韓国政府の専攻医に対する行政処分計画の全面撤回は、5カ月近く続く医療の空白がさらに長引くことを防ぐための苦肉の策だ。しかし、同時に政府が専攻医の復帰を誘導するために打ち出した研修特例案は、問題視されていた非首都圏と必須科目の専攻医の離脱現象を強める恐れがあるとの懸念も示されている。
チョ・ギュホン保健福祉部長官は8日の医師集団行動中央災害安全対策本部(中対本)のブリーフィングで、復帰するかどうかとは関係なしに、すべての専攻医に行政処分を下さないとの決定について、「6月4日の行政命令撤回にもかかわらず復帰または辞職する専攻医が多くなく、医療の空白が続いているため下した決断」だと述べた。政府は医学部の入学定員拡大の発表後、専攻医の反発に各種の行政命令で対応してきた。命令に違反すれば医師免許の停止などで圧力をかけるという考えだったが、専攻医の離脱は5カ月近く続いた。復帰を前提として行政処分を中止するとした先月4日以降も、効果はほとんど見られなかった。今月5日現在で、全国211の研修病院に出勤したレジデントは986人で、全体の9.4%にとどまる。
政府が打ち出したこの日の方針は、大病院の医師人材の空白を最小限に抑えることに重点が置かれている。研修特例案も各病院の専攻医と専門医の確保に焦点が合わせられている。まず、辞職する専攻医は、9月に研修を始める別の病院の下半期の専攻医募集に応募できるようになった。現行の専攻医任用試験の指針などは、研修を中途放棄した専攻医が1年以内に同じ専攻と年次で研修を受けることはできないとしているが、福祉部はこの指針を今年に限って適用しないことにした。専門医資格の取得に支障が生じないようにする特例の導入も検討中だ。研修病院に復帰したものの研修の空白期間が3カ月を超えているため来年の専門医資格の取得が難しい人には、研修期間をさらに3カ月認めたり、専門医試験を追加で受けられるようにするなどの方策だ。
政府の決定によって専攻医がどれほど復帰するかは不明だ。専攻医は医学部増員計画と必須医療政策パッケージの白紙撤回はもちろん、行政処分の全面取り消し、2月の辞職を認めることなどを要求している。政府は、それは受け入れられないとの立場だ。政府はこの日も「行政命令取り消しは考慮しない」と述べた。ソウルのある上級総合病院を辞職した専攻医はハンギョレに、「どうして福祉部が信じられるのか。行政処分を下すか、取り消すかすべきだ」と述べた。
医療現場からは、今回の研修特例の導入はかえって首都圏への医師人材の移動をあおる恐れがあるとの懸念も示されている。政府は下半期の専攻医募集対象科を小児青少年科、産婦人科、胸部外科などに制限していたが、これも解除することを決めた。そのため辞職した専攻医が復帰しても、いわゆる皮膚科、眼科、形成外科、整形外科などの人気の科への専攻医の応募が多くなるとの見通しも示されている。ある非首都圏の国立大学病院の教育・研修担当教授は、「政府は地方医療の生き残りのために(医学部増員を)行ったというが、(9月に専攻医の移動が許されれば)地方にいた専攻医がソウルに流出する恐れもあるというのが事実なので、地方の研修病院は心配している」と話した。
政府の打ち出した対策は、大病院の診療の空白を埋めることに気を取られたものだという批判も出ている。人道主義実践医師協議会のイ・ソヨン企画局長は、「どのような戦略で専攻医の制裁を緩和するかが最も急がれる政府対策ではない。研修生である専攻医が抜けたら診療が40~50%減少するという非正常な上級総合病院を根本的に改革する方策を打ち出すべきだ」と述べた。