネ)元大統領のケースでも、国会は収賄罪や強要罪も事由に含めて弾劾訴追案を可決したが、弾劾裁判はそれを除外して行われている。現在は国民の力の院内代表を務めるクォン・ソンドン議員が、当時は国会の弾劾訴追委員長を務めており、朴元大統領の弾劾を主導した。
また憲法裁は、訴追事由を議決書体系に拘束されずに職権で判断する。「憲政回復のための憲法学者会議」も先月、憲法裁に提出した意見書で、「憲法裁は請求人(国会)が主張した法規定以外の関連法の規定に則って、弾劾の原因となった事実関係を判断できる」と説明している。
非常戒厳の宣布は大統領の統治行為であるため、司法審査の対象ではないということも、却下主張の根拠とされる。尹大統領が非常戒厳の直後から強弁してきた内容だ。しかし、統治行為だという理由で違憲的行為が免責されるわけではない、というのが確固たる判例だ。憲法裁は1996年、金融実名制緊急命令の違憲確認事件で、「いわゆる統治行為を含め、すべての国家作用は国民の基本権的価値を実現するための手段だという限界を必ず守らなければならない」として、「この事件の緊急命令は統治行為であるため憲法裁判の対象にはなり得ないとの主張は受け入れられない」と判断を下している。
元憲法研究官の成均館大学法学専門大学院のイ・ファンヒ教授は、「盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の2004年のイラク派兵事件で憲法裁は統治行為を唯一認めているが、憲法上、法律上の手続きを守らなければならないという但し書きがあった」と説明した。また「たとえ戒厳宣布が統治行為だとしても、国会と選挙管理委員会に戒厳軍を投入した行為はその後続行為であるため、統治行為とはみなしがたい」と指摘した。
結局のところ却下を主張する流れは、尹大統領の弾劾が棄却される可能性が薄い中で与党が新たに取った戦略に過ぎない、というのが法曹界の見方だ。慶煕大法学専門大学院のチョン・テホ教授は、「すでに法曹界ですべて克服されている理論を引っ張りだしてきて却下を主張している」とし、「棄却理由が不十分だと考えられるものだから訴訟要件に言いがかりをつけよう、という意図があると読み取れる」と指摘した。